990915 社説


民主党の代表選

労働者は民主党に期待できるか


 自民党の総裁選に続いて九月十一日、民主党の代表選がスタートした。菅直人、鳩山由紀夫、横路孝弘の各氏が立候補している。

 マスコミは自民党総裁選と併せて、民主党の代表選とその行方にも注目し、政党再編さえ占っている。あたかも自自公連立に対抗する政治の軸をうち立て、民主党再生のきっかけになるかのような論評もある。

 代表選の候補者たちは「自自公連立と闘う」などと対決姿勢を表明した。前後して連合の三役会議は「民主党基軸」の政治方針を決定し、民主党応援の態度をより鮮明にした。

 だが、労働者にとって民主党は果たして期待に値するのか。とりわけ、リストラ攻撃を受け、雇用・生活危機に苦しむ労働者にとって頼れる存在か。自民主導の対米従属、大国外交、政治反動に対抗できるか。マスコミ受けをねらったパフォーマンスや耳障りのよい抽象的なスローガンに惑わされず、この党は誰の利害を代弁しているか、どんな役割を演じているか、事実に照らして検証してみなければならない。

大銀行救済に六十兆円投入を推進

 民主党が誰に奉仕する党か、もっとも象徴的に示したのは、昨年の金融国会である。

 財界とその番頭・自民党は、バブル崩壊後の長引く不況と金融危機を抱え、深刻な窮地に立たされていた。参院選で惨敗した橋本に代わって政権の座に着いた小渕首相は、過半数を大きく割り込んだ参院で連携する政党もないなか、景気回復と金融システムの安定化を内外から迫られていた。

 民主党がもし、労働者と勤労者の利害を代表する政党であるならば、小渕自民党政権を立ち往生させ、追い込むまたとないチャンスであった。

 だが、周知のように民主党はそうしなかった。菅代表は、まさに金融再生法案をめぐる与野党折衝が始まる当日、「政局に絡めてやるつもりはない。対案を作成して金融システムをしっかりするように対応したい」と経団連に誓った。そして巨大銀行救済金として、六十兆円もの国民の血税投入を提案したのである。自民党は民主党の提案を渡りに船と「丸呑み」し、危機を切り抜けた。かつて住専処理にその百分の一の六千数百億円の税金投入時の国会空転と対照的な「無風決着」は、野党第一党・民主党の対応にあった。

 民主党はこうして巨大銀行を救済し、窮地に立つ自民党を救った。危機に際して「秩序党」としての正体を暴露した。この事実は、この党がいかに労働者に無縁の党か、それどころか労働者の利害を簡単に裏切る党であるかを端的に示している。

支配層の「構造改革」に追随

 では、労働者にとってもっとも切実な雇用、生活問題ではどうだったか。

 今年の春闘最中から、わが国を代表する多国籍企業各社は次々と大規模なリストラ計画を発表、失業者は三百三十万人にものぼり、なお最悪記録を更新している。

 小渕政権も対応を余儀なくされ、六月十一日、「緊急雇用対策・産業競争力強化対策」を決定し、関連法案を成立させた。だが、政府の「雇用対策」はまやかしで、「雇用対策」とは名ばかりの大企業のリストラ・首切りを支援するものだった。

 これに対して民主党は、「抜本的な構造改革を先送りした一時しのぎの対策にとどまっている」と政府の雇用対策を批判した。併せて、介護、教育、環境、情報関連などで百万人雇用創出、経済構造改革に取り組み、「企業家支援法」を成立させて新規事業・新産業を創出するなどの対策を提唱した。

 こうした民主党の雇用対策は、失業を前提にしている点で、また産業競争力強化と雇用創出がワンセットになっている点で、政府の対策と基本的に変わらない。

 民主党がもし、労働者の利益を守るというのなら、巨大企業が勝手放題にすすめているリストラ、首切り攻撃に対して企業の社会的責任を追及し、規制を強化して、労働者の雇用を守る闘いを支援すべきである。失業者の救済に取り組むべきだ。

