労働新聞 2003年9月25日号 トピックス

世界のできごと

(9月10日〜9月19日)

WTO決裂、グローバル経済ほころぶ
 メキシコのカンクンで開かれていた世界貿易機関(WTO)第5回閣僚会議は、投資ルールなど新分野についての交渉が決裂、9月14日に閉幕した。米国などは、投資、競争、貿易円滑化、政府調達の4分野について交渉を狙ったが、途上国などWTO加盟国中80カ国が交渉開始に反対した。この結果、交渉期限としている04年末までの交渉終了は難しくなった。WTOは95年、貿易・投資の自由化を狙う米国の主導下、関税貿易一般協定(GATT)を継承して発足した。だが、99年のシアトル会議以降、WTOは格差拡大をもたらすグローバル資本主義の道具だとして、途上国などからの批判が集中していた。今回の交渉でも、ブラジルやインドなどが「G21」を結成、途上国の攻勢が際立った。交渉決裂は、米主導のグローバル資本主義の行き詰まりを示している。

アラファト議長「追放」に反発広がる
 イスラエルは11日、パレスチナ自治政府のアラファト議長を追放する方針を決めた。またオルメルト副首相は、議長殺害も「選択肢の1つ」と発言、パレスチナ住民やアラブ諸国から反発を招いている。アラブ連盟加盟国は国連総会の緊急開催を要請、16日にはイスラエル非難の決議案を採決した。しかし、米国は拒否権を発動、「和平」を唱えながらイスラエルを擁護する米国にも、非難の声が集中した。中東和平のロードマップは破たんし、激化の一途をたどるイラク情勢と併せ、米国の中東政策そのものが、音を立てて崩れようとしている。

米、IAEA通じイランへ圧力
 オーストリアのウィーンで開かれていた国際原子力機関(IAEA)の定例理事会は12日、イランに対して10月末までに「核開発」の全容を開示するよう求める決議を採択した。イランは「主権の侵害」と反発している。米国は8月、イランの「核開発」問題を国連安全保障理事会に提起する方針を固めたが、中東諸国の反発で、IAEAでの議論となっていた。米国の中東政策が揺さぶられる中、イランへの圧力は、そのほころびを取り繕うとする米国の苦しい立場を示すもの。当然、中東諸国は猛反発しており、17日にはサウジアラビア、エジプトなどアラブ連盟15カ国がIAEAに対し、米国が支援するイスラエルの核査察を求める決議案を提出している。

スウェーデン、ユーロ導入否決
 スウェーデンで14日、欧州単一通貨ユーロ導入の是非を問う国民投票が行われ、反対56%、賛成42%で否決された。政府は野党を賛成でまとめたが、多くの国民は、不振のユーロ圏経済の影響を受けることや、比較的優位にある社会福祉がユーロ導入により切り捨てられることを嫌った。加えて、ユーロ圏参加国が毎年の財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内に義務づける協定について、ユーロ中心国の独仏が今年違反していることなどが、国民の反発を招いた。2000年にはデンマークが国民投票で参加を否決、参加が焦点となっている英国でも反対の声が多い。今回の結果は、来年25カ国体制を迎える欧州連合(EU)内での矛盾拡大を示すものだ。

人民のたたかい

(9月10日〜9月19日)

 WTO閣僚会議が開かれているメキシコのカンクンで10日、農産物の自由化に反対する各国の農民や先住民約2万人がデモ行進した。参加者は「公正な貿易を」と叫んだ。
 イラク中部の都市ファルジャで13日、米軍の攻撃で死亡した被害者の葬儀と米軍への大規模な抗議行動が行われた。米軍は「誤射」と発表、怒りを静めようとしたが、住民は「米軍を追い出そう」と叫びデモを行った。
 韓国・ソウルで17日、米国が韓国にイラクへの追加派兵を求めていることに抗議して、労組、学生団体などで構成する「国際反戦共同行動組織委員会」が集会を開いた。参加者は政府に対して米国の要求に屈しないことを求め、派兵中の部隊撤退を要求した。

日本のできごと

(9月10日〜9月19日)

