労働新聞 2003年2月15日号 トピックス

世界のできごと

(1月30日〜2月9日)

米予算教書、イラク情勢で危機進行も
 ブッシュ米大統領は2月3日、議会に2004会計年度予算教書を提出した。先に発表した減税など、景気対策は向こう10年間で総額6700億ドルにも達し、それに伴う財政赤字は過去最大規模の3000億ドル(約36兆円)超となる。米国では昨年10〜12月期の国内総生産(GDP)が0.7%増と、前期比年率4%増となった7〜9月期に比べて大幅な減速となり、内需の柱である個人消費もわずか1.0%増と、景気の先行きに不透明さが増している。大統領選をにらむブッシュは、経済政策を景気重視に舵を切ることで、こうした懸念を払拭(ふっしょく)したい考え。しかし、この予算にはイラク攻撃にかかる戦費は計上されておらず、イラク情勢しだいでは景気テコ入れどころか、よりいっそう財政赤字が膨らみ、米国経済の危機を加速させるというシナリオも現実味を帯びてくる。

米、決定的証拠提示できず
 国連安全保障理事会は5日、外相級公式会合を開催した。その中でパウエル米国務長官が、イラクの大量破壊兵器開発にかんする「機密情報」なるものを開示した。だが、それはなんら物証を示すものでもなく「決定的証拠はない」と、パウエル国務長官自身も認めざるを得ないものである。こうしたことから、ドイツ、フランス、中国、ロシアなどは査察の継続を主張、米英が狙う早期の武力行使に引き続き反対の姿勢を示した。こうした各国の反応に対して、米国は「ドイツはリビアやキューバと同じ」(ラムズフェルド米国防長官)とののしり、慎重・反対を唱える国々に対するあからさまなどう喝を加えている。また、イラクの「戦後復興」策をめぐっても、戦争に反対した国の関与を排除する姿勢を示すなど、米国のなりふりかまわない姿勢に各国から激しい反発の声が上がっている。

ドイツ2州議会選挙、社民党大敗
 ドイツで2日、ニーダーザクセン州とヘッセン州の議会選挙が行われ、与党・社民党が大敗した。ドイツでは財政赤字が拡大、連邦政府は、財政赤字をGDPの3%以下に抑えるという欧州連合(EU)基準を達成するために、緊縮財政などの諸改革を行ってきた。その結果、今年1月の失業率が、現社民党政権になったこの5年間で最悪の11.1%になるなど、政権基盤である労組をはじめ、国民多数からこうした犠牲の押しつけに反発の声が高まっていた。また社民党は「イラク攻撃反対」を選挙戦の中で訴えてきたが、一方で空中警戒管制機(AWACS)のトルコ派遣を決めるなどの矛盾した態度も、シュレーダー政権への批判を強めた。

人民のたたかい

(1月30日〜2月9日)

 フランスで1日、年金制度の維持・発展を要求して労働総同盟(CGT)、民主労働同盟(CFDT)などの7労組が統一して呼びかけたデモが、全国100以上の都市で行われた。パリの集会には約5万人が参加、「われわれの年金は株式市場で決定されてはいけない」と訴えた。
 スロバキアで1月31日、ローカル線の廃止に反対して国営鉄道労働者が無期限ストに突入した。スロバキアを通過する国際線を含むすべての路線でストに突入した。
 ドイツ各地で2
月3日、イラク戦争反対のデモが行われ、ライプチヒでは約1万人が参加した。また8日には、米ラムズフェルド国防長官が出席してミュンヘンで開かれた国際会議に合わせて約1万人が「戦争NO ラムズフェルド」と書かれた横断幕を掲げデモを行った。
 インドネシアで9日、数万人が対イラク戦争反対のデモを行った。対イラク戦争反対では、同国でこれまでで最大規模。

日本のできごと

(1月30日〜2月9日)

