990615 社説


政府の「緊急雇用・産業競争力強化対策」

「雇用対策」の看板掲げて、大企業のリストラ支援


 小渕内閣は六月十一日、産業再生に向け「緊急雇用・産業競争力強化対策」を決めた。政府は「七十万人を上回る雇用の創出」と宣伝し、今国会の会期を延長して「対策」の具体化のために補正予算案を提出する準備に入った。

 政府、自民党は総選挙をもにらんで、深刻さを増す雇用対策に取り組む姿勢を印象づけようとしているが、果たして「対策」は働く者の期待にこたえるものか。

 とんでもない! 「雇用創出」などほんの刺身のツマにすぎず、肝心な点は、過剰設備、過剰雇用、過剰債務の解消を後押しし、大企業にリストラのフリーハンドを与えて活性化させることにある。政府は、労働者の犠牲で大企業に収益をあげさせ、この危機を乗り切ろうとしている。

 雇用・生活の危機突破は、政府に頼ってはできない。頼るべきは、失業者を含む四千八百万労働者自身の断固たる行動である。

名ばかりの「雇用対策」

 政府が表看板に掲げて宣伝している「雇用対策」の具体的中身はどんなものか。

 最大の目玉としてあげているのが、「国・地方公共団体による臨時応急の雇用機会の創出」で、三十万人の雇用を生み出せると見込んでいる。国が二年間に限って「緊急地域雇用特別交付金」(仮称)を創設し、都道府県はこれを財源に雇用をつくるというものだ。たとえば、パソコンに熟練している人や外国語能力の高い人材を小中学校の臨時講師として採用する、民間企業や非営利組織(NPO)に都市美化事業などを委託したりする。国の事業としては予算や白書などのデジタル情報化の民間企業委託などの具体例が挙げられている。

 ないよりもいくらかはましだろうが、そうした仕事にいったい現在失業中の何人が応募できるだろうか。

 もう一つは、「民間企業による雇用の創出と迅速な再就職の推進」である。リストラで失業した「非自発的失業者」を成長分野の企業が前倒しして雇う場合に国が奨励金を支給する制度が柱で、十五万人程度の雇用創出を目指すという。

 これらに再就職支援なども加え、全体で七十万人以上の雇用創出効果があると見込んでいる。

 だが、ことはそう簡単に運ばない。成長分野での民間の雇用一つとってみても、まったくの未知数と言わざるをえない。

 もっと重大な問題は、今回、政府が雇用政策の軸足を、従来の雇用維持を重視する考え方から、雇用の流動化を後押しする政策へと明確に転換したことである。

 これまで雇用を維持するために企業に出されていた雇用調整助成金は、一時的な雇用調整に重点化する方向で「見直す」とされた。代わって「円滑な労働力移動」を重視して、労働者派遣法改悪案、職業安定法改悪案の早期成立を盛り込み、雇用の流動化を促進する方向を明確にした。

 これは「雇用対策」を言いながら、正規社員の首切りを容易にしようとするリストラ推進策である。

 政府の「雇用対策」とは名ばかりで、目玉である「国と自治体の三十万人雇用創出」も焼け石に水でしかない。およそ深刻化する失業、雇用の危機になんの歯止めにもならないばかりか、かえってリストラ推進、雇用破壊の攻撃に油を注ぐ「対策」となっている。

「リストラやるべし」の進軍ラッパ

 他方、「産業競争力強化対策」には、その柱として「事業再構築のための環境整備」が掲げられ、よりいっそう直接的なリストラ支援策が並べられている。

 経団連はこの五月、「わが国産業の競争力強化に向けた第一次提言」をまとめ、政府の産業競争力会議に報告したが、そこに盛られた要求がほぼ全面的に採り入れられた。とりわけ、大企業が抱える雇用、設備、債務の「三つの過剰」の解消を後押しすることに力点が置かれている。

 過剰設備廃棄を促す税制措置や土地流動化策が盛り込まれている。公的機関による工場跡地の買い取り、用途地域指定の変更などが盛られ、過剰設備を抱える鉄鋼業界、石油業界には大きな助けとなる。石油業界は「製油所の統廃合が進めやすくなる」と歓迎した。

 これは、銀行に次いで、製造業の大企業のバブルのツケを国民の税金で救済するものだ。財界の中からさえ、「真の競争力強化につながらないばかりか、公正な競争と自己責任制をゆがめるのではないかと危ぐしている」「見通しを誤った企業のつけを納税者がまかなうことにほかならない」(京都商工会議所・稲盛会頭)などの批判が出ている。

 さらに、企業の事業再編を促す法制・税制の整備が盛られた。企業の不採算部門の切り捨てを促進する会社分割制度の導入、国際的な大型合併に対処できる独占禁止法の弾力的運用、過剰債務の廃棄を促す債務の株式化、分社化の手続き簡略化、などなど。事業再構築を急ぐ電機業界は分社化に関する法制・税制の整備に歓迎を表明した。

 いずれにしても、今回決定された「産業競争力強化対策」は、大企業に「リストラ大いにやるべし」との進軍ラッパとなることは間違いない。

闘ってこそ活路はひらける

 ドル支配の世界経済の危機が深まり、世界的なデフレ圧力を背景に、大型合併、買収合戦など世界的競争、争奪戦はますます激しくなっている。わが国巨大企業、多国籍企業は、世界中で生き残りをかけて「外の敵」と闘っている。

 今回の「競争力強化対策」は、「外の敵」に打ち勝つための、いわば「内の敵」との闘いである。彼らは死活をかけて、国内の労働者との闘いに打って出たのである。小渕首相は、訪米中の講演で「日本経済に活力と競争力を取り戻すうえで失業増は避けて通れない」と述べたが、本音であろう。

 すでに個別企業は、大リストラに踏み切り、いたるところで工場が閉鎖され、労働者には膨大な人減らし、首切り攻撃がかけられている。

 一〜三月の法人企業統計によれば、「人件費などのコスト削減」で、全産業が六・四半期ぶりに増益に転じている。上場企業の二〇〇〇年三月期決算は、売上高の減収にもかかわらず「リストラ効果」で、一二・五%もの増益を見込んでいる。

 政府の進軍ラッパに勇気づけられて、大企業はリストラ攻撃にいちだんと拍車をかけるに違いない。

 失業者の激増は必至である。男性の失業率は、ついに五%台にのった。失業者数は三百四十二万人と最悪記録を更新し続けている。リストラによる「非自発的失業者」は、すでに百十五万人となった。

 せまり来る雇用・生活の危機を、政府に頼って打開することなどできない。腹を固めて闘うときがきた。自ら闘ってこそ、活路はひらける。三百四十二万の失業者を含む四千八百万の労働者階級の断固たる行動こそ確かな力である。


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