米、わが国にイラク支援求める
 べーカー駐日米大使は9月17日、川口外相に対し、イラク「復興支援」への資金援助と、自衛隊の早期派遣を求めた。政府は、来年度分として約1200億円の拠出に応じる方針。これは、イラク人民の反撃激化で追いつめられ、10月に予定されるスペインでの会議で、イラク「復興」への「国際的支援」を求めようとする米国に、真っ先に「助け船」を出したもの。これまでも米国は「(自衛隊派兵を)逃げるな」(アーミテージ国務副長官)など、わが国に居丈高な態度で支援を迫ってきた。だが、中東和平の破たんなど、この地域で窮地に追いこまれ、国際的にも孤立する米国を支援することは、わが国を中東人民と敵対させる道だ。しかも、国民にさまざまな「痛み」を強いながら、血税で対米追随のイラク「復興支援」を行うなど、許せない。

民主党マニフェスト、小泉と改革競う
 民主党は18日、次期総選挙に向けた政権公約(マニフェスト)の1次集約を公表した。大型公共事業の3割削減、高速道路無料化などを打ち出した。財界はこれを、保守2大政党制の一翼を担うものとして育てようとしており、マスコミも盛んに持ち上げている。だが政策の実体は、日米基軸の外交政策や基礎年金の税法式化、地方への補助金削減など、小泉政権と大差ない。来月には自由党との合併が予定されるが、対米追随で小泉と「改革」を競い合う民主党を、労働者、労働組合は到底支持できない。

総務省、公営地下鉄の民営化強要
 総務省は13日までに、全国の政令市による公営地下鉄事業の民営化を進める方針を決めた。10月から自治体に経営「健全化」計画の提出とリストラなどを求める。これは、将来的な民営化を視野に、経営「改善」を要求するもの。公営地下鉄事業はほとんどが赤字だが、それを口実に横浜市が民営化を含めた検討に入るなど、各政令市は合理化に動き出している。総務省の指示は、これを促進するもの。だが、民営化は料金引き上げや合理化などを伴い、住民の利益にはならない。

保険庁、理不尽な年金強制徴収開始
 社会保険庁は16日、国民年金保険料の「滞納者」に対する資産差し押えなどの強制徴収を、全国の社会保険事務所に指示した。37%を超える保険料未納を理由に、「所得や資産の多い者」1万人を対象にするという。だが、いずれ低所得者にまで強制徴収の対象が広げられることは必至。しかし、国民の生活難こそ、大量の未納者を生む最大の原因だ。それに加え、給付年齢の引き上げや保険料値上げなどで、年金制度の信頼性が失われていることもある。悪政の責任を顧みず国民から強制徴収するなど、言語道断だ。

基準地価低下で中小企業経営難さらに
 7月1日時点の基準地価が18日、明らかになった。地価は前年度比5.6%、12年連続で下落した。とくに商業地では、都心が5%前後の伸びを示す一方、甲府市16.9%、宇都宮市16.6%など、地方都市での下落が著しい。長期不況や規制緩和による商店街の衰退などが背景だが、資産デフレは依然深刻だ。地価下落は担保価値の下落を意味し、これを理由に、金融機関は中小企業に対して、貸し渋り・貸しはがしをますます強める。中小企業の経営はいっそう窮地に陥る。

栃木・ブリヂストンで大火災
 栃木県黒磯市にある大手タイヤメーカー、ブリヂストンの工場で火災が発生、2日間の炎上後、10日、鎮火した。この火災により、一時、5000人以上の近隣住民が避難した。14日には、「火災の発見者」とされる労働者が自殺に追い込まれている。背景には極限的なリストラがあり、マスコミが「製造業は基本に戻り安全対策の確立を」(日経)などと言わざるを得ないほど、わが国の職場環境は劣悪な状態だ。

ろう城・爆破の背景に下請いじめ
 名古屋市で16日、宅配業者「軽急便」の支店に男性が立てこもり、爆発・死亡するという事件が起こった。男性の行動は、同社から一方的に業務委託契約を打ち切られたことに憤激したもので、背景には、物流規制緩和による価格競争の激化や、下請けへの過酷な犠牲押し付けがある。


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