国連平和維持軍の凍結解除を阻止しよう

991025　社説

近づく臨時国会

国連平和維持軍の凍結解除を阻止しよう

　自自公連立政権が発足してから、初めての臨時国会が今月末開かれる。
　小渕首相は、この臨時国会を中小企業のための「中小企業国会」だとペテン的発言を繰り返している。これがペテンだというのは、二重の意味でである。つまり、ほんとうに存亡の危機にある大多数の中小零細企業のための中小企業政策ではないからである。
　もう一つは、中小企業対策や景気対策などのキャンペーンの陰で、わが国の進路にかかわる安全保障の重要法案を成立させようと画策しているからだ。これを見逃すわけにはいかない。
　国連平和維持軍（ＰＫＦ）本体業務の凍結解除がそれである。時あたかも、紛争周辺地域の西ティモールへの自衛隊機派遣という策動が進められている。自自公三党はそのほかにも、有事法制などについても順次、立法化することで合意し、その実現を狙っている。
　アジアと友好、共生する道でなく、こうしたアジアと敵対する道を断固阻止しなければならない。対米追随と軍事大国化でなく、アジアといっそうの友好・共生の関係を打ち立てる自主・平和の国の進路をめざして、国民世論の喚起と広範な国民的運動が求められている。

海外派兵のエスカレートへ

　政府が解除を狙うＰＫＦ本体業務とは、停戦監視や武装解除などの監視、緩衝地帯での駐留・巡回、武器の搬出入の有無の検査・確認などを指している。ＰＫＦは国連平和維持活動（ＰＫＯ）協力法に盛り込まれながら、当時、与党が法案を成立させるための術策として、本体業務への参加が凍結されたのであった。
　可能とされたのは、ＰＫＦの「後方支援」で、それも「ＰＫＯ参加五原則」（別記）という制約がつけられた。
　ＰＫＯ法に基づいて、カンボジア（九二年）、モザンビーク（九三年）などに自衛隊が公然と海外派兵された。これらは、道路建設や輸送部隊であった。
　しかし、紛争地域における前方と後方の区分けは難しい。これは、軍事での常識である。実際、カンボジアへは道路建設に自衛隊の施設大隊を派遣したが、現地では選挙監視要員の安全確保のために投票所への立ち寄りなどを実施している。ＰＫＦ本体業務として凍結されたはずの「巡回」行為とどこが違うのか、すでになし崩しとなった。
　さらに、公然たるＰＫＦ本体業務参加となれば、ますます憲法の禁止する「海外での武力行使」に限りなく近づくことになる。現在、武器使用は「ＰＫＯ参加五原則」で隊員の身体防衛のための必要最小限に制限されているが、自由党、自民党内からは五原則見直しの意見さえ出ている。最近、陸上幕僚長もＰＫＦ参加の際の武器使用制限緩和を、記者会見で公然と要求した。
　併せて政府は、東ティモール問題を自衛隊派兵の好機として、西ティモールで自衛隊輸送機Ｃ１３０による物資輸送などをもくろみ、現地調査を行いつつある。政府はこれはＰＫＯだというが、ＰＫＦ参加に向けての地ならし、世論づくりにほかならない。
　今回のＰＫＦ凍結解除策動は、ＰＫＯ法制定（九二年）が自衛隊の海外派兵に公然と道を開いたとすれば、自衛隊の海外での武力行使にいっそう近づけ、軍事的にエスカレートさせるものである。こうした危険な策動を断じて許してはならない。

軍事大国化狙う３党合意

　そもそもＰＫＦ凍結解除は、軍事大国化をめざす自自公三党合意の一環である。
　連立政権発足直前の三党合意によれば、かれらのもくろみはこうである。①政府の進めてきた有事法制の研究を踏まえ、法整備を行う、②領海警備問題で対応を強化し、法整備を行う、③国連平和維持活動協力法のうち、凍結されているＰＫＦ本体業務の凍結を早急に解除する、さらに④ＰＫＯ以外の国連活動にも参加・協力の道を開くために速やかに法整備を図る、などを柱としている。このうち、ＰＫＯ以外の国連活動にも参加・協力の道を開くとは多国籍軍への参加・協力のことである。
　要するに、国内体制は新ガイドライン法とも関連させつつ有事体制を整備すること、対外的には「人的貢献」の名のもとに、ＰＫＦや多国籍軍参加など武力活動ができる自衛隊派兵をいっそう容易に可能となる体制をつくることである。
　これらの策動には、日米防衛協力の指針（新ガイドライン）関連法など米国の東アジア戦略に積極的協力しつつ、わが国なりに政治・軍事大国化をめざそうという狙いがある。それは、アジア、世界に展開し、国際競争を繰り広げているわが国多国籍大企業の要請でもあろう。
　こうした策動の中で、連立に加わった公明党が歴史的に果たしつつある犯罪的役割、その責任は重大であると指弾しなければならない。先に新ガイドライン法、国旗・国歌制定、盗聴法などが成立したのも、自民党単独政権では容易ではなかった。公明党を抱き込むことによって、こうした反動的流れはつくられた。まさに公明党の「平和・人権の党」（公明新聞）の看板に偽りあり、である。
　もちろん、多国籍軍支援や「ＰＫＯ五原則」の見直しを強調する自由党の反動性はいうまでもない。

自自公連立の強さは見かけだけ広範な国民的闘いで前進を

　三党合意に基づく軍事大国化推進の問題は、単に軍事の問題ではない。わが国の外交全般、国の進路にかかわる重大問題である。わが国は、アジア諸国とともに進むのか、それとも米国の世界戦略に従い、アジアと対立する道を進むのかが問われている。小渕連立政権の進む方向では、アジアに位置するわが国にとって、前途はない。
　こうした動向に、国際的にも警戒が強まっている。最近辞任した西村防衛次官の核武装発言に対して、「こうした発言の積み重ねが日本全体を極右的な雰囲気に追い込む」（韓国文化日報）をはじめ中国、朝鮮民主主義人民共和国などはいっせいに厳しい批判を展開した。アジアに政治・軍事大国として登場しようとする日本への警戒感の表明である。
　また、国民の危惧（きぐ）と反発は高まるであろう。新ガイドライン法の具体化や沖縄の米軍基地県内移設に反対する闘いなどとあわせて、闘いを盛り上げなければならない。
　ＰＫＦ凍結解除など三党合意にある軍事大国化に反対する闘いを、国の進路をめぐる問題として、可能な限り広範な国民的運動として形成する必要がある。
　ただ、「野党」といわれる民主党のように、その安全保障基本政策においてＰＫＦ解除や有事法制化、多国籍軍に加わるための憲法改正などを主張しているようでは、自民党の対抗軸になることなど、とうてい不可能といわざるをえない。
　こんにち、三党連立への不支持は、ほとんどの世論調査で五〇％前後にものぼる。その横暴さに、国民の懸念も広がっているのであろう。先の長野参院補選の結果も、国民の自自公連立政権に対する明確な批判である。一見、強そうに見える連立政権の基盤はきわめてもろい。広範な国民運動を形成すれば、大きな前進は可能である。
　早急に、国民世論の喚起と運動の形成が求められている。

ＰＫＯ参加５原則

(1)停戦の合意が成立している
(2)受け入れ国などの合意が存在している
(3)中立性を保って活動する
(4)上記(1)～(3)のいずれかが満たされなくなった場合には、一時業務を中断し、短期間のうちに回復しない場合には、派遣を終了
(5)武器の使用は、自己または他の隊員の生命、身体の防衛のために必要な最小限のものに限る

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