労働新聞 2002年11月5日号 トピックス

世界のできごと

(10月20日〜10月29日)

「核」口実に北朝鮮包囲強める米国
 米国は、自らが朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への軽水炉建設など94年のジュネーブ合意に違反していることを棚に上げ、核開発を口実に、北朝鮮への包囲を強めている。本来、朝鮮半島に大量の核兵器を配備する米国が、北朝鮮の核開発について非難する資格はない。ところが、パウエル米国務長官は10月29日、横暴にも「北朝鮮の核兵器開発放棄なしには、米日との国交正常化は不可能であり、他国も含め経済的支援は期待できない」とどう喝した。メキシコでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)席上でも、米国は日本、韓国などを語らい、北朝鮮包囲を画策した。これに対して北朝鮮は25日、米国の武装放棄要求を拒否しつつ、不可侵条約の締結を提案、米朝交渉再開に意欲を見せた。

米国の思惑はずれたAPEC
 メキシコのロス・カボスで行われたAPECが27日、宣言を発表し閉幕した。会議は、自由貿易推進やテロ問題、北朝鮮の核開発問題などが討議された。しかし、貿易自由化では、世界貿易機関(WTO)新ラウンド交渉を2004年中に終結させるなどで合意したものの、具体的措置は盛り込まれなかった。テロ問題についても、資金流入監視などで合意したのみ。米国はアジアへの関与を強めようと、本来経済会議であるAPECに、政治的要素を持ち込む動きを強めている。だが、イラク攻撃に異論が続出したように、そのもくろみは成功しなかった。

ブラジル大統領にルラ氏
 ブラジル大統領選挙で27日、雇用拡大を訴えた労働党のルラ氏が当選した。同国では、前カルドゾ大統領の社民党政権が国際通貨基金(IMF)の融資条件を受け入れ、民営化や規制緩和を進めたことから失業者が急増、貧富の格差が拡大した。また、対外債務も国内総生産(GDP)の58%を超え、隣国のアルゼンチンともども、経済危機が深まっている。ルラ氏の当選は、米主導のグローバリズムに対し、広範な国民が不満と怒りを表明したことでもある。ブラジルの対外債務の約24%は米国からのものであり、同国の経済危機は、米国経済に重大な影響を与える可能性が高い。新政権誕生後から株・通貨が下落していることもあり、危機感を深める米国は、「自由貿易推進で協調したい」と、早くも新政権に揺さぶりをかけている。

プーチン、毒ガスで独立運動を弾圧
 ロシアのプーチン政権は26日、チェチェン共和国からのロシア軍撤退などを求めてモスクワの劇場を占拠していた武装勢力を、人質100人以上と共に虐殺した。死者のほとんどは、特殊部隊が使用した毒ガスによるもので、化学兵器の開発・保有などを禁じた「化学兵器禁止条約」への明白な違反。イラクや北朝鮮の「生物・化学兵器」を問題視する米国だが、イラク攻撃にロシアの協力を取り付けることと、「反テロ」の結束を乱すことを恐れ、プーチンを支持するダブルスタンダードを取っている。

人民のたたかい

(10月20日〜10月29日)

 ワシントン、サンフランシスコなどで26日、米国のイラク攻撃に反対するデモが行われた。反戦団体など計15万人が参加、ベトナム戦争以来、最大規模となった。
 1カ月にわたってストライキを行っていた、ボストンのビル清掃労働者2000人が23日、30%の賃上げと医療給付拡充などを勝ち取った。清掃業務には移民が多く、低賃金や不安定雇用が横行している。
 ドイツで26日、ベルリン、フランクフルトなど70以上の都市でイラク攻撃に反対するデモが行われ、ベルリンでは3万人が参加した。労働組合や平和団体などでつくる「平和の枢軸」が呼びかけたもの。
 韓国ソウルで26日、米軍糾弾集会が行われ、米韓連合土地管理計画(LPP)撤回などを求めた。LPPは23日に韓国国会で批准されたが、米軍と韓国政府が私有地に対し、利用計画を指示できるというもの。

日本のできごと

(10月20日〜10月29日)

