労働新聞 2003年6月5日号 トピックス

世界のできごと

(5月20日〜5月29日)

イラク制裁解除で合意したが…
 国連安保理は5月22日、公式会合を開き、米国、英国、スペインによる対イラク経済制裁解除決議を採択した。今後は米英両国が新政権発足までにイラクを実質統治し、石油収入の使途も事実上、両国が管理する。制裁解除をめぐっては、対イラク開戦に反対したフランス、ドイツ、ロシアなどが「国連の中心的関与」を主張し、米国などと対立していた。結局、国連が人道援助やイラクでの暫定政権へ一定関与できる内容への変更に米国が妥協、これまで難色を示していた仏独も賛成に回った。しかし、ドイツなどが求めていたイラクの「大量破壊兵器」の国連査察団による検証は議論を先送りし、新たな火種となる可能性がある。またイラク原油の輸出代金を米英が実質管理することには仏露などの反発は根強い。列強は「制裁解除」で一致したが、イラク戦争を機に生じた亀裂の修復にはほど遠い。

サミット準備会合、米欧亀裂埋まらず
 主要国首脳会議(エビアン・サミット)外相会合が23日、閉幕した。国連安保理でのイラク制裁解除決議などについて議長総括が行われた。対立している米仏外相会談では、ドビルパン仏外相がパレスチナのアラファト議長と交渉する意思を示し、アラファト議長を交渉相手と認めないとしているパウエル米国務長官との認識の差が明らかとなるなど、イラク問題に引き続き中東和平問題でも米仏両国の亀裂が表面化した。また米独の個別外相会談は結局、開かれなかった。さらに米ブッシュ大統領がわずか1日しかサミット本会議へ出席しないことなどが明らかになるなど、表向きの友好ムードの演出とは裏腹に、米欧間の亀裂は深刻なままとなった。その後、フランスのシラク大統領は改めて米国のイラク攻撃を批判するなど、米欧関係は修復どころか大きな亀裂を招くだろう。

中露共同声明、米強くけん制
 ロシアを訪問している胡錦濤・中国国家主席は27日、プーチン・ロシア大統領と会談し、共同声明に調印した。この中で両国はいわゆる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発については武力解決を認めない姿勢を鮮明にし、北朝鮮の安全保障や経済発展のための環境整備の必要性で一致した。またイラクの戦後復興をめぐっても多国間による関与を強調した。今回の共同声明は、米国による北朝鮮敵視策強化と米主導のイラク復興策について強くクギを刺すものとなった。

米、イランに圧力
 米ブッシュ政権によるイラン敵視策が強まっている。28日、ライス大統領補佐官は昨年暮れに米政府が発表したイランの核開発疑惑について、30日から開かれるロシア、中国との首脳会談で取り上げる方針を明らかにした。また米国はイランをサウジアラビアで起きた爆弾テロ事件の容疑者の拠点としてあげ、イラン政府との接触を断つことを決定した。ブッシュ米大統領は昨年来、イランをイラクと並んで「悪の枢軸」と攻撃してきた。イラクを占領し、中東全体の「民主化」を狙う米国はイランに次の照準を合わせようとしている。

人民のたたかい

(5月20日〜5月29日)

 ペルーで27日、トレド大統領の選挙公約である給与倍増の実現を求め教職員組合による抗議行動が行われた。教組は無期限ストをうち、農民や医療労働者、など数千人が、給料の値上げや農産物に対する課税引き下げなどを求めて抗議の声を上げ、首都リマをデモ行進した。トレド政権は同日、全土に非常事態宣言を行った。
 ドイツで24日、シュレーダー政権が提案している社会保障制度改悪に反対する統一行動が行われた。労働組合総同盟(DGB)を中心として取り組まれ、全国で9万人が参加した。
 フランスでも24日、年金制度改悪に抗議して労働組合による大規模なデモが各地で行われた。パリでは100万人が参加、「公共・民間でゼネストを」と呼びかけた。

日本のできごと

(5月20日〜5月29日)

