労働新聞 2002年10月5日号 トピックス

世界のできごと

(9月10日〜9月29日)

米英が新決議画策、イラク攻撃に固執
 イラクは9月16日、国連による大量破壊兵器の査察を無条件に受け入れると表明した。98年に行われた前回の査察では、査察団長が米中央情報局(CIA)メンバーであるとイラクが非難、査察は米英による爆撃の中、中断された。査察団長が米国のスパイであったことは、本人の証言によっても明らか。イラクは今回、あえて査察を受け入れることで、米国による攻撃を回避すると同時に、経済制裁などの包囲網を突破しようとしている。これに対し、米英両国は武力行使を背景に無条件・無制限の査察を求める新たな安保理決議の草案をまとめ、国連やフランス、中国、ロシア、アラブ諸国などの反対を押し切って、独断でイラク攻撃に踏み切る態度を示している。事実上の「宣戦布告」に等しい草案に対して、イラクは受け入れ拒否を言明した。イラク攻撃の国際的支持が得られず、新たな国連決議を画策するところに追い込まれていた米国は、攻撃に向け暴走を強めている。

独総選挙、社民後退明白に
 ドイツ連邦議会選挙が22日行われ、シュレーダー首相率いる与党・社会民主党(SPD)は敗北したが、同盟90・緑の党との連立継続でかろうじて政権を維持した。ドイツでは、400万人を超える失業者など景気後退が顕著で、02年の国内総生産(GDP)に占める財政赤字比率が2.9%と、ユーロの参加条件である3%に迫る勢い。辛くも政権を維持できたのは、米ブッシュ政権が計画しているイラクへの参戦を否定するなどが、一定支持されたことがある。しかし、シュレーダーは過去に米国に協力し、旧ユーゴスラビアなどに軍隊を派遣した「実績」を持っており、こうした姿勢が長続きする保証はない。一時、欧州各国では社民政党が「第3の道」などと称して与党となったが、実体は大企業に奉仕し、労働者に犠牲を押しつけた。今回の選挙結果は、そうした社民政党の裏切りに対する、国民の厳しい批判が噴出した形となった。

G7、リスク指摘するも打つ手なし
 ワシントンで開かれていた7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は27日、株安への歯止めと成長持続に向けての政策協調を確認する共同声明を採択した。声明では、世界経済について「リスクが残っている」と指摘、また、エンロンなど米巨大企業の不正会計疑惑が市場の不信を招いたとして、企業の情報開示の改善などの必要性について強調した。しかし、世界的な株安などに対する抜本的な解決に向けた方針を示すことができないなど、各国とも、深刻な経済危機に打つ手がないことを確認するに過ぎない会議となった。

米台国防次官級会談
 ウルフォウィッツ米国防副長官と台湾の康寧祥・「国防」副部長が10日、ワシントンで会談した。79年の断交後、最高レベルの公的軍事協議となった。会談の詳細は明らかにされていないが、台湾軍の近代化をめぐる軍事支援についてと思われる。ブッシュ政権はアジア政策において、中国を最大のターゲットとしており、台湾への軍事援助はこの戦略の一環。去る3月にも湯曜明・「国防」部長が訪米しており、「中国の軍拡」を口実に、米国は台湾を使った対中牽制を続けている。

人民のたたかい

(9月10日〜9月29日)

 同時テロから1周年を迎えたニューヨークで10日、反テロ戦争に反対し2000人が集会を行った。G7会議が開かれていたワシントンでは27日、反グローバリズムを掲げて数千人が抗議デモを行った。
 英国で28日、イラク攻撃に反対する大規模な抗議デモが行われ、35万人以上が参加した。ロンドンで25日、鉄道運転士組合などの地下鉄労働者が24時間ストを闘った。
 イタリアのローマで28日、米英によるイラク攻撃に反対して約十万人がデモ行進を行った。25日、公共交通労働者が賃上げと労働時間短縮などを求めて全国で24時間ストをうった。
 南米コロンビアで16日、国際通貨基金(IMF)による年金制度改革要求などに抗議し、民主労働者連盟傘下の公務員や航空労働者などが24時間ストを行った。

日本のできごと

(9月20日〜9月29日)