核問題を交渉課題に押し上げた小泉
 日米韓首脳は10月26日、メキシコのロス・カボスで会談し、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に核開発させないために連携することで合意した。小泉首相は29日からマレーシアのクアラルンプールで再開する日朝国交正常化交渉について、「核問題と拉致問題の解決が国交正常化の前提」との基本姿勢を示した。核問題は本来、米国と北朝鮮の問題であり、日本は当事者でない。にもかかわらず、米国の意図を受け、国交正常化交渉の第一級課題に押し上げた。また、政府は24日、一時帰国している拉致被害者5人を離日させず、永住前提に対朝交渉を進めると一方的に決定をするなど、日朝正常化交渉のハードルをますます高くしている。これは、北朝鮮との国交正常化を願う国民の期待を裏切る行為である。   (関連記事1面

統一補選、投票率は過去最低
 衆参統一補欠選挙が27日、7選挙区で投開票された。投票率は全選挙区で過去最低を記録し、参院千葉は24.14%と、4人のうち3人が投票に行かなかった。国民が既成政党への不信を、真正面から突きつけたといえる。自民、公明、保守の与党3党は全選挙区で統一候補を擁立、5選挙区で勝利した。しかし、自民党は神奈川など4選挙区で、候補者が複数立候補する分裂選挙となった。結局、低投票率の下で公明党を引き入れた候補が勝利したことになる。自民党は「勝利」したものの、「小泉政権が信任されたと思っている人は1人もいない」(麻生政調会長)との声が上がるなど、党内の亀裂はいっそう深刻。民主、自由、社民3党は3選挙区で共闘しだが、衆院山形4区で当選しただけで惨敗。民主党執行部に対する責任論が浮上し、鳩山・中野体制はさらに窮地に陥った。 (社説参照

日中首脳会談、中国が靖国参拝を批判
 メキシコ滞在中の小泉首相と江沢民・中国主席は27日、会談した。中国側は会議の中心議題に、小泉首相の4月の靖国参拝を取り上げ、「13億人の人民の感情に触れる問題だ」と強く批判した。首相は「2度と戦争をしないとの決意から参拝している」と、的外れな説明に終始し、引き続き靖国神社参拝に固執する姿勢を示した。侵略戦争を反省しない日本の横柄な態度が、中国国民の対日感情を硬化させる大きな原因となっている。中国との関係悪化は、わが国の外交にとって大きなマイナスである。国交正常化30年の記念すべき年に、冷や水をさす首相の態度は許されない。

男性社員の20%が月80時間超の残業
 総務省が26日に発表した労働力調査によると、1カ月あたりの時間外労働時間が80時間を超える男性社員の割合が、この10年間で最も多い21.4%となった。特に30代前半では、27.1%にのぼっている。フルタイムで働く男性会社員3119万人のうち、約666万人が該当している。月80時間の残業は、厚生労働省が労災認定基準で過労死との因果関係が強いとした時間。リストラで中高年労働者の首を切り、残った社員が過労死寸前の残業で苦しんでいるという、労働者の実態が浮かび上がる。

雇用保険料、さらに0.2%引き上げへ
 厚生労働省が失業保険料を0.2%引き上げて1.6%とする方向で最終調整に入ったことが28日、明らかになった。今後5年程度の失業保険の財源を確保するとの口実で、来年6月から実施する。厚労省は10月1日から法改正せずに保険料率を上げ下げできる「弾力条項」を発動、料率を0.2%引き上げて月収の1.4%に変更したばかり。また、失業保険の給付削減も打ち出している。失業者増大の責任をとらず、国民負担増で失業者対策に代える政府の姿勢は、許せない。

富士通など、リストラさらに広がる
 富士通は29日、採算が悪化した通信機器部門を中心に、国内外でグループ人員の4%にあたる7100人(国内5400人、海外1700人)を削減することを明らかにした。前期にも、2万人をリストラしたばかり。また、マツダは21日、マツダ府中工場を04年度に閉鎖し、小型トラック自社生産からの撤退を発表した。景気回復のめどが見えない中で、企業のリストラがさらに広がり、労働者のみに犠牲が押しつけられている。


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