労働新聞 2003年12月5日号 トピックス

世界のできごと

(11月20日〜11月29日)

KEDOが軽水炉建設を凍結
 朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)は11月21日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への軽水炉供与事業を12月1日から1年間凍結すると発表した。94年の米朝枠組み合意でつくられたKEDOは、北朝鮮が黒鉛減速炉を閉鎖する見返りとして、核開発が困難な軽水炉建設を約束したものだが、米国はことあるごとに口実を設けて軽水炉建設をサボタージュ、北朝鮮は深刻なエネルギー不足に見舞われている。この決定はKEDOの義務違反である。韓国は「1年後に再開できるという前提で中断する」としており、建設中止を主張する米国と違いをみせている。米国は6カ国協議の再開を呼びかけながら、実際は北朝鮮を力でねじふせようと強い圧力をかけている。

6カ国協議再開に向け中朝が合意
 訪朝した中国の呉邦国全国人民代表大会常務委員長は10月30日、金正日総書記と会談。対話を通じた平和的な解決のための6カ国協議を継続することで原則一致した。金総書記は、北朝鮮の核放棄と同国の安全の保証は同時に実現されるべきだと強調し、核の先行放棄には応じない姿勢を改めて示した。中国側も、北朝鮮の主張に一定の理解を示し、北朝鮮への無償援助を表明した。

イラクの抵抗激化、トルコが派兵中止
 トルコのイスタンブールで11月20日、英大使館が自爆攻撃されるなど、アラブ民衆の米英への怒りが高まっている。イラク国内では12日のイタリア軍への攻撃をはじめ、スペイン軍、韓国軍なども攻撃目標とされるなど、イラクの抵抗闘争が激化している。トルコは7日、1万人規模で計画していたイラク派兵を取りやめた。米国のイラク占領が失敗であることは、だれの目にも明らかになってきており、米国内からの批判、兵士のえん戦気分も高まっている。ブッシュ大統領は27日、大統領選挙のためのパフォーマンスとして隠密でバクダッド入りしたが、イラク民衆の前に立つこともできず、わずか2時間で逃げるように帰国した。アーミテージ米国務副長官も「戦争状態に近い」と認めざるを得ないほどで、イラク全土が戦場と化している。

グルジアのシュワルナゼ政権が崩壊
 グルジアの国会議員選挙でシュワルナゼ大統領与党が第一党になったことに抗議して22日、選挙のやり直しと大統領の辞任を求める野党支持者らが国会議事堂を占拠した。大統領は「非常事態宣言」で武力鎮圧を狙ったが、イワノフ外相を派遣したロシアが武力介入しないことを決めたため、野党勢力は大統領に即時退陣を要求。大統領は23日、辞任に追い込まれた。米国務省は23日、大統領代行となったブルジャナゼ前国会議長への支持を表明した。シュワルナゼ政権は親欧米路線を進めたが、ロシアの電力・ガスの供給制限などを受けて、経済が低迷していた。「地政学上の要」とされるこの地域をめぐって、米ロの干渉が強まっている。

EU独自防衛が具体化へ
 欧州連合(EU)は17日の国防相理事会で、兵器の共同調達・開発などで欧州の防衛能力向上を目指す「EU防衛庁」を2004年に創設することで合意した。合意では来年1月にも準備組織を立ち上げ、夏までに新組織を発足させる計画だ。独仏などは、欧州独自の防衛体制の構築を従来から主張しており、「EU防衛庁」の性格をめぐって、北大西洋条約機構(NATO)による欧州への関与を狙う米国との対立が激しさを増すことも予想される。また、英独仏3カ国は27日までに、欧州防衛の新たな枠組みづくりで合意した。米国寄りだった英国が独仏に歩み寄った形だ。NATOとの共存を明確にしてはいるが、米国はNATOに置き換わる部隊ができることを警戒している。

人民のたたかい

(11月20日〜11月29日)

 米ブッシュ大統領の訪英に対し、英国ロンドンで、11月19日には10万人、20日には20万人の市民・労働者などがイラク戦争への抗議と占領の即時終結を求めるデモを行った(写真)。ロンドン市長もブッシュ大統領を「地球上の生命に対する最大の脅威だ」「もっとも堕落した大統領」と激しく批判している。
 韓国の民主労総は12日、ストを口実に経営側が労組側に総額約1400億ウォン(約140億円)の損害賠償請求をしていることに抗議し、終日ストライキを打ち抜いた。自動車など主要民間産業と鉄道、電力などの公共部門合わせて120企業、15万人以上がストに参加した。ソウルでの集会には、約1万人が参加、労働者だけではなく、農民や宗教家、学生も多数参加した。
 韓国労働組合総連盟(韓国労総)はソウルで23日、「労組弾圧の中断」などを掲げ「労働者と庶民の生存権を死守する」として、集会を開き、組合員3万5000人が参加した。
 韓国ソウルで19日、農民6万人以上が世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉などによる農業市場の開放に反対して集会とデモを行った。デモ隊は警官隊と衝突するなど、激しい抗議の声をあげた。
 石原東京都知事が「朝鮮人が総意で日本を選んだ」との暴言を吐いたことに対して、韓国の旧日本軍による慰安婦被害者たちが3日、ソウルの日本大使館前で集会を開き厳しく抗議した。
 米国のカリフォルニア州のスーパーマーケットの労働者が医療保険の負担増に抗議して10月11日からストに突入、約7万人が参加した。ストは1カ月半以上も続き、24日には州北部でもストが行われた。全米輸送労組も参加するなど、広がりをみせている。
 ドイツのベルリンで27日、シュレーダー政権が進める大学や公立専門学校の教育予算削減と授業料有料化の動きに反対して集会とデモが行われ、学生や職員など2万人が参加、ベルリン市役所の一部を占拠して抗議した。29日にも1万人、これに先立つ15日にも約6000人のデモが行われている。
 ドイツのヘッセン州で18日、同州の緊縮政策に抗議して、労働者、学生など4万5000人がデモを行った。公務員のボーナスカット、労働時間の延長、人員削減計画や大学の授業料有料化に反対した。
 バーレーンの首都マナマで21日、米国の中東政策やイスラエルのパレスチナ人抑圧に反対して、約1万人が抗議デモを行った。バーレーンには米海軍第五艦隊の司令部が置かれているが、イラク戦争後反米感情が高まっている。
 中米コスタリカの首都サンホセで24日、米国がコスタリカ、エルサルバドル、ホンジェラス、グアテマラ、ニカラグアと進めようとしている自由貿易協定に反対するデモが行われ、約7000人の労働者、農民、学生らが反対の声をあげた。国民は、米国が多国籍企業が自由な活動をするため、各国に規制緩和や民営化の圧力をかけていることに反発を強めている。
 メキシコ・シティーで27日、フォックス大統領の経済政策に抗議するデモが行われ、労働者や農民など10万人が参加した(写真)。大統領は食料品への付加価値税の導入や、電力部門の民営化、貿易の自由化政策などを進め、失業者の増大や農民の貧困化を招いた。