日米首脳会談、「北朝鮮制裁」で一致
 小泉首相とブッシュ大統領は5月23日、イラク戦争後初の首脳会談を行った。会談ではイラク復興支援、朝鮮問題などを話し合い、小泉首相は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に経済制裁を含む圧力をかけること、イラクへの自衛隊派遣を約束した。小泉首相の対米追従ぶりは際立っており、米国の一国主義に従う危険な道にさらに踏み込んだ。 (社説参照)

米外交のお先棒担いで中東訪問
 小泉首相は24日からエジプト、サウジアラビアを訪問し、イラク復興支援問題、米国が提示した中東和平計画(ロードマップ)などを協議した。米国外交のお先棒を担ぎ、イラク戦争に反対したアラブ主要国から復興支援を取り付ける役割を果たしている。また、小泉首相は「中東訪問は新しい日本のアプローチだ」と、中東地域での政治的影響力の拡大を狙っている。反米感情がますます高まる中東で米国の手先として振る舞うことは、中東人民と真っ向から対立する道である。

国民管理の個人情報保護法が成立
 民間業者や行政機関の個人情報の取り扱いについて義務づける個人情報保護関連五法案が23日、参院本会議で与党3党の賛成で可決、成立した。この法案は「個人情報保護」を名目に進められてきたが、行政機関が独自の判断で個人情報利用目的を変更できるなど、国家権力の個人情報収集が容認されている。防衛庁が個人情報を収集する事件が明るみに出たが、こうした管理体制がさらに進むのは必至だ。日弁連は、「自由な言論活動や経済活動を妨げる恐れがある」と批判する声明を発表した。有事法制と合わせて、国民管理システムが強化されいる。

民主・自由合流が破たん
 民主党の菅代表と自由党の小沢党首は26日、両党の合流問題協議をうち切り、合流構想は白紙に戻った。政策的一致もなく、党利党略で進んできた合流劇だが、その破たんは野党の無力さ、指導性のなさを改めて暴露した。小泉改革によって国民が悲鳴をあげ、政治反動が進んでいる。これと闘わない野党のぶざまな姿は、ますます国民から見放されるだろう。

政府税調、さらなる増税を提案
 政府税制調査会は27日の総会で、6月にまとめる税制改革の中期答申の素案を了承した。来年度の税制改正に向け、年金受給者への税優遇縮小、相続税の課税拡大、国から地方への税源委譲などを議論。中期的な課題として、環境税の導入、納税者背番号制度の整備、消費税を10%に引き上げる必要性を強調するなど、国民への増税1色の内容。増税は個人消費をさらに冷え込ませ、不況に拍車をかけるものだ。

東京都知事が「新銀行」構想発表
 石原東京都知事は23日、都主導で設立する新銀行構想をぶちあげた。優良な中小企業への融資を目玉にするというが、設立可能かどうかは不明。石原は小泉改革に批判を強める中小企業家などを取り込むためのパフォーマンスを打ち上げており、この構想もその1つ。また、あたかも改革に反対かのような旗を振り、人びとを巧みに反中国、反北朝鮮の排外主義であおっている。その意図は、きわめて危険だ。

経団連総会、政治への介入を表明
 日本経団連は27日、発足1年目の定時総会を開いた。奥田会長は改革を実現するため企業が政治に主体的に関与する必要性を強調。献金再開に向けて政党の「政策評価表」の作成に着手し、献金の指針や目標総額を来年1月にも示す。奥田会長は経団連の提言がなかなか実現しないことに対し、官庁への不満を表明。あからさまに政治に介入し、多国籍企業のための改革をさらに押し進めようとしている。

自民調査会、憲法改定へ要綱案
 自民党憲法調査会が進めている「安全保障に関する憲法改正要綱案」の全容が29日、明らかになった。案では「国防軍の保持」を明記し、「国際機構の運営や活動には、軍事力の行使を含む責任ある立場で積極的に参画する」としている。同時に、「国民は国家を防衛する責務を負う」と明示。さらに集団的自衛権の行使を認めている。改憲と、海外で軍事力を行使できる国づくりをめざす危険な動きだ。


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