公務員への賃金カット攻撃と闘おう

990905　社説

人事院の賃金カット勧告

敵のペテンと分断策を打ち破り、公務員への賃金カット攻撃と闘おう

　この春以来の民間企業労働者に対する首切り・リストラ、賃金引き下げ攻勢に続いて、公務員に対する賃金カット攻撃が本格的に始まった。

　人事院は八月十一日、今年度の国家公務員のボーナスを〇・三％引き下げることを中心とする勧告を提出した。この勧告が実施されれば、国家公務員の年収は戦後初めて前年比マイナスになる（一般職員で年間一・五％、約十万円）。さらに、勧告には「今後は必要に応じてマイナス調整を行う」とも明記されている。

　ついで九月三日、東京都の石原知事はタイミングをはかったように、全職員を対象に三年間、給与の四％カットとボーナスの一〇・五％カットの削減案を提示した。五千人の人員削減と併せ人件費三千百億円を浮かすという。一人当たり年間四十万円もの収入減となり、自治体の賃金カット案としては前代未聞の厳しいものである。

　これによって、すでに今年度から始まっている地方公務員に対する賃金カット攻撃は、一挙に全国的に拍車がかかることは間違いない。いよいよ公務員も安泰とはいかなくなった！

　八月末に開かれた自治体労働者でつくる労働組合、自治労の全国大会では、こうした政府、自治体当局の攻撃に対して、現場からかつてない危機感と闘う決意が相ついだ。東京都職労は三日、「白紙撤回を求めて闘う」と表明した。

　これは独り公務員だけに向けられた攻撃ではない。公務員への賃下げをやすやすと許すなら、それはもう一度、民間労働者へはねかえってさらなる首切り、賃下げの悪循環を招く。また、当局はカサにかかって住民に対する福祉・教育などの切り捨て攻撃を強めよう。公務員労働者が先頭に立つのはもちろん、すべての労働組合が敵のねらいを見抜いて、官民総がかり、住民と連帯した断固たる闘いで阻止しなければならない。

石原東京都知事のなぐり込み

　読売新聞社の調べによれば、すでに大都市部の九都道府県当局は給与・ボーナスのカット、定期昇給凍結など賃金引き下げに踏み込んでいる。

　愛知県では全国にさきがけてけて今年四月から、全職員の給与・調整手当を三・五～四・五％、ボーナスを八～一六％カットして、全国の自治体を驚かせた。これによって労働者は年間四十から五十万円もの収入減となる。神奈川県も今年三月から、ボーナスをカット（管理職で一五～三〇％、非管理職で一律八％）。岡山県でも年間五％削減。大阪府、広島県も四月から、全職員を対象に定期昇給を停止、千葉も十月からそれに続く。

　福岡県は、麻生知事が二年間、給与の三％カットの方針を打ち出し、北海道ではボーナスカットを検討中である。その他、三重県や神戸市などでも諸手当の廃止、見直しが図られている、等々。

　そして人事院のマイナス勧告と東京都の前代未聞の賃金カット攻撃である。これで公務員の賃金カットは全国でセキをきったように進もう。石原都知事の絶妙なタイミングのなぐり込みである。国民のなかにくすぶる民族主義をあおって都知事になったカリスマ・石原氏の真の使命は、めちゃくちゃになった全国の自治体財政を住民犠牲の荒療治で立て直す点にあったのではないかと勘ぐりたくなる。

　マスコミは口裏を合わせたように、世論をあおりはじめた。その一つは、「民間が合併やリストラで賃金カット、大量解雇の痛みを受けているのだから、公務員も受けて当然」というものだ。

　だが、これは官民労働者分断の支配層の常套（じょうとう）手段だ。かつて八〇年代の中曽根行政改革時代にも使われたペテンだ。民間労働者にかつてない大規模なリストラ、賃下げ攻撃をかけてきた張本人・大企業の責任には何一つふれず、仲間うちの公務員の賃金に注意を向けさせ、民間労働者をけしかけようとしている。ひとにぎりの多国籍企業とその政府は、こうした卑劣な官民分断策で労働者に痛みを全部押し付け、自分たちだけ生き残ろうとしている。

