労働新聞 2003年6月15日号 トピックス

世界のできごと

(5月30日〜6月9日)

米欧の亀裂鮮明なエビアン・サミット
 フランスのエビアンで行われていた主要国首脳会議(サミット)は6月3日、議長総括を採択し閉幕した。今回からロシアが正式参加、中国の胡錦濤国家主席も初めて参加した。総括では、米国がイランの「核開発」への「懸念」と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「核開発と拉致問題の包括的解決」を明記させた。だが、一方で「制裁」では合意されず、「平和的解決」が盛り込まれた。深刻な世界経済については、構造改革と政策協調以外に方針を示せず、イラクの債務減免や米国のドル安政策に不満が高まる為替問題など、米欧間で意見が対立する問題は先送りされた。一方、開催国のフランスは独自に途上国と会議を行うなど、戦略的態度が目立った。イラク戦争後初のサミットだが、ブッシュが会議を途中退席したことに示されるように、米欧間の溝の深さがあらわとなり、サミットの形骸化が暴露された。

米、大量破壊兵器で「新構想」提唱
 ブッシュ米大統領は5月31日、訪問先のポーランドで演説し、大量破壊兵器の「拡散防止構想」を提唱した。これは、国連安全保障理事会とは別の「有志の連合」によって、船舶・航空機の臨検やミサイル技術取引などの摘発を行うというもの。ブッシュは、欧州諸国にも参加を呼びかけた。ブッシュは「大量破壊兵器」を口実に仏独などを牽制、米主導の一極支配を狙っている。

アジアが朝鮮問題の平和解決を主張
 来日中のマハティール・マレーシア首相は6月5日、都内で講演し、「(北朝鮮の核開発は)94年の米朝枠組み合意後、約束された援助が次第に届かなくなったため」と述べ、米国を批判した。タクシン・タイ首相も「(北朝鮮が)苦しい時に手を差し伸べるべき」と主張、アロヨ・フィリピン大統領も「核問題は協議を通じて解決すべき」と述べるなど、米日が進める北朝鮮への圧迫政策が、アジアの声に反することが示された。

「大量破壊兵器」のウソが次々と
 イラク戦争前、米英が宣伝した「大量破壊兵器」をめぐる情報のデタラメぶりが明らかになっている。米国では、昨年秋に国防総省がまとめた報告で、「(大量破壊兵器の存在を示す)信用できる情報はない」と明記されていたことが発覚。チェイニー副大統領がイラクに不利な証拠だけを提出するよう、情報当局に圧力をかけた疑いも浮上している。英国では、ブレア首相が与党内からの批判にさらされて4日、大量破壊兵器の真偽に関する調査を行うことに同意せざるを得なくなった。小泉首相が「手本」とするブレア政権の足元が揺さぶられており、サミットでも見る影もないほどだった。

合意早々困難に直面する「中東和平」
 ブッシュ米大統領、アッバス・パレスチナ自治政府首相、シャロン・イスラエル首相による会談が4日、ヨルダンのアカバで行われ、イスラエル、パレスチナ両国家の「平和共存」で合意した。米国が主導するロードマップ(工程表)に沿い、イスラエル側は無許可の入植地からの撤退、パレスチナ側は武力闘争の放棄などを前提に、パレスチナ国家の樹立を認めている。ブッシュは中東の安定的支配を狙い、サウジアラビアなどのアラブ穏健派の支持を取り付けて会談を演出した。だが、パレスチナ難民の帰国が認められないなどから、パレスチナ内には不満の声が強く、ハマスなど武装勢力も闘う姿勢を明らかにしている。米主導の「和平」は、破たんせざるを得ない。

人民のたたかい

(5月30日〜6月9日)

 エビアン・サミットに反対して1日、スイスのジュネーブで10万人がデモを行った。ジュネーブは、湖をはさんでエビアンの反対側に位置する。
 ペルーで3日、2万人が賃上げを求めてデモした。行動は、国内20カ所で取り組まれた。
 イラクのバグダッドで3日、数千人が米英による占領に反対するデモを展開した。

 



日本のできごと

(5月30日〜6月9日)

