朝鮮半島情勢の大きな変化

991005　社説

朝鮮半島情勢の大きな変化

北朝鮮敵視政策を転換し、直ちに国交正常化交渉を

　朝鮮半島を取り巻く情勢の変化が急である。米国と朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）との協議が急進展したためである。米国側が北朝鮮に対する経済制裁の一部緩和、北朝鮮側がミサイル発射の一時中止を、それぞれ発表した。米朝間の高官協議も期待される雰囲気が醸し出されている。北朝鮮の欧州主要国に対する外交攻勢も盛んである。
　一方、わが国小渕政権は、昨年発動した制裁の一部を緩和する方向にあるとはいえ、敵視の姿勢は依然変わらず、ましてや国交正常化交渉など、話にもならない。
　米国の東アジア戦略に従いつつ現在の朝鮮敵視政策を続けるのか、国交正常化を実現し、東アジアに平和、友好の環境を築くのか、わが国の進路が問われている。意図的な「北の脅威」論を打ち破り、日朝友好と国交正常化を求める世論と国民的運動を盛り上げることが求められている。

戦術転換を余儀なくされた米国

　米朝協議は、九月十二日までベルリンで行われていたミサイル発射問題をめぐる高官協議で明確な合意を得て、共同新聞発表を公表した。
　これに基づき、クリントン米大統領は九月十七日、一部制裁の解除を発表。その内容は両国間の輸出入、輸送、航空機の相互乗り入れなどで、これは経済制裁の全面解除ではないものの、朝鮮戦争以来続いていた制裁の大幅解除である。米国の大きな変化を示している。
　他方、北朝鮮外務省もその一週間後、米国との協議中はミサイル発射を凍結することを公式に表明。こうしてベルリンでの高官協議に基づき、関係改善に向けた両国間のやりとりが展開されている。
　米朝関係変化の背景には、米国の対朝鮮政策の大きな転換がある。それは、ペリー政策調整官（前国防長官）がまとめ、九月中旬に発表した新たな対朝鮮包括政策、いわゆる「ペリー報告」に基づいている。その内容は、①ミサイル発射の凍結と米国による制裁の一部解除、②北朝鮮の核・ミサイル開発の中断、②米日韓と北朝鮮の協調による朝鮮半島冷戦構造の終結、といったものである。米国の狙いは、あくまで北朝鮮の核・ミサイルの開発・拡散の阻止にある。
　手法としては、金大中・韓国大統領がめざしている「対話と交流」の「太陽政策」と類似した政策である。ノドン・ミサイル発射（九三年）、核疑惑騒動、米朝枠組み合意（九四年）の後、米国は九六年から毎年のミサイル協議、昨年から「地下核施設疑惑」をめぐる協議、今年六月から三回の高官協議を、北朝鮮と続けてきたことの結論でもある。
　こうした転換の要因について、ペリー調整官は、「米国が圧力をかけても北朝鮮の政権を崩壊させることは不可能で、現政権と交渉せざるを得ない」こと、北朝鮮はすでに核兵器を開発する十分な能力を有しているという認識を示した。すなわち、米国が北朝鮮を力で抑え込んで核・ミサイル開発を阻止することはもはや困難だということが実際である。南アジアでは、すでに昨年インド、パキスタンが核実験を実施し、核拡散は現実のものとなった。いくら超大国といえども力の限界があることを見せつけた。
　そもそも、米国の要求自体が極めて理不尽なものである。米国自らは約一万五千発もの核弾頭を所有、大陸間弾道弾（ＩＣＢＭ）を配備するとともに、はるか太平洋を超えて巡航ミサイルなどを装備した第七艦隊を他国（北朝鮮）の眼前に展開しておきながら、「核・ミサイルの開発中止」などと言えたものではない。　ところで、米国の北朝鮮敵視戦略に何ら変わりはないことも押さえておかなければならない。米国が対朝鮮軍事態勢を解くわけでもない。東アジア戦略構想や国防報告が、北朝鮮をアジア・太平洋地域における「最も重大な脅威」と見なし、またペリー報告も「同盟国（日韓）との安保態勢の維持が不可欠」「北朝鮮の挑発による緊急事態への備えも必要だ」と明言しているとおりである。それでも、北朝鮮の核・ミサイル阻止のために、米国が戦術を転換したのも事実であろう。
　一方、北朝鮮側もこの機に合わせて、外交攻勢に打って出ている。九月の国連総会に七年ぶりに外相（白南淳氏）を派遣。国連の場を使って独、仏、伊、北欧諸国、ベトナムなどと個別会談が実現する方向だといわれる。中国との関係も、金永南・最高人民会議委員長が六月に訪中し、十月初旬には中国の唐外相が訪朝して、中国・北朝鮮の結束を強化しようとしている。
　こうして、米朝関係、朝鮮半島情勢は新たな局面に入った。

