七月六日、衆議院本会議において、衆議院に憲法調査会を設置するための国会法改正案が、自民、自由、公明、民主などの賛成多数で可決した。
参議院にも設置される見通しで、来年一月の通常国会から正式の機関として活動を始める。両院とも議員約五十人の規模で構成、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行」い、五年程度かけて報告書をまとめることになっている。
この間「憲法改正」の世論づくりで先導役をつとめてきた読売新聞は、「戦後政治史上、画期的な意義がある」とほめあげた。自民党の森幹事長は、「憲法が時代の変化とともに改定できることが国会の意義とも思う」と言い、自由党は改憲の環境整備として、「憲法改正」を問う国民投票の実施手続きを定める法律をめざす方針を決めた。
憲法施行後五十二年。集団的自衛権の行使という点でも、国際紛争解決の手段としての武力行使という点でも憲法九条違反の、新ガイドライン関連法を強行突破した支配層は、いよいよ平和憲法の制約を全面的に取り払う明文改憲に向けて具体的な一歩を踏み出した。
改憲策動と対決し、憲法を守る闘いは、わが国の進路を憂い、アジアの平和を願うすべての政党、政治勢力、団体、個人にとって、緊急に共同対処すべき重要な課題となった。
九条「改正」こそが最大の狙い
国会に憲法調査会を設置するなどの明文改憲策動は、かつて一九五五年の保守合同で自民党が発足した際に試みられたものの、社会党を中心とする野党、労働運動、国民の闘いでこれまで実現できていなかった。
大きく変化したのは、冷戦後の九一年の湾岸戦争からである。
米国の圧力の下、「国際貢献論」の大々的なキャンペーンがはられ、九一年四月、自民党政府はついに海上自衛隊掃海部隊をペルシャ湾に派遣、自衛隊の海外派兵に突破口を開いた。防衛長官は「自衛隊の海外派遣と改憲問題を論議すべき」と公然と発言。
また、自民党に小沢調査会が設置され、国際貢献のあり方、国連憲章と憲法との関係などをテーマに「日米を基軸に、大きくは国連を中心として憲法の意味をきちんと考えていく」(小沢)と憲法論議をあおりたてた。その後、カンボジアへPKO(国連平和維持活動)が派遣されたが、それまで政治的にはあいまいにされていた自衛隊の「合憲性」は、もはや決着がついたかのような状況となった。村山社会党の「自衛隊合憲論」への転換が大きく響いた。
次の転機になったのは、九六年四月の日米安保共同宣言であった。日米安保体制のアジア太平洋地域への拡大・強化、「極東有事」への日米軍事協力、そのためのガイドラインの見直しをうたった宣言は、集団的自衛権問題を浮上させ、解釈あるいは明文による改憲の動きが強まった。財界(経済同友会)は「集団的自衛権の行使は、憲法上許されないとする政府見解を見直すべき時が来ている」と公然と提言した。
改憲の世論づくりでなりふりかまわず大きな役割を演じてきたのは、わが国最大の新聞社、読売新聞である。九四年十一月三日に自衛力の保持を明記した「憲法改正試案」を発表したのを手始めに、九五年五月三日には「集団的自衛権を行使できる」との「総合安保政策大綱」を提言、毎年提言を発表してきた。九七年には、「国会に常設の憲法問題等委員会、内閣に憲法調査会を設置せよ」と提言した。
こうした翼賛的な世論づくりの援護射撃を受け、九七年五月、ついに国政の場に「論憲」の推進部隊がつくられた。今回の法案提出を行った「憲法調査委員会設置推進議員連盟」(中山太郎会長)が結成され、自民、自由、公明、民主の議員が加わった。
経過が示しているように、支配層の狙いははっきりしている。日米安保体制を拡大強化し、自衛隊の「後方支援」、海外派兵を合法化することであり、「集団的自衛権の行使」を禁じた憲法九条(戦争放棄条項)の「改正」である。政府、自民党はこれまで、日本を守ることだけを目的とした自衛隊として、すなわち「個別的自衛権」だけを目的とするものだから合憲という解釈によって、自衛隊の存立を成り立たしめてきた。
しかし、新ガイドライン関連法による日米軍事協力の推進にあたり、法制上の不備を解釈でごまかせなくなったのである。
改憲論者が盛んに並べ立てている「五十年たったから見直すべし」「環境権や知る権利が不備」などの言いぐさは、タメにする論議であり、九条「改正」への見え透いた迂(う)回作戦である。
敵の改憲迂回作戦にのせられるな
それにしても、歴代自民党政府が悲願としていた憲法調査会設置、国会での大手をふった改憲論議の場づくりが、なんなく衆院を通過した。それは自自連立政権への参加が確実視されている公明党に加え、野党第一党の民主党が賛成に回ったからである。
民主党の菅代表は「憲法を議論することは重要」「改正を前提としない議論をする場として法案に賛成した」と述べた。
これはあまりにも支配層の狙いを知らない、甘ったるい市民政治家の安易で無責任な態度と言わねばならない。今日、改憲勢力が真にすすめようとしているのは、決して憲法に関する一般的な議論ではない。彼らは、読売新聞のような世論誘導の大道具などを最大限使いながら、まず「憲法論議を避けるのは時代遅れ」と言って野党と国民を「論憲」の土俵に引き込み、やれ私学助成問題、やれ環境権、やれプライバシー権などと改憲の地ならしをしながら、九条改悪の機会を計ろうとしているのである。自民、自由が当初、改憲の発案ができる常任委員会の設置をめざしたことを想起すべきである。
「改正を前提としないで議論すること自体はいいのではないか」と敵の土俵に乗ることで、どんなメリットがあるというのか。敵の迂回作戦にまんまと乗せられ、改憲策動に手を貸す結果になるだけではないか。日の丸・君が代の法制化問題で、共産党が演じた欺まん的な国民裏切りの役割と同じである。
それどころか民主党は、先に発表した安保基本政策で、有事法制の提唱とあわせて、「集団的自衛権の行使の是非を憲法解釈の変更で行うべきでない」とし、仮に憲法を「改正」した場合には集団的自衛権の行使を認めると提言した。改憲を狙う支配層にとっては、願ってもない援軍であろう。
ついでながら、この時期、旧友愛会議系労働組合などでつくる「新護憲」(憲法擁護新国民会議)が「論憲会議」(憲法論議研究会議)に衣替えしたことも、敵を喜ばせた。
改憲阻止、憲法擁護は緊急課題
日本国憲法は、天皇の「国事行為」を認め、また国家の自衛権の規定がないなど、真の国民主権と国家の自衛権という近代国家の原則からみて、重大な問題点がある。
だが基本的人権などで積極性を持ち、戦後の五十数年間にわたり、政府の軍備増強、海外派兵に歯止めをかける上で、大きな役割を果たしてきた。
当面する情勢の中で、明文改憲策動に反対し、憲法を守る運動を大きく発展させる課題は、緊急で重要な課題となって浮上してきた。
社民党の土井党首は、憲法を守るために、広範な共闘を呼びかけている。賛成である。わが国の進路を憂い、憲法改悪に反対するすべての政党、政治勢力、労働組合など団体、個人は、改憲策動を阻止するため、共同して広く戦線と世論を形成して闘おう。
新ガイドライン関連法の強行に続く改憲策動の新たな動きは、平和憲法の下で生活してきた国民大多数に警戒心を呼び起こしている。民主、公明はもちろん、自民党や保守層内部にも、改憲に反対する人びとは少なからずいる。アジア諸国には、さらなる反発と警戒心が広がっている。こうした条件を一つ残らず結集するなら、改憲策動を阻止することは可能である。
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