労働新聞 2003年8月5日号 トピックス

世界のできごと

(7月20日〜7月29日)

イラク占領めぐり欧州が巻き返し
 フランスのドビルパン外相は7月24日、戦闘激化で泥沼化する米英主導のイラク占領について「外国軍部隊を加えても、イラクの治安を保証する最善の方法とは思えない」と述べ、インドやパキスタンを占領軍に引き込もうと画策する米国をけん制、国連主導の解決を改めて強調した。また、ドイツの国連大使も「国連の枠組みの下での再建のため、新決議採択を」と述べた。一方、米軍は22日、北部のモスルでフセイン前大統領の子息2人を殺害したと発表したが、人民の反撃はいっそう激化、米兵が連日殺害されるなど、「統治安定」の期待はむなしく消えた。新政府樹立のための「民主選挙」も、来年にずれ込むことは確実。米英主導の「復興」が窮地に陥る中、主導権を奪回しようとする欧州諸国の動きが強まっている。

米軍、リベリア沖へ出兵
 ブッシュ米大統領は25日、アフリカ西岸のリベリア沖に米軍を派遣するよう命じた。リベリアでは内戦が続いているが、すでに米国の圧力によってテーラー大統領の亡命と、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)による平和維持活動が決まっている。ブッシュの7月のアフリカ訪問など、米国はイラク戦争後、欧州諸国が歴史的に影響力をもつアフリカへの関与を強めていた。当初、米国はリベリアへの上陸・駐留を予定していたが、イラクの治安維持がままならず、当面は海上待機にとどまることを余儀なくされている。欧州けん制を狙うブッシュの対アフリカ政策は、早くも軌道修正を迫られている。

イスラエル、フェンス建設続行を表明
 訪米中のシャロン・イスラエル首相は29日、ブッシュ大統領と会談し、ヨルダン川西岸でのフェンス建設を継続すると明言した。フェンスは「テロ防止」を口実に、イスラエルが昨年夏から一方的に建設しているもので、67年の第3次中東戦争時の境界線よりもパレスチナ側に入り込んでおり、パレスチナ自治政府は強く反発していた。イスラエルはパレスチナ人「政治犯」を釈放するなど、形ばかりの譲歩を見せているが、パレスチナ側は会談の結果に「強い失望感」を表明した。米国は、中東地域の安定的支配を狙って「ロードマップ」を進めようとしているが、前途多難である。

フィリピンで軍の一部が反乱
 フィリピンの首都マニラで27日、国軍の若手将校の1部が反乱、同日深夜まで市中心部のホテルを占拠した。反乱兵士は、国軍の腐敗などを批判、アロヨ大統領の退陣を求めた。大統領側は、事件の背後には、エストラダ前大統領の支持者などがいるとしている。しかし、国民の6割が貧困層にとどまっている深刻な状況とはまったく無縁な反乱劇に、国民各層などはしらけきっている。前大統領の不正を糾弾、01年に軍の支持を受けて政権に就いたアヨロ大統領だが、今回の反乱で、政治的威信は打撃を受けた。

人民のたたかい

(7月20日〜7月29日)

 韓国の起亜自動車労組は23日、週休2日制などを求めて時限ストを行った。ストには、2万5000人が参加した。
 世界貿易機関(WTO)非公式閣僚会議が行われるカナダのモントリオールで28日、自由貿易の拡大に反対する、非政府組織(NGO)などのデモが行われた。当局は同日までに、100人以上を不当にも拘束した。
 イラク各地で20日、米軍の撤退を求め、「統治評議会」を拒否するデモが行われた。中部のナジャフでは、米軍に拘束されたシーア派指導者の釈放を求め、1万人が米軍駐留地前で気勢を上げた。
 フランス領ニューカレドニアで25日、独立を求める住民数百人が、シラク大統領の訪問に抗議しデモした。

日本のできごと

(7月20日〜7月29日)

