労働新聞 2003年10月15日号 トピックス

世界のできごと

(9月30日〜10月9日)

仏独、米主導のイラク「復興」に反発
 米国が国連安全保障理事会に正式提示したイラク「復興」に関する修正決議案をめぐってフランスは10月2日、「国連の関与拡大」などを求め、ドイツと共に再修正を求めた。米国案では、多国籍軍の指揮権を米国が握る上、国連の役割も限定的との批判があった。米国案の採決で棄権国が増えた場合、550億ドルにものぼる「復興」資金の調達で障害が生じる可能性がある。また同日、イラクで大量破壊兵器の捜査に当たった米政府調査団は「大量破壊兵器は未発見」との中間報告を発表した。イラクでの米兵の死者の増大などで、イラク政策に対する米国民の疑念は高まり、世論の半数が「開戦は誤り」と答えている。来年の大統領選を控え、ブッシュはますます窮地に立たされている。

米支援の下、イスラエルがシリア空爆
 イスラエル軍は5日、「テロ組織の拠点がある」と、シリア領内を空爆した。シリア空爆は82年以来。シリアは当然にも反発、国連に緊急協議を要請した。アラブ連盟も「アラブ領土への侵略行為」(ムーサ事務局長)と反発している。こうした中、米下院外交委員会は8日、「テロ支援」を理由にシリアに対する外交・経済制裁を行う法案を可決した。ブッシュ政権はイラク戦争直後からシリアへの圧力を強め、3月にはパウエル国務長官がシリアに乗り込み「フセイン政権関係者をかくまっている」とどう喝した。各国の非難はイスラエルはもとより、これを支える米国にも向けられている。米国の中東政策はイラク、パレスチナでとん挫しており、シリアへの圧力は、米国の焦りを示すものだ。

経済でも激しさ増す米欧対立
 欧州連合(EU)は2日、米議会が国防関連の調達で外国企業を差別する法案を審議していることに対して、世界貿易機関(WTO)への提訴も辞さない考えを示した。また米国の輸出優遇税制についても「年内に撤廃しなければ報復制裁を行う」と警告した。EUと米国の間では、米国の反ダンピング法撤廃問題や遺伝子組み換え農作物の輸入規制、鉄鋼のセーフガードをめぐる摩擦も続いている。イラク「復興」など対立が続く米欧関係だが、経済分野でも対立が顕在化している。

ASEAN首脳会議、影響力拡大へ
 インドネシアのバリ島で開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が8日、閉幕した。会議では、紛争の平和解決、内政不干渉などを原則とする東南アジア友好協力条約(TAC)や非核地帯条約など、これまでの成果を強調、「統合したASEAN共同体を目指す」とした「第2次ASEAN協和宣言」を採択した。また、安保対話の場であるASEAN地域フォーラム(ARF)重視を確認した。中国、日本、韓国、インドとの首脳会談では、自由貿易協定(FTA)推進で合意した。今会議では中国、インドがTACに加入、ASEANの影響力拡大を示すものとなった。

人民のたたかい

(9月30日〜10月9日)

 ベルギー北東部ヘンク市にある米系自動車メーカー、欧州フォードの工場で6日、3000人の雇用削減計画に反対して24時間ストが闘われた。また工場労働者の大半が居住する近隣6都市の首長も、労組に連帯の意を表明、地域ぐるみで闘いは広がっている。
 トルコで7日、議会がイラク派兵を決定したことに抗議して、首都アンカラにある与党本部に抗議デモが行われた。
 イタリア・ローマで4日、同地で開かれたEUの憲法制定に向けた首脳会議にあわせて、欧州労連(ECTU)とイタリア3大労組の呼びかけで、約25万人が「憲法に労働者の権利を反映させよう」とデモを行った。
 メキシコで1日、政府が計画する電力公社の民営化に対して、約3万人が「民営化は多国籍企業を利する」「料金値上げに道を開く」と、デモした。

日本のできごと

(9月30日〜10月9日)

