労働新聞 2003年8月25日号 トピックス

世界のできごと

(7月30日〜8月19日)

北朝鮮が6カ国協議の受け入れ表明
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は8月4日、「核開発」問題をめぐりロシアを含む6カ国協議を受け入れることを表明した。協議は27日から北京で始まるが、実質的な米朝協議も同時に行われる。北朝鮮は不可侵条約の締結、米国の対北朝鮮政策の転換を求めているが、これは当然の要求だ。しかし、米国は「体制保証」を認めようとはせず、政権転覆の意図をあらわにしている。米国務省は18日、大量破壊兵器の拡散防止のための合同演習第1弾として来月、オーストラリア沖で海上封鎖訓練を実施すると発表、6カ国協議に合わせて北朝鮮への圧力を強めている。

行き詰まる米国のイラク占領政策
 エジプトのマーヘル外相は11日、カイロで開いたエジプト、サウジアラビア、シリアの3カ国外相会談後、イラクの暫定統治機関について、「合法性のない評議会を認知することはできない」と述べた。また、国連安全保障理事会は14日、イラクの新体制を支援する国連イラク支援派遣団(UNAMI)創設の決議案を採択したものの、隣国シリアは棄権した。また、統治評議会については、フランスやロシアなどから政権の正統性に疑問の声があがった。一方、イラク国内ではバクダッドの国連施設の爆破、米兵への襲撃や民衆の反米デモが多発しており、米国の占領政策は完全に行き詰まっている。米軍は18日、取材中のロイター記者を殺害する事件を起こしたが、デモに参加する一般市民にも容赦なく発砲するなど、ますます狂暴さを増している。

米国、ブッシュ支持率が大きく下落
 米紙ニューヨーク・タイムズとCBSテレビが2日発表した世論調査によると、ブッシュ大統領の支持率は54%と5月の前回調査に比べ13ポイント下落。経済政策に対する支持率は40%に低下した。大減税を行ったにもかかわらず、失業者の高止まり、自己破産者の増加を招くなど国民生活は深刻化しており、ブッシュ政権の経済政策に対する不満が高まっていることを反映している。また、米国の対外政策について「米国は外国の独裁政権を変え民主化を進めるべきだ」と答えた人は5ポイント減の24%に低下、「関与すべきでない」が58%で10ポイント増えるなど、イラク戦争への疑念も広がっている。来年に迫った大統領選挙では、湾岸戦争後に再選を果たせなかった父親ブッシュの「二の舞」との観測も、現実味を帯びてきている。 

03年上半期の米貿易赤字、過去最大
 米商務省が14日発表した貿易統計によると、03年上半期の米貿易収支の赤字は2442億ドルで、前年同期に比べて25.3%増え、過去最大となった。この勢いが続くと、通年では5000億ドルに近い赤字となる。貿易赤字の増大は、輸出の伸びを上回る勢いで中国などからの輸入が増えたため。米産業界では、中国の人民元相場が対ドルで低すぎるとして元切り上げを求める声も強まっている。貿易赤字の拡大は、世界最大の借金国家でありながら、世界からの資金環流で「繁栄」をおう歌してきた米経済の構造を、さらに不安定なものへと追い込むだろう。

中国、私有財産保護を憲法明記へ
 中国共産党は11日の政治局会議で、第16期中央委員会第3回全体会議を10月に開くことを決定した。全体会議では「私有財産の保護」と、昨秋の第16回党大会で党規約に盛り込んだ私営企業家の入党を認めた「3つの代表」思想を憲法に明記することを討議する。合意が得られれば来春の全国人民代表大会で正式に決定する。

人民のたたかい

(7月30日〜8月19日)

