990525 社説


支配層の外交にあらわれた、注目すべき新しい傾向

自主外交は対米関係の転換なしに不可能


 自民党・自由党連立の小渕政権は、国内外の反対、とくにアジア諸国の批判を押し切って、日米安保新ガイドライン関連法案を強行採決した。

 これは、米国の指揮下でわが国がアジア諸国の内政に軍事で干渉する道を公然と開くものだ。支配層は九六年に選択した日米安保共同宣言の方向で重大な一歩を踏み出した。

 この法案に反対し、社民党などや左翼諸派、労働組合、平和団体、女性団体、知識人などが最後まで闘ったが、広範な国民の力を十分に結集できず、阻止できなかった。

 冷戦後十年。変化の激しい国際社会でわが国はどのように生きるのか、そのための国家戦略はどうあるべきか。国の進路の問題はいよいよわが国の政治の重大な争点として押し出され、国民的関心も高まっている。

 この半年ばかり、わが国支配層、小渕政権の外交や論調には、注目すべき変化が見られる。

 闘おうとするすべての党派、各界の指導的人びとは、敏感でなければならない。こうした支配層の外交戦略と実際を徹底して暴露し、もう一つの方向を明確に提起して根本的に争う能力が求められている。

アジア外交で特徴ある動き

 わが国支配層、保守派の中に、これまでの対米追随外交への不満が高まり、見直しの機運が急速に広がっている。それは外交戦略構想としても、また、現実のわが国外交としても姿を現してきている。

 たとえば、この四月、日本国際フォーラム(注参照)から「対米中露関係の展望と日本の構想」(以下、「提言」)という提言が出された。そこでは、これまでの日本外交を「御用聞き外交、追随外交のそしりを免れなかった」と批判し、「独自性や主体性を主張して国益をめいっぱい押し出す」方向が打ち出されている。

 また、首相の特別顧問を務める行天豊雄氏は、予想されるアジア経済危機に対して、アジアが「共同防衛の仕組み」をつくることを提唱した(五月十七日、読売新聞)。

 今回の小渕訪米は、全体として「御用聞き外交」を演じる場となったが、一部に同様の傾向をみてとれる。たとえば、ユーゴスラビア情勢に関連して、北大西洋条約機構(NATO)の空爆を積極的に支持するとともに、「コソボ復興」についても積極的参加を決定した。遠く東欧の事態までふくめて、米国の戦略遂行に協力しながら、世界の問題に能動的に関与していく姿勢を明確にした。

 また昨年秋、政府は新宮沢構想ということで三百億ドルのアジア金融支援を打ち出し、矢継ぎ早に具体化してきたが、さらに最近のアジア太平洋経済協力会議(APEC)蔵相会議でアジア危機に備えてアジアが共同対処しようと提案した。「アジア通貨危機支援資金」を設立し、日本は各国の国債に当面二兆円規模の保証を行うことを表明した。また、ドル依存(ドル連動制)からの脱却、円の比重を高める「通貨バスケット制」導入も提唱した。最近発表された通商白書は、わが国にとっての東アジア地域の「死活的重要性」を強調、「地域連携・統合」への積極的取り組みを打ち出し注目された。

「自主」外交といっても限界は明白

 このように最近のわが国外交には、これまでみられなかったある種の「独自性」「能動性」がみられる。戦後一貫して、もっぱら対米追随の外交を進めてきたわが国支配層もここに来て動揺し、新たな方向を模索しているともいえる。

 背景に、冷戦後の世界と北東アジア地域を襲った大きな変化がある。

とくに東アジア通貨危機、米中首脳会談と中国の大国外交、ユーロの発足と地域統合。さらにドルの暴落・ドル体制の崩壊の危機が迫り、わが国のドル依存体制の限界はますます明白となった。こうしてわが国支配層は動揺し、外交路線の見直しが問題となった。

