労働新聞 2003年9月15日号 トピックス

世界のできごと

(8月30日〜9月9日)

独仏が米国のイラク新決議案を批判
 独仏首脳は9月4日、会談し、米国が国連安全保障理事会に提出しているイラク問題での新決議案を受け入れられないと表明した。新決議案は、英米軍主体のイラク占領が行き詰まる中で出されたものだが、イラク「復興」へ多国籍部隊を展開するとしているものの、米軍が指揮権限を維持する内容。シラク・仏大統領は「われわれの考えからはかなり遠い」と述べ、シュレーダー・独首相も「国連が強い役割を果たすべきだ」と、米英主導を批判した。イラク戦争で顕在化した米欧の亀裂は依然として大きい。

膨大なイラク戦費が米国経済を圧迫
 ブッシュ米大統領は7日、イラクなどの軍事作戦と「復興」のため、米議会に870億ドル(約10兆円)の予算を要求することを明らかにした。議会は今春、総額785億ドルの補正予算を承認したばかりで、巨額の追加予算は米国の財政赤字をさらに膨らませる。ブッシュは日本・欧州・中東諸国に対して、イラク「復興」に経済支援を求めようとしている。イラク人民の反撃によって占領がつまずく中、膨大な戦費負担がブッシュ政権を追いつめている。

IAEA報告、イラク核開発を否定
 イラクを査察していた国際原子力機関(IAEA)は8日までに、「91年以降、イラクに核兵器開発の兆候は認められなかった」とする報告書をまとめた。フセイン政権の崩壊を狙ったブッシュ政権は、「大義名分」としてイラクの大量破壊兵器=核開発を取り上げていたが、そのウソが改めて証明された。英国の世論調査では、ブレア首相の「辞任を求める」が43%に達し、初めて「支持」を上回った。イラク戦争を開始した政治家の責任を問う声が、さらに高まるのは必至だ。

人民元切り上げ圧力を強める日米
 タイのブーケットで開催されていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)財務相会議は5日、共同声明を採択し閉幕した。同会議で日本と米国が中国の人民元切り上げを迫ったが、自国の為替相場への波及を危ぐしたアジア諸国の抵抗で、人民元の対ドル固定相場制を当面維持することが容認された。米国は2日、スノー財務長官を訪中させ、人民元切り上げを要請させるなど、米国の産業界の要求にそって圧力を強めているが、中国は現行制度の維持を主張している。「世界の工場」となった中国が国際貿易体制に組み込まれる過程で、通貨摩擦などさまざまな矛盾も拡大せざるを得ないだろう。

イスラエルとパレスチナの緊張激化へ
 パレスチナ暫定自治政府のアッバス首相は6日、辞任に追い込まれた。米国やイスラエルが支持する同首相は、治安権限をめぐってアラファト議長との対立が深まっていた。議長は7日、パレスチナ評議会議長クレイ氏に首相就任を要請した。 イスラエル政府は「アラファト議長の主導する自治政府とは交渉しない」としており、パレスチナの武装勢力ハマスへの攻撃を強めている。米国が提案した中東和平のロードマップ(行程表)は完全に破たんした。

人民のたたかい

(8月30日〜9月9日)

 世界貿易機関(WTO)第5回閣僚会議が開かれるメキシコのカンクンで9日、メキシコ全土から数千人の農民が結集した。北米自由貿易協定(NAFTA)の下で、農産物の輸入自由化を押しつけらている農民たちは、WTOによる自由化拡大に抗議して、数百人の青年がデモを行った。
 運送費引き上げや交渉権確保などを要求し8月21日から3万人が無期限ストに突入した韓国の貨物トラック運転手組合(貨物連帯)は1日、国会前で決起集会を行った。また、1日〜2日、高速道路や幹線道路をトラックでふさぐ行動を展開した。労組は5日にストを終結したが、交渉次第ではさらにストで闘う構え。

 

日本のできごと

(8月30日〜9月9日)