小泉の施政方針演説、改革加速を宣言
 小泉首相は1月31日、衆議院本会議で施政方針演説を行った。この中で小泉は、歳出、税制、金融、規制の4分野で構造改革を加速させる決意を表明。不良債権処理の加速化に全力で取り組むことを強調、「改革なくして成長なし、との路線を推進する」との立場を繰り返した。一方、深刻さを増すデフレ対策では、「政府・日銀一体となって取り組む」との考えを示したにとどまり、新たな具体策は何ら示されなかった。周知のように改革政治自身がデフレ要因で、この加速は国民生活をいっそう深刻な状況に追い込むもの。一方、財政面では、今年度補正予算で既に突破した新規国債発行「30兆円枠」を、プライマリーバランス(財政の基礎的収支)の2010年代初頭での黒字化なる新たな目標で置き換え、改革政治の破たんを隠ぺい。税制面では贈与税非課税枠拡大、土地流通税の大幅軽減など金持ち、大企業優遇税制で矛盾を先送りし、そのツケを勤労国民の負担増で乗り切ろうとしている。また、対北朝鮮外交問題では、相変わらず「拉致問題の全面解決に最大限努力」「北の核開発放棄を米韓両国と密接に連携し、強く求める」など、対米従属の北朝鮮敵視政策の継続を表明した。多国籍大企業の忠実な走狗である小泉の施政方針演説は、日本経団連の頭目・奥田らの叱咤(しった)激励にこたえ、しゃにむに改革政治と売国外交をすすめことを表明したもので、この国で生き、営業する国民大多数の利益とますます矛盾を深め、広範な抵抗、闘争を高めずにはおかない代物である。

昨年の失業率また最悪の5.4%
 総務省が31日午前に発表した労働力調査(速報)によると、2002年の平均完全失業率は5.4%で前年比0.4ポイント悪化、2年連続で過去最悪を更新した。また、昨年12月の完全失業率は5.5%となり、前月より0.2ポイント悪化し、これも過去最悪となった。小泉改革の加速化の中で、3月決算に向け企業倒産の激増、失業の増大はいっそう深刻化しよう。街頭に溢れる失業者の怒りが、全国で行動へと発展することは疑いない。

デフレ不況下もトヨタ一人勝ち
 トヨタ自動車が2月5日発表した02年10〜12月期連結決算は、売上高が前年同期に比べ13.2%増の4兆1867億円、経常利益は59.0%増の3702億円と、大幅な増収増益となった。この結果、2002年4〜12月の経常利益の合計は、前年同期より53.3%も増えて1兆1642億円に達した。トヨタの経常利益は01年度、日本企業で初めて年間1兆円を超えたが、これをすでに9カ月間で上回った。これは、北米、欧州など世界すべての地域で販売台数が増えたこと、何より、ギリギリのリストラや徹底した下請けいじめによるコスト削減効果が大きい。10〜12月の増益1500億円のうち、コスト削減効果は700億円と円安による増益要因200億円の3倍以上に達した。製造業といっても国内基盤の企業と異なり、世界で展開する多国籍企業は為替変動にすら影響を受けず、米ドル体制に寄り添って、膨大な利益を稼ぎ出している。このトヨタ社長の奥田が、「奥田ビジョン」などといって、デフレ不況下で苦しむ国内産業、勤労国民など何ら顧みず、国民経済を破壊するグローバリズムと改革政治の加速化を叫ぶのも当然だが、国民多数にとってはそれは地獄で、多国籍企業の手からこの国の政治を奪い返さなければならない。

NLP施設誘致、沖美町が白紙撤回
 広島県沖美町が米軍空母艦載機の夜間連続離着陸訓練(NLP)の施設を町内の無人島・大黒神島に誘致する方針を打ち出した問題で、町議会は3日、町長、議長連名の誘致要請書の防衛施設庁への提出を取りやめた上、誘致に反対することを決めた。町議側は、要請書に当初賛同したことについて、「米軍基地視察に必要と聞いたから」などと話している。これを受け、谷本英一町長は5日、誘致表明後わずか1週間で白紙撤回を表明。被爆地・広島市や県、平和団体などの猛烈な反対に加え、町議会の離反も招いたことで、町長は辞任に追い込まれた。町長は「防衛施設庁から計画をいっさい漏らすなと厳命された」と述べ、この不明朗な事態の背景に、住民不在で、過疎地の苦境につけ込んだ政府、防衛施設庁の画策があったことを暴露した。


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