通常国会終了、総選挙へ
 第百五十六通常国会が7月28日、閉幕した。有事法制やイラク特措法など米国の国際戦略に従属し、わが国の進路を根本的に誤らせる諸法案が次々と成立した。また、労働法制の改悪など国民生活破壊の諸法案が成立する一方、りそなグループへの公的資金投入など、大銀行には手厚い優遇が行われた。しかし、野党、とりわけ民主党は有事法制の成立に手を貸し、イラク特措法でも「審議拒否するつもりはない」(野田・国対委員長)などと与党との対決を避けるなど、「与野党対決」とのかけ声とはほど遠い国会であった。政局は、9月の自民党総裁選や取りざたされる今秋の解散・総選挙に舞台を移している。

2大政党制狙い、民主・自由が合併へ
 菅・民主党代表と小沢・自由党党首は23日、会談を行い、両党が9月末までに合併することで合意した。自由党は解散して民主党に合流する形となる。また政策についても、民主党のものを継承するとしている。「2大政党の形が整った」(北城・経済同友会会長)など、保守2大政党制を狙うわが国支配層の意をくみ取った動きである。(社説参照

経団連セミナー、政治への介入宣言
 日本経団連の夏季セミナーが25日、閉幕した。奥田会長(トヨタ会長)はあいさつで「構造改革の推進には政治改革が必要。これ以上、問題を先送りすべきでない」と、改革の加速化を求めた。講演では、有馬・国連代表が日米安保の必要性を、与謝野・前衆院議員は政治におけるリーダシップの重要性を指摘した。また、同セミナーでは、来年から再開を予定する政治献金あっせんの際、各政党への評価基準になる「優先政策事項」を討議した。「消費税引き上げ」「法人税率引き下げ」など77項目が示され、「総選挙があれば影響を与えたい」(奥田会長)と、年頭の「奥田ビジョン」で示された政治への介入強化を具体化した。また、出井副会長(ソニー会長)は「日本に本社機能を置けない状況になっていることへの認識が政界にあるのか」と発言、世界で荒稼ぎするため本社すら外国に移そうという、国民経済無視の姿勢を露骨にした。

5年連続自殺者増、多くは経済的理由
 昨1年間に自殺した人は3万2143人で、前年より1101人増え、五年連続で3万人を超えたことが24日、分かった。動機として「経済・生活問題」が大幅に増え、過去最多の7940人となり、増加分のほとんどを占めた。内訳を見ると、増えたのは負債(4143人)、生活苦(1168人)、失業(683人)の3つであった。年代別では60歳以上が最も多く1万1119人で、50歳代が続く。しかも、これは「氷山の一角」に過ぎない。ところが小泉首相はこの事実に対し、「改革がなかったら、もっと痛みが増える」と、国民への「痛み」を居直る始末で、絶対許せない。

牛肉セーフガード発動へ
 農林水産省は29日、関税暫定措置法により牛肉の緊急輸入制限(セーフガード)を発動、輸入関税を8月1日から来年3月まで現行38.5%から50%に引き上げると発表した。これに対し、米国は「日本に対してあらゆる選択肢を検討する」(ベネマン農務長官)と圧力を加え、世界貿易機関(WTO)への提訴を示唆(しさ)している。だが、わが国は過去8年間、WTOで認められている50%より低い水準まで、関税を引き下げていた。しかも、わが国畜産農家は、昨年の牛海綿状脳症(BSE)騒動で大打撃を受けており、農民はセーフガード発動を強く求めていた。国の基幹産業の一部である畜産農家を守るのは当然である。だが、今回の発動期間は1年にも満たず、これまで米国に屈してきたわが国農政の根本的転換にはほど遠く、自主的な農政確立が求められている。

最低賃金、2年連続据え置き
 厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は24日、03年度の地域別最低賃金額の改定目安を「ゼロ円」とする答申を坂口厚労相に行った。現在、最低賃金が最も高い東京(時給708円)でさえ、平均時間分働いても月収は税込み11万円強にしかならない。「ゼロ円」答申は、さらなる賃金引き下げに道を開くものだ。


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