不良債権処理促進で公的資金投入へ
 小泉首相は9月20日、銀行がかかえる不良債権処理のための、政府の抜本的促進策を10月中にまとめる方針を表明した。同日の経済財政諮問会議も、10月末に金融システム改革に関する総合的な対策を打ち出すことで一致し、先に決定した日銀による銀行の保有株買い取り策と併せて、大銀行救済のための、政府のなりふりかまわぬ支援策が示されることになる。不良債権処理の加速は、先の日米首脳会談で対米公約となっていたもの。不況の深刻化・長期化の中、米経済の先行き不安を背景に、株安は加速し、わが国金融システムはいっそう不安定化している。不良債権処理促進は、デフレ対策、金融システム安定化の名目で、公的資金(国民の血税)を投入し、大銀行だけを救済、中小金融機関を切り捨てて中小零細企業を大量倒産に追い込むもの。財政構造改革との関係で、公的資金投入ではいまだ政府内でも対立があるが、不況対策優先で「改革なくして成長なし」とした小泉の改革路線は、瀬戸際に追い詰められることとなった。

代表選挙後いっそう混迷深める民主党
 民主党は23日に臨時大会を開き、代表選挙を実施、鳩山前代表が僅差で再選された。「次期総理を選ぶ選挙」を売り物に、低迷する支持率回復を狙った選挙戦だったが、基本政策で大差のない候補者、談合や派閥、世代対立など、この党の自民党とまったく変わらぬ体質が暴露され、国民の不信感はいっそう深まった。それどころか、大量の批判票の存在で鳩山体制は発足当初から求心力を欠き、幹事長人事をめぐって執行部形成が空転、党内の対立と混迷を見せつけた。この党の混迷と無力さは、窮地の小泉政権を延命させる犯罪的役割を果たしている。

日朝政府間協議開始
 中国・大連で21日、日朝首脳会談後初の政府間協議が始まった。10月の国交正常化交渉再開に向け、日程や議題の調整を行うもの。日本側は拉致問題の真相解明を重視する方針を伝えたが、この問題を利用して、国内の反朝鮮の排外主義世論をあおり、安保問題など交渉の「ハードルを高め」て、北朝鮮のいっそうの譲歩を迫ろうとする政府の態度は、平壌宣言の精神と合意事項を裏切るもので、許されない。宣言の誠実な履行を求める世論を強めなければならない。(1面参照)

原発の欠陥評価、「軽微」なひび容認
 経済産業省は26
日、相次いでいる電力会社による原子力発電所のトラブル隠しの再発を防止するためとして、原発の「維持基準」(欠陥評価基準)の新設や自主点検の法制化などを柱とする対策をまとめた。しかしその内容は、運転中の原発のひび割れなどの欠陥が発見されても、新たな基準にそって「安全」に問題がないと判定されれば、容認するというもの。電力会社の利益優先でずさんなチェック体制、電力会社、保安院、国が一体となったトラブル隠しが暴露されたばかりのこの時期、国民の不信と不安は高まらざるを得ない。プルサーマルなど新規事業の撤回はもちろん、稼動中の原発すべての停止、第3者機関による点検、情報公開など、国は最低限の安全措置を直ちに実施すべきである。

民間給与が最大の下げ、我慢は限界
 民間企業に勤める人(役職者含む)が2001年1年間に受け取った1人当たりの平均給与(給与、手当て、一時金合計)は454万円で、前年に比べ7万円(1.5%)減少したことが26日、国税庁がまとめた民間給与実態統計調査で分かった。4年連続で前年を下回り、下げ率・下げ幅とも過去最大を記録した。所得の減少傾向は今年度に入ってからも続いており、厚生労働省がまとめている毎月勤労統計調査でも、今年7月分(速報)の1人当たり現金給与総額は41万571円と前年同月より5.2%減少、15カ月連続で減少し続けている。一方、厚労省がまとめた所得再分配調査結果によれば、家計の所得格差が拡大していることもわかった(99年時点)。この8月の完全失業率は、5.4%と高率で横ばい、完全失業者数は361万人と、17カ月連続で増加している。吹き荒れるリストラ、賃下げ、就職難、さらに若年未就職者の増大と、勤労国民の生活はかつてなく悪化し続けており、我慢はすでに限界である。


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