 韓国の2大労組である韓国労総と民主労総は19日、国会審議中の週休2日制法案の修正を求めて合同ストに入った。労組は2010年までとしている導入時期の5年前倒しや現行の賃金水準維持を明記することなどを求め、約6万人が参加した。韓国では起亜自動車労組が賃上げなどを求めて7月末からストを断続的に続けているほか、貨物トラック運転手組合が賃上げや待遇改善を求め20日から無期限ストに入る。
 韓国大学生総学生会連合(韓総連)所属の大学生らが7日、全国各地で反米行動を繰り広げた。米ストライカー部隊が訓練中の京畿道抱川郡米八軍総合射撃場で、学生たちは入り口のバリケードを押しのけて射撃場内に入り、幕舎近くにあった装甲車に上って「韓半島戦争反対」などと叫んだ。学生たちは、ソウルや京畿道の米軍空軍基地前などでもデモを行った。
 広島に原爆が投下されて58年となる六日、韓国・ソウルで「被爆58周年韓国人原爆犠牲者追悼式」が開かれ、韓国人被爆者ら200人が参加した。韓国原爆被害者協会の李会長は「日本政府が海外被爆者に対しても日本国内の被爆者と同様に待遇し、実情にあった医療などの支援措置をとってくれるまで要求を続ける」と訴えた。
 イラク南部のバスラで10日、ガソリン価格の上昇や停電の頻発に抗議してフセイン政権崩壊後最大規模の民衆デモが行われた。バグダッド北東部のイスラム教シーア派が多く住むサドルシティーで14日、米軍に抗議する3000人規模のデモが行われた。バグダッド周辺でシーア派と米軍の衝突が伝えられたのはこれが初めてで、米軍の支配への抵抗が一段と強まっている。
 ブラジルのルラ政権が進める年金改悪に反対する公務員らが6日、首都ブラジリアの連邦議会周辺で、警察と激しく衝突した。ルラ政権は公務員年金の支給削減を狙っており、この日未明に議案が下院を通過したことに、公務員労働者が抗議行動を展開していた。

日本のできごと

(7月30日〜8月19日)

根拠の薄い「景気回復の兆し」
 東京株式市場は8月18日、約1年ぶりに1万円台を記録した。市場では、「今後も上昇基調」との声が流れている。だが、株価上昇は米経済回復の「期待」につられたもの。5日発表された8月の月例経済報告では、景気判断について、前月までの「1部に弱い動き」との表現を、株価回復や米国の景気改善を理由に「景気をめぐる環境に変化が見られる」と、5カ月ぶりに上方修正した。米経済は、経常収支赤字と財政赤字の拡大で、むしろ土台が揺らいでいる。一方、国内の雇用、消費などの国民生活をめぐる状況は依然厳しく、政府の言う「変化」は、国民には何ら実感を伴わないものだ。

中小企業融資減少、貸しはがし激化
 金融庁は7日、公的資金投入を受けた23銀行・グループが提出した経営健全化計画の2003年3月期決算時点の達成状況を公表した。それによると、各行の中小企業向け貸し出しが、みずほ、三井住友などで大幅に減少、大手行計で前期末に比べ5兆6563億円減となったことが分かった。これは中小企業に対する貸し渋り・貸しはがしが横行していることを示すもの。このような現状にもかかわらず、竹中経済財政・金融担当相は1日、みずほなど大手5銀行と、地方銀行など10行の計15行に業務改善命令を発動した。これにより、銀行は収益強化策を強いられ、リストラやさらなる貸し渋り、貸しはがしに動くことになる。中小企業の経営を危機に追い込む金融政策は、断じて許せない。(関連記事1面

閣僚の外交、成果乏しく
 小泉首相は17日、ドイツ、ポーランド、チェコの欧州3カ国訪問に出発した。来年5月の欧州連合(EU)拡大をにらんだ関係強化が狙いだが、実態はイラク「復興」支援や拉致問題など、米国のお先棒担ぎの課題が中心で、対米独自傾向を強める欧州各国のひんしゅくを買った。また、福田官房長官は9日、中国を訪問した。日中平和友好条約締結25周年記念レセプションに、靖国神社を参拝した小泉首相に代わって招かれたもの。中国首脳との会談では、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「核問題」をめぐる6カ国協議へ向けた意見交換を行う一方、中国は首相の靖国参拝にクギを刺した。一連の外交で、米国追随のわが国の姿勢が、国際的孤立を深めていることが示された。