 「提言」は、「自己主張を欠いた日本外交は有効期限が切れた」「いまや日本自身が自らの外交理念・原則や世界・地域政策、つまり大戦略を持たねばならなくなった」と言っている。また、宮沢構想や通商白書は、円の国際化も含めて、アジアに「共同防衛の仕組み」を築くことで、ドル崩壊に備えようとしている。

 「自主」「アジアの共同」、こうした方向は一般的には必然であり、大いに結構である。

 だが、「提言」はその一方で、「日米同盟の重要性は今後とも基本的に変化はない」とし、「日米同盟の役割の再定義を踏まえ、日米防衛協力のための指針を早急に整備せよ」と提言している。

 「日米同盟の役割の再定義」とは、九六年四月、橋本政権が日米安保共同宣言で、安保条約を冷戦後の情勢に対応して再定義したことを指す。それによってわが国は、中国を主要な対象とする米国の東アジア戦略構想に組み込まれる戦略同盟の道を選択した。

 この日米同盟の選択をそのままにして、どうしてわが国の「自主」が達成できるというのか。米国の戦略に縛られて、日本の真の国益を貫くことなど不可能である。「提言」が「大戦略」などと大見得を切っても、それはしょせん米国の「大戦略」に従う「小戦略」でしかあり得ない。

 「提言」の「対米追随外交からの脱却」は、欺瞞(ぎまん)的であり、声高に叫ばれるだけに有害である。

 われわれは「提言」が「対米追随外交からの脱却」を煙幕にして、アジアで大国主義外交を提唱していることに注意を喚起しなければならない。「提言」は露骨に、「国際政治の基本構造を決めてきたのはいくつかの大国」「アジア太平洋地域においては、日米両国が秩序供給者」だという。朝鮮半島の平和問題を話し合う米中韓朝の四者会談とは別に、「東北アジアの安定のために」日本とロシアが加わった六者対話の創設を提言し、地域秩序の担い手におしあげようとしている。

 中国に対してはとくに強圧的である。いわゆる歴史認識問題で、行天氏は「中国は歴史の一部分を引用して日本に対する憎しみを培うような教育をやめるべき」という。台湾問題は「日本の平和と安全に直接関わる事態だから」「台湾の武力解放へのノーという基本姿勢を堅持せよ」(「提言」)とも言っている。米国と結託した露骨な内政干渉「外交」の提唱である。

 こうした時代錯誤ともいえる大国主義外交では、どうして「アジアの共同」が実現できよう。

支配層の「自主外交」の欺瞞と闘え

 支配層、保守派も感じはじめているように「アジアと共に生きる」、これ以外にわが国の生きる道はなく、これは歴史のすう勢である。  だが、アジアへの自主外交を貫こうとすれば、政治として確固とした決断が必要である。困難はあろうが、自立し一人立ちする、アジアの一員として生きる、こうした決断なしには不可能である。

 いまこそ従属的な対米関係をきっぱりと清算し、アジア諸国と相互支援、相互利益にたつ国益を定義し、そのための戦略をもつべきである。歴史問題は、きちんとみずからの問題として処理しなくてはならない。

 だが、支配層の構想や現実の政府の外交に、確固としたとした政治的決断がないことは明らかである。米国の「ドルの傘」にどっぷり浸かって成長し多国籍企業化している財界の主流には容易でない。

 決断がないまま、ずるずると「自主的傾向」を秘めた外交が進んでいる。だから、米国の利害に大きく逆らえば進まない。行天氏もふれているが、アジア基金構想も東アジア経済協議体(EAEC)構想も、米国の妨害で実現しなかった。

 支配層の唱える「自主外交」の、中途半端さと欺瞞性を徹底して暴露しなければならない。それは国の進路を誤らせる。われわれは、独立・自主、アジアの共生といった国民合意の形成を急がなければならない。

注 日本国際フォーラム 国際問題や外交政策について政策提言をしてきた支配層のシンクタンクのひとつで、現会長は今井敬経団連会長(新日鐵会長)。今回の提言は第十八回目で、訪米前に小渕首相に手渡された。


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