介護保険は根本的に改めるべき

991115　社説

見直し策で窮地に立つ小渕政権

介護保険は根本的に改めるべき

　またもや小渕政権は、選挙目当ての露骨なバラマキ政策を打ち出した。介護保険制度の見直しがそれである。これほど人をばかにした話はない。
　そもそも来年四月実施予定の介護保険制度は、その通りに実施すれば「介護の沙汰（さた）もカネ次第」「保険料取られても介護なし」ともいわれるように、重大な問題を抱えていた。保険運営の主体となる全国市町村の努力にもかかわらず、その限界は露呈し、国民の不安、不信は増大するばかりだった。その上に、今度の見直し騒ぎである。
　実施を目前に控えたこの時期の突然の決定に対して、自民党内も含め各方面からさまざまな批判が噴出している。連立政権を組む自由党は、制度の財源問題なども材料にして揺さぶりをかけている。いずれにせよ、見直し案は逆効果となり、小渕政権は大変な窮地に立たされた。
　介護保険の抜本的な見直しを求める国民的な闘いを発展させ、小渕政権を追い詰めよう。もともと既定の介護保険は、国が社会保障の責任を放棄した不当なものである。この制度を根本的に改め、国民の権利である社会保障の充実、国に介護保障制度をつくらせる好機でもある。

選挙目当てのバラマキは明らか

　政府は十一月五日、自自公三党合意を受けて、介護保険制度の見直し策を発表した。内容は①六十五歳以上の保険料は半年間徴収しない、②四十～六十四歳の保険料軽減のため、一部健保組合などへ財政支援する、③低所得の家族介護世帯へ年十万円までの慰労金を支給する、などである。
　これを決めた政府の態度は、介護保険が抱える深刻な問題を、とりあえずカネをばらまいて切り抜ける策のように見える。つまり、既定方針通り実施すれば、介護現場の混乱は火を見るより明らかだったからだ。その証拠に、すでに今年七月までに、全国自治体の三分の一を超える約千二百の議会が、施設設備、人材確保、認定基準の見直し、財政支援の充実などを国に求めて意見書を提出している。
　したがって、自民党など与党にとって、介護保険をめぐる混乱と国民不信のただ中での総選挙回避は至上命令だった。そういう不利な環境では、与党の敗北は目に見えているからだ。
　その窮余の一策が、今回の見直し案である。自自公三党の調整に動いた桜井新・自民党政調会長代理は、自民党内への説得に「みんなでタイタニックに乗り込んでいいのか。昨年の参院選の（敗北の）ようになってもいいんですか」と、総選挙目当てということをあけすけに語っている。例えば、見直し案では六十五歳以上の保険料は来年十月まで徴収しない。現在の衆議院議員の任期はその十月までだから、総選挙が終われば六十五歳以上でも集めるということだ。あまりにも票目当てがみえみえである。
　要するに、今春の「地域振興券」が統一地方選向けならば（公明党取り込みの国会対策費でもあったが）、今回は総選挙向けの「福祉版振興券」である。前回が約七千億円、今回は約一兆七百億円の選挙費用というわけだ。このような党利党略の露骨な策動は、断じて許してはならない。
　しかも注意すべきは、この見直しに必要な財源の大半は、赤字国債の増発によるということである。これは、小渕政権延命のための費用を後世代の国民負担増として「ツケ回し」することである。まさに小渕政権は、自らの政治的延命のためになりふり構わぬ強行策に出ている。もとより認められることではない。
　だが同時に、こうしたいっそうの財政破たん政策は、自ら墓穴を掘ることになるであろう。

