20030525 トピックス

労働新聞　2003年5月25日号トピックス

世界のできごと

（4月30日～5月19日）

米「戦闘終結宣言」はあせりの表れ
　ブッシュ米大統領は５月１日、空母上で演説し、イラクでの主要な戦闘が終わったと「戦闘終結宣言」を行った。ブッシュは、テロなど反米国家・勢力は「米国の敵であり、裁きの対象となる」「大量破壊兵器を保持する無法者国家は…対決を受ける」と公言、武力を振りかざすブッシュ・ドクトリンを堅持すると表明した。だが、「終結宣言」を急いだのは、占領の合理化と経済制裁解除など、戦後の「復興」を自国主導で行う上で必要な手続きであるからに過ぎない。ブッシュにとっては、来年に控えた大統領選挙向けのパフォーマンスという意味もある。しかし、イラク国内では反米デモが続き、サウジアラビアやモロッコでは新たな反米テロも起きるなど、米国のイラク、中東支配は困難が山積みだ。

米英の制裁解除決議に世界が反発
　米英、スペインの３カ国は９日、イラクに対する経済制裁解除などを内容とする決議案を国連安全保障理事会に提出した。決議案の内容は、（１）軍事関連を除く経済制裁の解除、（２）米英がイラクの石油事業を実質管理、（３）石油収入に基づく支援基金設立、（４）１年間の占領承認と安保理の反対がない限りの占領継続などを内容とする。欧州は決議に同意はしたものの、国連の主導的関与を強調、米国が求める対イラク債権の放棄も拒否するなど、対立は解消していない。フランスは一時、「３カ月ごとの国連への報告」など、制裁解除への３項目の新条件を提示。中国、ロシアも、決議案は「重大な修正が必要」との態度をとったほど。こうした中、欧州連合（ＥＵ）のプロディ委員長は１０日、仏独が推進する欧州独自軍を支持、「世界は多極化が望ましい」と述べた。米国は戦略要衝であるイラクを侵略することにで欧州の独自化阻止をはかったが、かえって自立性は強まった。米国の世界一極支配の野望は、この面でも困難に直面している。

米、貿易赤字拡大しデフレ傾向強まる
　米国の３月の貿易赤字が１３日、明らかになった。赤字は前月比７．６％増加し４３４億5600万ドルで、過去２番目の高水準となった。そのほか、４月の各種指標も、軒並み落ち込みを見せた。失業率は０．２ポイント悪化し、４カ月ぶりに６．０％に。米景気に大きな影響を与える住宅着工件数は、前月比で６．８％減少（年率換算）、昨年８月以来の水準に低下した。自動車関連を除く小売業売上も、01年の同時テロ以来となる０．９％減を記録した。さらに、３月末までの１年間の企業破産・個人の自己破産は、前年より７．１％増加し１６１万1268件と、過去最高を更新した。イラク戦争に勝利した米国だが、「早期回復」どころか「双子の赤字」は拡大、実体経済も落ち込んでいる。連邦準備理事会（ＦＲＢ）が６日、政策運営方針を「判断留保」から「景気配慮型」に変更するほど危機は深刻で、景気浮揚の策はない。

サミット財務相会合、危機打開示せず
　フランス北部で行われていたエビアン・サミット財務相会合は１７日、共同声明を採択して閉幕した。世界的に経済危機が深刻化する中での会合だが、「各国が健全なマクロ経済政策を推進」などとするのみで、米国に「雇用創出と貯蓄・投資促進」、わが国に「構造改革継続」を求める程度。世界的危機の打開策は、またも示せなかった。米欧間で対立しているイラク復興支援に関しては、盛り込み自身が見送られた。米経済の後退や欧州の不況など、声明が「経済は多くの課題に直面している」と言わざるを得ないほど、列強の抱える危機は深刻である。

盧大統領訪米、米韓の溝埋まらず
　訪米した韓国の盧武鉉大統領は１４日、ブッシュ大統領と会談した。両首脳は朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）の核兵器開発問題などを議論した。共同声明は、①北朝鮮の核保有を認めず平和的解決を目指す、②危機が増大する場合は追加的措置を検討、③多国間協議を推進し、日韓の役割を重視する、④在韓米軍の統廃合、韓国軍の役割増大などを骨子とする。「追加的措置」には経済制裁などが含まれるとされるが、具体策にはほとんど踏み込んでいない。両首脳は「意気投合」を演出したが、北朝鮮への「太陽政策の継続」を進める韓国側と「軍事選択肢も排除しない」とする米国の間の溝が、引き続き深いことを示している。