　万が一、民間労働者が敵の手にのるなら、自分の首を絞めることになる。今回は中曽根行革時代の二の舞いを演じてはならない。官民労働者は固くスクラムを組み、敵の賃下げ、首切り、リストラ攻撃に対し、総がかりで闘わなければならない。

「財政再建のため」は卑劣なペテン

　もう一つ、マスコミと当局は「自治体財政を再建するため」と世論を誘導している。各県知事は、昨年来「財政非常事態宣言」を行い、財政危機をあおって、賃金カットと福祉・教育切り捨ての「財政再建プラン」を押し付けている。石原都知事はよりあけすけに、「まず職員から痛みを分かち合う姿勢がなければ、都民は福祉カットを許さないだろう」と職員の賃金カットの後には大規模な福祉切り捨てを目論んでいることさえ公言した。

とんでもない！　そもそもなぜ財政危機になったか、責任は誰にあるのか。当局は、①長期不況による法人二税を中心とした税入の大幅落ち込み、②人件費や扶助費、福祉、教育関係予算の膨張をあげるが、責任逃れのまったくのペテンである。

　今日の財政危機の原因は、バブル期とその崩壊後に地方自治体が借金に頼って急増させた「公共事業」、とくに単独事業費にある。しかもそれは、政府が数次にわたっておこなった「景気対策」として地方自治体に押しつけた結果である。一九九一年度から九六年度までの地方財政普通会計の歳出増加分の累計額は五十五・四兆円にも上るが、その半分近くの二十七・〇兆円が実に単独事業を中心とする普通建設事業費であった。地域の支配層は、国の誘導策に積極的に乗る中で普通建設事業費を食いものにして、ぼう大な利益をあげた。

　東京では臨海部開発や副都心開発など、多国籍企業のための巨大なインフラが整備され、大手ゼネコンももうけた。神奈川では、みなとみらい（ＭＭ）で広大な工場跡地を再開発、三菱など大企業が潤い、インフラが整備された。大阪の関西国際空港建設や泉佐野コスモポリスなども同様である。諸悪の根源のようにいわれる人件費は、九・六兆円で、一七・三％に過ぎず、社会保障支出はさらにそれ以下である。自治体の借金である地方債残高はほぼこれに比例する形で急増した。九六年度末で百兆円の大台を超え、九八年度末には実に百六十・四兆円もの巨額に達しようとしている。

　今日の財政赤字の原因は、自治体当局の大企業のための開発政治、そのための法外な「公共事業費」支出にあり、政府・自治省の言いなりになって放漫財政を行ってきた自治体当局の責任こそ厳しく問われるべきである。

　公務員にも、まして住民にも、財政赤字の罪はない。財政赤字の立て直しを口実に公務員の賃金カットを正当化し、住民の福祉・教育切り捨てに踏み込むなどというのは二重に人をあざむくペテンである。財政赤字を立て直すというのなら、この間財政をさんざん食い物にし、開発政治で肥え太ったひとにぎりの地域支配層、この連中にこそ負担させるべきである。

　マスコミと当局のこうしたペテンを見抜き、分断策を打ち破って公務員の賃金カット攻撃を断固たる闘争で阻止しなければならない。

　自治労の全国大会では、地方代議員から職場、地域の闘いを基礎に産別統一闘争、官民統一闘争で闘うべきだという発言が相次いだ。ある代議員は「雇用形態を変え、総人件費抑制、あらゆるところでの首切りの動きが強まっている。こういう時期に賃金闘争が産別自決でいいのか。官民総がかりの闘争態勢が求められているのではないか。…地方財政危機下の賃金闘争を突破するためには、官民の信頼関係を横の運動、地域の運動のなかでつくるべきだ」と述べた。まったく同感である。

　公務員労働者は職場での闘う体制を確立し、雇用・危機突破をめざす民間労働者、三百三十万人の失業者とスクラムを組み、官民総がかりの闘争態勢を確立して闘わなければならない。労働者と住民にすべての犠牲を押しつけて危機を乗り切ろうとしている大企業、その政府、自治体当局への反転攻勢をかけなければならない。

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