国民生活に反映されない「景気回復」
 4〜6月期の全産業の設備投資が、6.4%増加したことが9月4日、明らかになった。実質国内総生産(GDP)も、年率2.3%上昇したという。株価上昇や輸出の伸びなどが原因とされる。しかし、株価や輸出の回復はいずれも米国頼みで、その米国では「双子の赤字」が拡大するなど、見通しは不安定。逆に国債価格の低下による長期金利の上昇など、経済の足を引っ張る要因も多い。また、失業率は依然として高水準で、消費は減少している。「景気回復」は、大多数の国民には何ら実感のないものだ。

石破訪中、日本への不信感露呈
 石破防衛庁長官は3日訪中し、中国の曹剛川国防相と会談した。小泉首相の靖国参拝で途絶えた日中の防衛交流の再開や、対朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)外交のすり合わせを目的とした訪中だが、曹国防相は日本のミサイル防衛(MD)や小泉首相の靖国参拝に懸念を表明、また旧日本軍の遺棄化学兵器の確実な処理を求めた。侵略の過去に無反省な日本に対する不信感は、根強い。

自民総裁選が告示
 自民党総裁選が8日告示され、現総裁の小泉首相と、藤井・元運輸相、亀井・前政調会長、高村・元外相の4氏が立候補を届け出た。藤井、亀井、高村の3氏は「景気回復の優先」など、「改革推進」を掲げる首相との違いを強調しているが、消費税値上げを公言するなど、国民犠牲の姿勢は小泉と変わらない。外交・安保においては、どの候補も日米基軸や北朝鮮への強硬姿勢、憲法「改正」を訴えるなど、国民の願いとかけ離れている。

埼玉知事選、政党再編に影響
 埼玉県知事選が8月31日、投開票され、前民主党衆院議員の上田清司氏が、自民党の推す島津氏らを大差で破り、初当選した。この知事選は、土屋前知事が長女の政治資金規正法違反事件で引責辞職したことに伴うもの。投票率は35.8%で、前回の59.2%を大きく下回った。県民の政治・政党不信の高さが示されている。上田氏は合併予定の民主、自由両党に加えて、神奈川の松沢知事の支援も受けた。支配層が民主・自由合併党を保守2大政党制の一翼としてつくり上げようとしている中、自民党が支持する候補を大差で破った結果は、以降の政党再編にも、影響を与えよう。

酒類販売規制緩和、競争激化必至
 酒類販売の地域人口当たりの免許枠を定めた「人口基準」が9月1日、廃止され、酒類販売が事実上、自由化された。これにより、既存の大手流通業者だけでなく、ピザ宅配業者やレンタルビデオ店などの新たな市場参入が予想される。酒販小売店は、これまで数次の規制緩和によって、大手との競争にさらされ、廃業や倒産、転業に追い込まれた店も多い。さらなる規制緩和は、中小小売店をさらなる苦境に追い込むものだ。

石原都政、朝鮮総聯への攻撃強める
 東京都は4日、固定資産税の滞納を理由に、朝鮮総聯中央本部など都内の3施設を差し押さえた。朝鮮総聯施設への「課税攻撃」は全国で相次いでいるが、差し押さえに踏み込んだのは初めて。朝鮮総聯のチョ・ドンファン財政局長は「法的手続きにのっとって課税取り消しの請求をしており、その結果も出ないうちに一方的に差し押さえるのは横暴だ。明らかに差別であり、政治的意図があると受け止めざるをえない」と批判した。石原都知事は、これまでも「経済制裁」や「テロ容認」発言など、北朝鮮に対し露骨な差別、敵視発言を繰り返してきた。「差し押さえ」は、これをいちだんとエスカレートさせるもので、許せない。

3単産合同し基幹労連が結成
 鉄鋼労連、造船重機労連、非鉄連合の3産別が統合し、日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連、約25万人)を結成する大会が9日、開かれた。統合によって、政策実現や連合内での発言力を高めるのが狙い。鉄鋼の宮園哲郎委員長が初代委員長に就任した。運動方針では、ベアに積極的な姿勢を示しているが、各単産はこれまで、資本による合理化を受け入れた結果、組織人員が後退を続けてきた歴史がある。ベア要求などを文字通り貫けるかどうか、役割が問われている。


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