閣僚や議員が、アジア無視し靖国参拝
 小泉内閣の閣僚のうち鴻池構造改革特区担当相、亀井農相、谷垣国家公安委員長、平沼経済産業相の4閣僚が15日、靖国神社を参拝した。また「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の自民、民主、自由などの国会議員55人や、石原・東京都知事も参拝した。小泉首相は1月に参拝済み。こうした動きに対し、中国が9日の日中平和友好条約25周年の記念行事に首相を招待しないなど、アジア各国との信頼関係は崩れたまま。一方、「読売新聞」はアジアの声を「偏狭、強烈な愛国主義・反日ナショナリズム」と切り捨てるなど、排外主義をあおっている。

広島・長崎市長、米核戦略を批判
 米国による原爆投下から58周年の6日、広島市の平和記念公園で、原爆死没者慰霊式・平和祈念式が行われた(写真)。秋葉・広島市長は平和宣言で、イラク戦争や小型核兵器の研究再開など、ブッシュ米政権の動きを強く批判した。9日には、長崎市の平和公園で「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれ、伊藤・長崎市長が平和宣言でイラク戦争を阻止できなかったことに対する無念を表明、核軍縮を訴えた。両式典に参加した小泉首相だが、形式的なあいさつの後、さっさと会場を去るなど、被爆地の願いに露骨に背を向けた。 (社説参照

防衛白書、米国追随の軍備再編鮮明に
 政府は5日の閣議で、2003年版防衛白書を了承した。白書は国際テロやミサイル攻撃などの「新たな脅威」対応への転換を強調。また国連平和維持活動(PKO)などの海外活動を自衛隊活動の重要な柱と位置付け、海外派遣の恒久法制など新たなあり方を訴えている。同時に、北朝鮮の脅威を随所であおっている。石破防衛庁長官が「米国の新たな政策にどう対応するか、答えを出さないといけない」と発言したように、ブッシュ・ドクトリンに対応した日本の軍備再編を行うための世論づくりの性格が鮮明だ。一方で、防衛庁は3日、テロやPKOなどの専門部隊を陸上自衛隊内に創設する具体的な検討に入った。このような政府の危険な動きに対し、警戒が必要だ。

来年度予算、いっそうの国民切り捨て
 政府は1日、2004年度の予算要求の目安となる概算要求基準(シーリング)を了承した。一般歳出の総額は前年度要求基準と同額の48兆1000億円。年金や福祉、医療などの社会保障関係費の削減や、地方への財源移譲があいまいな中での補助金の削減など、国民生活や地方を切り捨てを強める方向が打ち出されている。

国家公務員給与最大の引き下げ
 人事院は8日、2003年度の一般職国家公務員の給与を月給平均で1.07%(4054円)引き下げる勧告を内閣と国会に提出した。民間のボーナスにあたる期末・勤勉手当も0.25カ月分の引き下げとなる。勧告が完全実施されれば、平均年収の減収幅は16万3000円となり、前年度の15万円を上回って過去最大の下げとなる。月給の引き下げは2年連続、年収では5年連続のダウンとなる。地方公務員給与への影響も大きく、一部マスコミの公務員攻撃キャンペーンなどとも連動した攻撃である。労働者全体の重大な問題だ。

JT、 4000人の大リストラ計画
 日本たばこ産業(JT)は6日、国内のたばこ製造工場5〜6カ所の閉鎖や2割の支店の統廃合、本社のスリム化などのリストラに伴い、約4000人の希望退職を募る計画を発表した。喫煙規制の強化や今年7月からの増税の影響などを理由としているが、経営不振の責任を労働者へ転嫁するなど、言語道断だ。


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