有事法成立、米国追随の参戦体制へ
 「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の脅威」をあおる世論操作の下で、有事関連3法が6月6日、成立した。これは、米国が引き起こす戦争に参戦するための国民総動員体制の一環である。米国は、日本を北東アジアの軍事上の盾にしようとしており、小泉首相は国民を戦争の危険にあえて巻き込もうとする売国奴である。また、国の進路を左右する重要な問題が、国会議員の9割の賛成で成立した。こうした無気力な政治状況をつくりだした責任は、あげて民主党にある。国民の平和を望む声に背を向けて有事法制を推進した民主党は、有事法制に反対する国民運動を抑える反動的役割をみごとに演じたといえよう。

対米公約でイラク派兵急ぐ小泉首相
 政府は9日、イラクへの自衛隊派遣を可能にする「イラク復興支援法案」(仮称)の概要を与党に公式に提示した。日米首脳会談でイラクへの自衛隊派遣を約束した小泉首相は、米国の尻馬に乗ってこの地域で政治大国として振る舞うチャンスととらえており、今国会を延長して成立させようと画策している。自衛隊は「非戦闘地域」で活動するとしているが、イラクは「全土が戦闘地域」と米軍が認めるように、まだ戦争が続いている。武装した自衛隊派遣は、中東人民と敵対する道だ。
 
廬大統領来日、北朝鮮問題で対立
 来日した廬武鉉・韓国大統領は7日、小泉首相と会談し、北朝鮮問題、自由貿易協定などを議論した。小泉はブッシュ米大統領と北朝鮮への経済制裁を含む圧力をかけることで合意しており、韓国にも協調するよう働きかけた。しかし、廬大統領は圧力よりまず対話を主張、自由貿易協定でも対立を残した。また、廬大統領は9日の国会演説で、有事法成立に対して「日本の防衛安保法制と平和憲法改正の議論を疑いと不安の目で見守っている」と、日本の軍事大国化に憂慮を示した。

戒厳体制下、万景峰号入港中止
 新潟県警が1500人を動員して監視体制をとる中、北朝鮮の貨客船「万景峰号」は8日、新潟への入港を取りやめた。朝鮮総聯の南昇祐副議長は8日、「入港阻止のための悪質なキャンペーンと妨害行為は主権と尊厳を冒涜する」と強く批判した。国際法上、外国船が出入りする港で、特定の船の入港を拒むことはできないにもかかわらず、政府は実質的に入港できない状況をつくり出した。事実上、制裁にも匹敵する敵対行為だ。在日朝鮮人にとって万景峰号は祖国へ通じる唯一の船であり、まるで犯罪船のような取り扱いは、強い憤りを招いている。北朝鮮敵視をあおるマスコミや拉致家族会の対応は異常であり、冷静な対応が求められている。(関連記事5面)

麻生自民党政調会長が創氏改名を美化
 自民党の麻生政調会長は、植民地時代に朝鮮人に日本式の姓名を強要した創氏改名について、「朝鮮人が名字をくれといったのが始まり」と歴史事実をわい曲する暴言をはいた。麻生政調会長は2日、この発言について陳謝したが、発言の撤回は行わなかった。植民地支配を正当化する発言があとを絶たない日本に対し、来日中の廬・韓国大統領は「過去はあるがままに直視しなければならない」と指摘した。

外貨準備5000億ドル超す
 財務省が6日発表した5月末の外貨準備高は6カ月連続で過去最高を更新し、5430億ドルとなった。月間増加額でも5月は過去最大。ドル安に対して政府・日銀が最大規模である4兆円のドル買い介入したため。外貨準備は米国債などで運用しており、米国の巨額の経常赤字を日本の政府部門が穴埋めする構造となっている。国際的に信用が低下しているドルを買い支える政府の対米従属ぶりは際立っており、国富をドブに捨てるものだ。

補助金廃止、地方の反発強まる
 政府の地方分権改革推進会議は5日、国庫補助負担金の縮減・廃止にともなう税源委譲を将来の増税時に事実上先送りする意見書を決めた。神奈川でのアンケートでは、県内の9割超の35自治体が「評価できない」と回答。鳥取県の片山知事は9日、同会議の西室議長(東芝会長)の運営を「地方団体に対する悪意に満ちている」と批判、東芝との取引の見直しを指示するなど、地方の反発が高まっている。


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