もともと介護保険が問題である

　もともと介護保険は、これまでの「措置制度」という国の責任を放棄して、介護をカネ次第の保険制度に転換するものであった。従来の福祉財源は、国が保障していたので税金だったが、これを「超高齢社会」を控えて広く財源を求め、負担と給付の関係を明確にし、サービスを利用しやすくするという名目で保険制度が決定された。
　しかし、介護保険は極めて選別性、排除性が強いものである。この保険の問題点は多数あるが、大きな問題は一言で言って国民負担は増えるが、必ずしも必要な介護サービスが保証されないこと。しかも低所得者ほど「公的介護」から排除され、切り捨てられる。他方、大都市の富裕層の負担は軽くなる。まさにカネ次第の社会保障制度の選別主義的再編である。
　こんにち、あたかも「介護財源は税金か、保険か」が見直し論争の焦点のごとくいわれている。これは議論のすり替えである。税金を主張する自由党の狙いは、財界の負担軽減にある。すなわち、雇用者の介護保険の半額は所属企業が負担することになり、財界は不満を募らせているからだ。しかも、自自公三党合意は消費税を福祉目的税に改めるとし、自由党は消費税大増税の意図も隠さない。
　大企業優先の財政運営を転換させ、医療・福祉への財政支出を大幅増加、社会保障制度の拡充を実現しなければならない。政府の介護費用総額は、およそ四兆七千億円（来年度概算要求）で、そのうち国民・企業負担分が約二兆六千億円（全体の五六％）、ほかは公費負担（国・自治体）である。ところが、政府は大銀行救済に六十兆円もつぎ込むような大企業優先の財政運営を行い、対米従属と軍事大国志向の軍事費も五兆円を突破（概算要求）する実態がある。「税金か保険か」の問題ではなく、まさに国民への社会保障という政府の責任の問題であることは明白である。
　社会保障予算の削減、国民負担の増大ではなく、社会保障拡充を要求して闘わなければならない。

孤立し窮地の小渕政権

　こそくな介護保険見直しは逆効果となり、小渕政権は国民の不信と怒りの集中砲火を浴びている。既定方針推進の立場なども含め、全国の自治体、マスコミ、野党、果ては山崎、加藤、小泉氏（ＹＫＫ）など自民党内まで批判が噴き出ている。全国知事会、市長会、町村会は相ついで「緊急意見書」を提出し「国の決定に従って実務を担当することとされ、苦労を重ねている市町村としては、もはや堪え難い思いである」とまで痛烈に批判。マスコミも「発足まで半年を切った時点で、制度の根幹を揺るがす変更を加える。根底にあるのは、選挙目当てのばらまき発想である」（朝日）と手厳しい。
　自由党は、第二次補正予算案までも材料にして揺さぶっている。小渕政権への不信は極度に高まり、かれらは孤立しつつある様相を呈している。
　自民党は三党連立を成立させ「巨大与党」などというが、実体はかくのごとしである。三党連立以後も、参院長野補選惨敗、西村防衛次官辞任など国民の批判は根強かった。最近のある世論調査では「あまり期待しない」「全く期待しない」が合わせて六一％に達している。世論の背景には、長期の不況と国民生活の深刻な苦境もあるであろう。これらの批判的雰囲気の前に、自民党は団体・企業の政治献金禁止問題で継続、撤回と動揺を露呈する始末であった。われわれが再三指摘してきたように、「ハリコの虎（とら）」にすぎないのである。
　闘って小渕政権を追いつめ、国民の要求を実現する好機である。
　野党が政府の見直しに反対しているといっても、注意しなければならない。例えば、民主党は既定の介護保険実施を要求しているだけで、不況とリストラで困窮する労働者の社会保障負担増を抑えようともしない。とうてい労働者、貧乏人の立場に立つものではない。共産党は、早々と国の責任による社会保障を要求しない方針に転換し、国民負担増の介護保険制度そのものを容認して小手先の見直しを求めるだけである。こういう連中を決して支持するわけにはいかない。
　ただでさえ長期の不況、さらに日産など大リストラの追い打ちが続き、国民の生活苦と不安は増大する一方である。介護保険見直しのペテンにだまされてはならない。
　状況は有利である。広範に連携して、国民の総批判の前に窮地に立つ小渕政権を追い詰め、低所得者でも誰でも安心してサービスが受けられる本当の介護制度、社会保障を実現させよう。

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