 民主党は延長国会での「産業再生法」に無力さをさらしたが、根底には財界と自民党がすすめる「構造改革」への追随がある。

 民主党の景気・雇用対策(九八年十一月発表)によれば、現下の経済危機の原因は、これまでの経済システムが状況に適合できなくなっていることにあり、この長期不況を克服するためには、「景気を刺激する大胆なカンフル剤」と同時に「日本経済の仕組みを丸ごと改革する外科手術」が共に不可欠である、という。 しかし、こうした規制緩和や市場原理の貫徹による経済構造改革で日本経済が「再生」するのか。たとえしたとしても、それは大多数の勤労国民を犠牲にしたひとにぎりの多国籍企業にとっての再生にすぎない。

 民主党の「構造改革」は、経団連など財界や政府の経済戦略会議、また、小沢自由党党首や加藤前自民党幹事長などが唱えているものと本質的に違いはなく、対抗軸たりえない。

 また、介護保障に対する国の責任を放棄して、カネしだいの介護保険制度導入を推進したのは、ほかでもなく民主党であった。

 さらに、今日自自公連立の政策課題として消費税増税問題が浮上しているが、この点でも民主党は同調している。

 経団連は、九九年度税制改正に関する提言で、社会保障費負担の増加について「消費税の比重を上げ、直間比率の是正によって賄う」と要求した。自由党は消費税の将来の増税と福祉目的税化を主張してきたが、自自連立協議で自民党はこれを受け入れた。公明党も消費税増税にOKのサインを出した。

 民主党にこうした流れに対抗しようとする姿勢はない。結党以来消費税の「福祉目的税化」を唱え、事実上、増税を認めているのだ。

 消費税はいうまでもなく低所得者ほど税負担が高くなる「逆進性」の強い、貧乏人いじめの酷税である。これを唱える民主党をどうして労働者の政党といえよう。

安保・外交、改憲ではお先棒かつぎ

 わが国の外交、安保政策でも民主党は動揺的で、自自公連立の対抗軸たりえていない。

 なんといってもわが国の二十一世紀の進路にとって最大の焦点であった新安保体制、新ガイドライン関連法を基本的に容認し、当初は公明党と修正協議を競う態度に終始した。「主体性」のある外交などというが、それは安保体制の枠内にすぎず、「常時駐留なき安保」の旗さえ降ろし、実質はなにもない。

 それどころか、昨年夏以来の北朝鮮敵視キャンペーンの中で、野党にあって菅代表は朝鮮有事の際は後方支援が必要といち早く表明した。

 六月に発表した「安全保障基本政策」では、有事法制の整備、国連平和維持軍(PKF)参加の凍結解除、憲法改正論議を提言して支配層を喜ばせた。「中国の台湾に対する武力行使反対」も掲げた。

 それに、憲法調査会設置への賛成、代表選での鳩山氏の九条を中心とする改憲提起である。鳩山氏は党の「分裂」も辞さずと言っている。

 こうした民主党の外交・安保政策が「平和」スタイルに脚色されて、自民党の新安保体制下での大国外交推進をどれほど助けたか。

 それは中国、朝鮮にかつてない緊張を高め、アジアの平和・共生の道に障害をつくり、わが国の国益を損なうものとなっている。こうした外交・安保政策は、およそ労働者の利害に合致せず、ひとにぎりの多国籍企業の権益を守るものである。

 総括。民主党の実際行動と内外政策は、「市民が主役」などという耳障りのよいキャッチフレーズとは裏腹に、動揺的でおよそ労働者の期待に値しないものである。民主党が、自自公連立への対抗軸たり得ないことは明らかである。それどころか、支配層が深刻な危機におちいれば、金融国会時のように支配層を助け、取り引きして労働者と国民を裏切る恐れがある。公明党に続き、自民党のつっかい棒となる可能性がある。

 連合中央は、こうした民主党を基軸に支援するという。それは労働者と労働運動を誤った方向へ導くものだ。広範な職場労働者のなかに、民主党への幻滅と不満が高まっている事実を直視すべきだ。民主党への幻想を捨てなければならない。

 われわれはさらに、労働者が共産党の議会の道への幻想をも捨て、断固たる闘争で勝利の道を切り開くよう訴える。


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