日本のできごと

(11月20日〜11月29日)

邦人死亡も派兵姿勢変えず
 イラク南部に派遣されていた自衛隊専門調査団の1部が11月27日、帰国した。これを受けて小泉首相は、陸自のサマワへの派遣と、航空自衛隊のクウェートへの派遣を年内にも始める意向を表明した。しかし、その直後の29日、イラク北部のティクリート近郊で日本人外交官2人が銃撃され、死亡した。3月のイラク戦争開戦以降、イラク国内で日本人が犠牲になったのは初めて。ほぼ同時期に、スペインや韓国の政府関係者や民間人も襲撃され、米国の協力国に対するイラク人民の反発の強さを示した。それでも小泉は自衛隊の派遣姿勢を変えていない。自衛隊派遣は、さらにわが国をイラク人民に敵対させる道である。

日本の北朝鮮外交、中韓からクギ
 石破防衛庁長官は26日、韓国国防相と会談し「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発問題解決のためには圧力が大切」と強調したが、韓国側は冷静な態度を求めた。28日には、訪中した薮中・外務省アジア大洋州局長に対し、傅瑩・中国外務省アジア局長は「拉致問題を6ヵ国協議の枠内で取り上げないように」と要請した。拉致事件を利用する高圧的なわが国の対北朝鮮外交は、朝鮮半島の緊張緩和を望む各国のお荷物となっている。

北朝鮮制敵視競う自民と民主
 自民党は27日、「北朝鮮による拉致問題対策本部」の会合を開き、日本独自で北朝鮮への経済制裁を可能にする外為法改正案を来年の通常国会で成立を目指す方針を確認した。また、総選挙で「北朝鮮への経済制裁」をマニフェストに掲げた民主党も26日、「拉致問題対策本部」の設置を決めた。北朝鮮への経済制裁は、アジアの平和に逆行すると同時に、北朝鮮国民と在日朝鮮人の自主的な経済活動を妨害する人権侵害にほかならない。

小沢、横路氏が会談、連携強化で一致
 民主党の横路孝弘副代表が小沢一郎と24日会談し、政権交代実現に向け、小沢ら旧自由党メンバーと、旧社会党系グループの連携強化を図ることで一致した。安保政策では「日米安保体制を堅持」「国連待機部隊の創設」などを確認した。民主党内で安保・憲法問題などでいくらか「独自色」を出そうという横路氏らだが、労働組合、労働者が信頼できる勢力ではないことが改めて示された。

足利銀行「破たん」、改革政治が背景
 政府は29日、栃木県を地盤とする地方銀行大手の足利銀行が9月中間期末に「債務超過」に陥ったとして、同行を「特別危機管理銀行」に認定、血税投入と一時国有化を決めた。地方銀行では初の国有化。小泉政権が進めている金融改革と不良債権処理加速化策が引き起こした事態で、地元中小企業には大きな影響を与える。バブルに踊った経営陣や、これまで湯水のごとく公的資金を導入してきた国や県にも重大な責任がある。破たんの真の責任を不問に付したまま、労働者へのリストラや貸しはがしするなどの犠牲を中小企業に押し付けることは許されない。

補助金1兆円削減、国民生活直撃
 小泉首相は21日、04年度から3年間で4兆円の補助金削減などを目指す国と地方の税財政の「3位一体改革」について、04年度予算においては、1兆円の削減額を目標とすることを各閣僚に指示した。これを受けて各省庁は削減計画を作成、厚生労働省は27日、生活保護費の国庫負担割合を引き下げ、約1650億円を削減する方針を発表した。また、母子家庭への児童扶養手当の国庫負担割合の引き下げ、介護保険事務費負担金の廃止などで約60億円を削減する方針。この厚生労働省案に対し、全国知事会と全国市長会は、「住民生活に悪影響を及ぼし、到底受け入れられない」とする意見を発表した。国民生活への直撃は避けがたく、許されない。

珠洲原発建設断念、住民運動の勝利
 関西・中部・北陸各電力は28日、石川県珠洲市に計画している珠洲原発の建設を凍結し、断念する方針を固めた。景気の長期低迷に加え、電力自由化による新規参入などを理由に上げているが、計画が持ち上がった75年以来続いている、地元住民や労組などの強い反対運動の成果だ。


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