991215 社説


WTO閣僚会議が決裂

世界は帝国主義の思い通りにはならない


 「大規模なデモで始まり、決裂で終わった」シアトルでの世界貿易機関(WTO)閣僚会議決裂は、二〇〇〇年を目前に利害がいっそう対立する今後の国際通商の波乱を予告するかのような出来事だった。
 これはまた、こんにちの世界諸国間の力関係を反映したひとコマでもあり、とりわけ発展途上国の力をまざまざと見せつけた。逆に、米国は世界から完全に孤立し、その対外的威信は大打撃を受けた。
 こんにち経済の「グローバル化」の波が世界経済を席巻(せっけん)しているかのように見える。だが、シアトルでの出来事は、米国をはじめとする多国籍企業の途上国や人民を食い物にする「グローバル化」を告発した。逆に言えば、いかなる途上国、また先進国の勤労人民も平和で豊かに暮らせる、国際経済の新たな秩序のあり方を問うているといえよう。
 今回、ひいてはわが国の経済・外交、生き方も問われた。実際、この会議の中でわが国も利害をかけてさまざまに動いた。従来の米国に屈服するばかりの路線では、長期的には決してやっていけないことは明らかである。対米従属を脱却し、自主的・平和的にアジアと共生する道こそ、わが国のとるべき進路である。そのために広範な戦線を築いて闘わなければならない。

米国に批判が集中、徹底的に孤立

 今回の会議は、二〇〇〇年一月から始まる次期貿易交渉(新ラウンド)でいっそうの貿易自由化を進めるために、交渉の対象分野、期間、方式などを決定し、宣言として採択することが任務だった。
 そもそも戦後世界の貿易体制は四七年、各国の貿易制限の撤廃をめざした関税と貿易の一般協定(ガット)設立から始まる。これができたのは、三〇年代前後の大恐慌時に主要国が保護主義、ブロック化に走り、世界不況をさらに悪化させた教訓に基づくといわれている。この体制下で八回の多国間(多角的)交渉をへて九五年、ガットからWTO体制へ再編された。すでにガットのもとで、関税引き下げを中心に多数の協定が結ばれた。
 ガットには途上国も入っていたが、交渉は、米国など先進資本主義国主導のため、かれらに有利な結果になったことは言うまでもない。また、前回の交渉(ウルグアイ・ラウンド)では、農業問題で日本、欧州など先進国間でも対立が激化したことは周知の通りである。
 今回、次期交渉のテーマをめぐって各国は激しく対立した。特に、米国の行う反ダンピング措置の見直し、貿易と労働条件との関係、農業のいっそうの自由化問題などをめぐってである。
 反ダンピング措置問題では、従来から米国の乱用を非難していた日、欧、途上国が一致してルール見直しを対象とするよう要求した。この問題は、輸入品を米国が勝手にダンピングと判定し、高関税をかけ輸入を阻止しようとするものである。現在、日本の鉄鋼製品が最大の標的になっている。
 また労働条件問題は、途上国が低賃金で安い製品を輸出しているとして、米国が途上国などの労働条件を規定しようと狙っているものである。これには、途上国などが猛反発した。
 ほかにも農業や投資ルール問題などで、さまざま対立した。米国は、来年大統領選で、業界の強い要求を受け、頑固であった。そして完全に孤立し、会議は決裂したのである。
 シアトルの会議は、いま世界にある資本主義列強間の矛盾、先進国と途上国との矛盾、支配階級と人民との矛盾の激化をうかがわせた。こんにちの世界資本主義の危機は、こうした各種の矛盾の発展からもさらに深まらざるをえない。

決定的な途上国の怒りとパワー

 今回の会議で、目立ったのは途上国の怒りとパワーだった。WTO加盟百三十五カ国・地域のうち、途上国は約八割で百カ国を超える。
 途上国は前述のような労働基準などの問題で、米国、先進国が押し付けようとすることに反発した。そればかりではない。日欧米ひとにぎりの連中が中心で、途上国がのけ者にされる会議の運営にも反発を示した。さらに、WTOに来年加盟予定の中国のオブザーバー参加の影響も見逃せまい。「世界最大の途上国」の立場で参加した中国は、途上国と連携して米国主導のWTO運営体制に対抗する方針を明らかにした。これらが相まって、途上国による宣言署名拒否運動は、一時期、加盟国の半数を超える勢いにさえなった。
 過去、途上国は多角的交渉で再三自由化をのまされてきた。まして、九七年以来のアジア経済危機と、その後の米国・国際通貨基金(IMF)によるインドネシア管理などの傷跡は生々しい。今日の帝国主義を批判し、「グローバル化は経済植民地化につながる」との警戒感を抱くのは当然であろう。まして、マレーシアのマハティール首相が提唱した東アジア経済協議体(EAEC)構想や昨年実施した資本取り引きの厳格な国家管理が、こんにち高く評価されている根拠もここにある。
 今後、途上国は、帝国主義国の策動もあり、曲折はあろうが先進国に対抗して世界の貿易体制を左右する大きな要因となる力を持っている。

問われる日本の進路

 わが国は、こうした対立する世界の中で対応が迫られている。
 小渕政権は、農業問題や米国による反ダンピング措置の見直しなどを重視したとされている。また、ともすれば動揺的な日本も途上国の断固たる姿勢によって、妥協が困難になったとも伝えられている。
 今回の会議でも、米国はわが国に再三圧力をかけてきた。クリントン大統領が小渕首相に電話で妥協を迫ったり、はては「沖縄サミットに影響が出るぞ」(大統領補佐官)とまで脅したという。これほどあなどられるのはもともと対米従属のわが国の対外路線の結果である。
 ちょうど、このシアトル会議の直前、アジアでは東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国との首脳会談開催、また十三カ国初めての共同声明など、独自の結束が進んだ。日本に対するアジアの期待も大きい。
 長期にわたるわが国の平和と発展を保障するには、対米従属の道を転換しアジアと共生する自主・平和の進路を進まなければならない。まして、世界資本主義の危機が深まる中ではいっそう問われている。
 そうした前途をかちとるために、広範な国民的戦線を築き国の進路のために闘う必要がある。


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