ブレア与党が地方選で大敗
　英国で２日に投票が行われ、約１万の議席が争われた統一地方選挙で、ブレア政権の与党労働党が８３３議席を失う大敗をきっした。労働党の得票率は３０％にとどまり、野党の保守党も伸び悩み、第３党の自由民主党が躍進した。また、投票率は前回より約１０％も低下、約３割にとどまった。ブレア政権は、無法なイラク戦争に参戦する一方、医療分野への民間参入を進めるなど社会福祉政策を後退させた。今回の結果は、保守党政権と変わらぬ徹底した対米追随と国民犠牲の政治を進めるブレア政権への批判が、直接・間接に示されたものといえる。

パレスチナ、米主導の「ロードマップ」
　米国、欧州連合（ＥＵ）などは４月３０日、パレスチナ問題の終結を目指す「中東和平計画（ロードマップ）」を提示した。イスラエルとパレスチナの停戦を前提に、年内にパレスチナ新国家を樹立、05年までに国境線を画定させ、エルサレムの取り扱いなどを協議するという。だが、米国が主導し、アラファト議長の排除を明示する計画に対して、パレスチナ自治政府内でも反発が強い。パレスチナ自治区への軍事攻撃を続けるイスラエルのシャロン首相も、計画受け入れの確約を拒否した。また、周辺国のシリアは、イスラエルに占領されているゴラン高原の返還が盛り込まれなかったことから、計画を非難している。米国が中東を安定的に支配するために主導したロードマップでは、パレスチナ問題を根本的に解決することはできない。

新型肺炎でアジア経済に深刻な打撃
　中国を中心に全世界で感染者7500人、死者は６００人を超えた新型肺炎、重症急性呼吸器症候群（ＳＡＲＳ）の流行が、アジアを中心に経済に打撃を与え始めている。ＩＬＯの試算では、世界の旅行・観光業で５１６万人、関連産業まで含めて1365万人が新たに失業するという。さらに、ホンダが中国での新車製造延期を決めるなど、製造業にも影響が出ている。アジアは被害額が３兆円以上にのぼるとされ、これを受けてアジア開発銀行（ＡＤＢ）は５月１２日、約３０億円の支援枠を決定した。６月のエビアン・サミット（フランス）でも議題に決まるなど、世界経済の新たな不安定要因となっている。

人民のたたかい

（4月30日～5月19日）

世界のメーデー
　５月１日、世界で労働者の祭典であるメーデーが闘われた。
　ドイツでは全国で１００万人が参加、シュレーダー政権の進める失業保険給付期間の大幅削減や解雇規制緩和に反対した。チューリヒでは、イラク侵略に抗議する労働者が、３時間にわたり警官隊と衝突した。
　フランスでは「平和・年金擁護・雇用」をスローガンにメーデーが行われ、全国２００カ所で３４万人が参加した。
　ロシアの首都モスクワでは、２会場合わせて４万人の労働者が参加、引き続く給与の遅配や低賃金に抗議した。　韓国では、民主労総主催のメーデーに３万人が参加、メインスローガンの１つに「イラク占領米軍の撤退」が掲げられた。韓国労総主催の集会にも２万人が参加、両集会とも、パートの労働基本権保障、週休２日制実現などを訴えた。
　フィリピンでは、労組「５月１日運動」（ＫＭＵ）などが全国約８０カ所で集会を行った。首都マニラでは、２万人がデモを行った。
　インドネシアの首都ジャカルタでも、5000人の労働者が集会を開き、賃上げ、権利拡大などを訴えた。

　政府の年金制度改革に反対して１３日、フランス各地で全国９労組が統一ストライキを行った。地下鉄、バス、航空機など公共交通機関の８０％以上が停止し、小中学校も休校した。デモも１００以上の都市で行われ、パリでは公務員ら約２５万人など、全国で２００万人が参加した。シラク政権は欧州通貨統合参加を維持するため、財政赤字を国内総生産（ＧＤＰ）の３％以内に抑えようと、国民犠牲を強めている。
　韓国で９日、釜山、光陽両港で、軽油税引き下げやトラック運転手の待遇改善などを求めて、貨物連帯労組がストに突入した。ストは１３日には首都圏にも拡大、電機産業を中心に、韓国経済にも大きな影響を与えた。１４日、労働者は労災保険加入などを勝ち取り、ストは終結した。
　イラク南部のナシリヤで１２日、4000人のシーア派住民が集会を開き、米軍の完全撤退を訴えた。中部のファルージャでは４月３０日、7000人の反米デモが行われた。米軍はデモに発砲、住民２０人が死傷した。