小渕政権の朝鮮敵策を打ち破ろう

　日本に対しても、北朝鮮は八月十日、異例の政府声明を発表し、①日本の北朝鮮圧殺政策の放棄、②過去の罪への謝罪と補償、③力の対決に出たならば相応に対応するとの「対日三原則」を表明した。これは、日本が誠実に対応するならば、関係改善へ応ずるとのメッセージを送ったものと受け止められている。
　さて、肝心のわが国の態度はどうか。
　小渕政権は、北朝鮮のミサイル発射凍結表明によって、昨年九月に実施した制裁措置のうち、直行航空便の停止などは解除する方向といわれている。だが、「拉致問題」など独自の問題があるとして、食糧支援は凍結解除しないという。まして、国交正常化交渉への姿勢は片りんさえ見られない。
　独自の外交戦略は何ら持たず、米国の動くに右往左往するだけである。
　国内では、昨年末から本年夏にかけて、「テポドン・ミサイル発射予測」「不審船」など、「北の脅威」キャンペーンが執ように繰り広げられた。野呂田防衛庁長官は国会答弁で、北朝鮮への先制攻撃の可能性にまで言及した。小渕首相は、ケルン・サミット（六月）、中国訪問（七月）などでも、各国に北朝鮮非難に同調してくれるよう懇願するあり様であった。
　キャンペーンばかりではない。さらに重大なことは、「北の脅威」論を利用しながら、新ガイドライン関連法の成立、戦域ミサイル防衛（ＴＭＤ）の日米共同研究決定、情報衛星の打ち上げ決定など、日米安保体制のもとで軍事強化を一気に進めたことである。また憲法調査会の設置、有事法制化の策動など「朝鮮有事」に備えた体制整備へ動いている。
　こうした小渕政権の米軍事戦略に従った軍備増強、朝鮮圧迫外交は、わが国が今後アジアで平和のうちに生きていくうえで、極めて反動的なものである。

国交正常化交渉の即時再開を

　まずわが国が対米追随でなく、独立、自主の道を確立して東アジア外交を転換しなければならない。米国の東アジア戦略に沿って新ガイドラインを発動し、北朝鮮、中国を敵視し、朝鮮、台湾「有事」に介入しようとすることをやめるべきである。対米追随外交を転換し、自主的にアジア諸国と平和に共生する道を進むことが切実に求められている。
　まして、「日本人拉致問題」などを意図的に持ち出して、国交正常化交渉を破壊してはならない。
　北朝鮮との国交正常化交渉の再開に当たって、わが国が戦前の三十六年間、植民地支配と戦争により朝鮮民族に与えた苦難、また戦後米国の朝鮮戦争や南北分断に手を貸してきたことに対して、謝罪と補償を行うことである。こうした態度を打ち出せなければ、北朝鮮の信頼はもちろん、アジア諸国からの信頼も得られまい。
　そうして直ちに国交正常化を実現すべきである。それが、東アジアの緊張を緩和して平和を確立し、わが国が二十一世紀にアジアと共生できる道である。
　隣国北朝鮮との友好、平和を願う当然の気持ちは、国民の中に広範に存在する。日朝友好の大衆的運動は、全国各所でさまざまな形である。国民世論をいっそう喚起し、それらの流れを糾合して大きなうねりとし、国交正常化を実現する国民的運動を早急に築くことが求められている。

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