台湾の李登輝「総統」が、「中国と台湾の関係は国と国の関係」と主張した。これまでの「分裂した一つの中国」「一つの中国、二つの政治実体」という見解をさらにすすめたのである。これに対し中国は、「台湾独立を座視せず、いかなる祖国分裂の陰謀も打ち砕く」と述べ、台湾武力解放の可能性を放棄しない態度を表明した。
すべての政党、政治勢力は、台湾問題に対する明確な態度が問われる事態になった。わが国支配層、自民党、自由党などの中には、九六年の「台湾海峡の危機」、日米安保共同宣言以来、「台湾の武力解放ノー」を対中外交の原則にすべきだという主張が強まっている。一方、野党勢力もこれを批判しないばかりか、事実上これに追随する態度が見られる。これは中国に対する露骨な内政干渉である。
一九七二年の日中共同声明で「台湾が中国の領土の不可分の一部である、という中国の主張を理解し、尊重する」と確認しているように、台湾問題は中国の内政問題である。どのような方法で中国を統一するかは中国政府と人民が決めることであり、他国が口をはさむ問題ではない。台湾問題に対する唯一の正しい答えは、武力解放であろうとなかろうと、中国の祖国統一の事業を断固支持することである。
強まる「武力解放ノー」の動き
九六年、米国の「東アジア戦略」に追随する橋本首相(当時)は、日米安保共同宣言(安保再定義)を合理化するために、「台湾問題の平和解決をのぞむ」と自制を要求し、中国の内政に干渉したのである。
新ガイドライン関連法案の国会審議中、わが国外交に影響力をもつシンクタンク「日本国際フォーラム」は「対米中露関係の展望と日本の構想」と題する提言を発表した。「日本の外交は、これまでのような『対米追随外交』の批判を受けかねない受動的な外交姿勢をつづけてゆくことはもはや許されない」として対中国政策に関しても包括的な提言を行っている。
このなかで「日米両国は『台湾の武力解放へのノー』という基本姿勢を協調して堅持せよ」という原則を打ち出した。
また、中曽根元首相は八月二日の読売新聞で、「中国と台湾の統一は平和的に行い、中国は武力行使をしないで平和的話し合いに徹する意思を明確に示す」「双方が自重して十年くらいのスパンをおけば双方の状況が変化し、平和的統一が可能な燭光(しょっこう)が出現するかもしれない」と主張している。これは「武力解放ノー」で中国の手を縛った上で、時間をかけて中国の政治体制を変化させることを狙ったものである。
こうした一連の動きは、日中両国関係の政治的基礎になっている一九七二年の日中共同声明の原則に反するもので、中国に対する露骨な内政干渉である。
民主、共産も支配層に追随
野党も台湾問題では明確な態度がとれず、事実上支配層の態度に追随している。
民主党は、六月に発表した「安全保障基本政策」で「中国の台湾に対する武力行使に反対する」のが「基本的立場」であると明言している。とってつけたように「日中共同声明が前提となるのは当然」と言っているが、重点が「武力行使に反対」であることは明らかである。
共産党も「台湾問題は中国の内政問題」だと言いながら「内政問題だからといって、中国が何をやっても勝手だということにはなりません」という態度である。あろうことか「平和的手段による統一、台湾住民の意思の尊重」をもう一つの原則にすべきだと主張している。これは「武力解放ノー」という支配層の態度と五十歩百歩であり、まぎれもない中国への内政干渉である。
中国の台湾解放、祖国統一の事業を支持することこそ正しい態度
1972年の日中共同声明をふまえるなら台湾問題は中国の内政問題であり、中国の祖国統一の事業を断固支持することこそ唯一の正しい態度である。「武力解放ノー」は中国への内政干渉であって、日中関係を破壊することになる。この干渉の動きを打ち破って日中共同声明にもとづいて日中関係を発展させるために闘わなければならない。
資料 日本国際フォーラム提言(99年4月)
クリントン大統領は1998年8月の訪中にあたり、(台湾独立を支持しないなどの)いわゆる「三つのノー」政策を明らかにしたが・・米国には「台湾の武力解放ノー」という「第4のノー」政策もある。・・
この問題に対する日本の基本的な立場は1972年9月の日中共同声明の中で表明されている。すなわち「中国政府は、台湾が中国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、この中国政府の立場を理解し、尊重し、ポツダム宣言8項に基づく立場を堅持する」という文言である。当然のことながら「十分に理解し、尊重する」と「承認する」とは同義ではない。・・台湾海峡において軍事的緊張が高まり、さらにはそこで戦火がぼっ発するというような事態が発生した場合に、日本がこのような事態に重大な関心を抱くことは当然であり、その場合において、日本には傍観することしかできないということにはならない。・・日米両国は「台湾の武力解放へのノー」という基本姿勢を協調して堅持すべきであり、この点について中国側に誤ったシグナルを与えるべきではない。
資料 共産党21回大会への不破報告(97年9月)
日本が「中国は一つ」という立場をとる以上、台湾問題が中国の内政問題だということは、避けるわけにゆかない結論であります。・・
もちろん、内政問題だからといって、中国が何をやっても勝手だということにはなりません。戦乱という不幸な事態となれば、それは、アジアと世界の平和に重大な否定的な影響をおよぼすからであります。平和的な手段による統一、台湾住民の意思の尊重などは、この問題に対処する原則とすべきであって、台湾問題がそういう方向で解決されるように、あれこれの国が外交的・政治的努力をつくすことは当然であります。しかし、この問題を軍事介入の対象とする権利は、世界のいかなる国にも与えられていません。政府は、そのことを明確にすべきであります。
資料 民主党安全保障基本政策(99年6月)
台湾海峡をめぐり中台間で軍事衝突が発生することを避けることはわが国にとって極めて重要な関心事である。また、台湾海峡をめぐる米中関係の緊張は、アジア全体の不安定化を強めることになる可能性が大きい。民主党は台湾の一方的な独立を支持せず、同時に中国の台湾に対する武力行使に反対するとの基本的な立場に立つ。・・その際、1972年の日中共同声明が前提となることは当然のことである。
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