日本のできごと

（4月30日～5月19日）

民主党裏切り、有事法制衆院通過
　小泉首相と民主党菅直人代表が５月１３日会談、有事関連法案（武力攻撃
事態対処法案、自衛隊法改正案、安全保障会議設置法改正案）の「修正」で合意した。１５日午後の衆院本会議は、与党３党と民主党、自由党などの賛成でこれを可決、法案は直ちに参院に送付された。形ばかりの「修正」で戦争準備法案に賛成した民主党の裏切りは、極めて売国的で犯罪的である。日米安保基軸の立場で、北朝鮮敵視をあおり立てるなど、安全保障政策で与党、自民党とまったく同じ路線に立つこの党には、何も期待することはできない。　（社説参照）

りそなグループへ公的資金投入決定
　政府は１７日、首相官邸で初の金融危機対応会議を開き、りそなグループが申請を決めた公的資金による資本注入を認めることを決めた。りそな銀行に２兆円規模を注入し、実質国営化する。日銀も同日政策委員会を開き、無担保無制限の特別融資を実施し、資金繰りを支援する方針を決定。小泉政権の不良債権処理加速化によって、わが国金融システムは破局の危機へ突入。実体経済もいっそう冷え込ませ、デフレ不況を深刻化させる。貸しはがし、「貸しえぐり」で中小商工業を未曾有の危機に陥れている大銀行への数次にわたる国民の血税投入など断じて許せない。　（関連記事３面）

１～３月、ＧＤＰ年率名目2.5％減に
　内閣府が１６日発表した１～３月期の国内総生産は、物価変動の影響を除く実質でも前期比０．００６％、年率換算で０．０２５％と実質ゼロ成長に減速、伸び率は３期連続で鈍化した。景気のけん引役となっていた輸出が米国の不況色の強まりなどで前期比０．５％減と大きく減速した影響が大きい。物価下落分を差し引き、個人や企業の実感に近い名目値では前期比０．６％減（年率２．５％減）となり、デフレの状況がいちだんと鮮明になった。竹中財政・金融担当相はデフレの実態の反映しない実質値をあげて「景気は横ばい」などと強弁。政府、与党内からすら「詐欺師」「粉飾決算」との声があがっている。

小泉訪欧、米国の提灯持ち外交
　小泉首相は３日、英国、フランス、ドイツ、スペインなど欧州歴訪を終えて帰国した。今回の訪問目的は米国の意を受けたもので、イラク戦争をめぐって激化した米欧関係の修復を、とりわけ仏独両首脳に訴えることであったが、「将来に向けて協調すべき」などという総論では一致したものの、米英主導で進められるイラク占領と復興をめぐって、仏独首脳は「すみやかに、国連の手にゆだねるべき」との基本的態度で妥協の姿勢を見せず、小泉の狙った「調停外交」はまったくの失敗に終わった。２５カ国体制の拡大欧州連合（ＥＵ）を展望し、独自軍の創設を目指すなど、対米関係での自立化、独自傾向を戦略的に追求し始めた欧州にとって、小泉の対米追随外交はあきれ果てるほどで、まるで説得力に欠けるものであった。一方、小泉は朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）敵視での欧州諸国の同調を求めたが、北朝鮮との国交関係を持つ独仏などは大きな関心を示さなかった。米国の提灯持ちのようなわが国外交は、全世界で軽蔑され、批判をかっている。

地方分権改革推進が改革試案
　政府の地方分権改革推進会議は１１日、地方自治に関する「３位一体」改革（国から地方への税源移譲、地方交
付税と国庫補助負担金の見直し）について、６月初めに小泉首相に提出する意見書の骨格を固めた。これは①税源移譲は将来の増税に合わせて行う②地方交付税を「地方共同税」と「財政調整交付金」に組み替え、大幅に削減する③国交補助負担金を削減し、残りを使途を限定しない統合補助金などに改めるなどが柱。国から地方への支出を大幅に削減する一方で、税源移譲を事実上先送りする内容。小泉の進める地方分権改革なるものの実態が、あからさまに暴露された。自治体の反発は必至である。

川辺川ダム利水事業に「違法」判決
　熊本県相良村に計画されている川辺川ダムから水を引く川辺川利水事業をめぐり地元農民が中止を求めていた訴
訟の判決が１６日、福岡高裁で言い渡され、国の手続きを「違法」と断じた。国は十九日、控訴を断念した。