空前の外貨準備が対米環流に
 わが国の9月末の外貨準備高が、先月比約500億ドル増加して、初めて6000億ドルを超えたことが10月7日、明らかになった。これは、9日の東京外国為替市場で1ドル=108円台を記録するなどの急速な円高に対し、政府・日銀が膨大な円売り・ドル買い介入を行ったことによるもの。来年の大統領選挙を前に、国内産業界の支持を狙う米ブッシュ政権は、円売り介入を「批判」している。だが、政府・日銀の介入は、「双子の赤字」にあえぐ米経済を支え、暴落の危機にあるドルを買い支えることでドル体制を守るとともに、そこに組み込まれたわが国多国籍企業の利益を守るものだ。

米追随にしばられたアジア外交は限界
 インドネシア訪問中の小泉首相は8日、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国首脳と会談し、自由貿易協定(FTA)を含む経済連携協定の枠組みで合意した。わが国は、すでにシンガポールとはFTAを締結しているが、ASEANとの交渉開始が05年初め、タイなど6カ国との協定締結は12年をメドにと、中国やインドに出遅れた格好。「紛争の平和解決」などをうたった東南アジア友好協力条約(TAC)にも、日米安保との「整合性」を気にして未加盟のまま。会談の席では、数カ国から日本のアジアへの関与強化を求める声があがったほど。わが国が日米安保にしばられる限り、アジアとの共生は不可能だ。

対北朝鮮問題で、中韓と温度差広がる
 小泉首相は7日、盧・韓国大統領、温・中国首相と、インドネシアのバリで会談した。3カ国は、経済連携などを含む「共同宣言」を発表したが、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「核問題」の平和解決を主張する中韓とわが国との溝は埋まらなかった。小泉は、対北朝鮮政策での「結束」を狙ったが、「朝鮮半島の非核化」以外の中身はなかった。拉致問題では、中国が小泉の「協力要請」を「日朝2国間の問題」と突っぱねたほどで、「宣言」でも間接的表現にとどまった。わが国が、金正日体制の転覆を狙う米国に追随し、北朝鮮敵視政策を続けることは、アジアで孤立する道だ。

新民主党が発足、消費税上げ明記
 民主党は5日、旧自由党との合併大会を開いた。大会では、次期衆議院選挙でのマニフェスト(政権公約)も正式発表された。マニフェストには、「脱官僚国家」など聞こえのよいスローガンが並んでいるが、「ミサイル防衛力の向上」や基礎年金の財源としての消費税増税などが明記された。マスコミは、こうした対米追随で国民犠牲の政策を「過去の野党にはなかった」(朝日新聞)などと持ち上げている。新民主党は、保守2大政党制によって、安定した政治支配を狙う財界の意を受けたもので、労働組合が支持できる党ではない。(社説参照

全国知事会、国に税源移譲迫る
 全国知事会(会長・梶原岐阜県知事)は7日、国から都道府県への補助金を約10兆円削減する代わりに、税源移譲を行うことを求める会長私案を発表した。私案では、所得税のうち3兆円、消費税の5兆円分などを移譲すべきとしている。また、地方交付税については、「自治体間の財政力格差を是正する」角度から、存続を主張している。先にまとめられた、政府の経済財政諮問会議による「骨太の方針・第3弾」では、「三位一体改革」の名の下、補助金を4兆円削減する一方、税源問題にはほとんどふれていない。地方財政の深刻さは税源移譲程度で解決できるようなものではないが、今回の提言は、地方切り捨てを進める国に対する反発が広がっていることを示すものだ。

「ゆとり教育」、財界の意を受け撤回
 文部科学相の諮問機関、中央教育審議会(鳥居泰彦会長)は7日、学習指導要領で規定する以上の学習内容を子供に教えることを認めることなどを中身とする、指導要領の改正案を、河村文科相に提出した。昨年度から導入された学習指導要領は、「ゆとり教育」の名の下、学習内容に「歯止め」を設けたが、わずか2年で見直されることとなった。背景には、国際競争力強化に役立つ人材養成のための能力主義、早期選別教育を狙う多国籍企業の要求がある。「猫の目」のように変わる教育行政は、教育労働者に過重な負担を強い、学校現場を混乱させるものだ。


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