北大西洋条約機構(NATO)軍によるユーゴ空爆が行き詰まり、米国が釘付けになっているさなか、小渕首相は訪米し、クリントン大統領との日米首脳会談が行われた。
十二年ぶりの公式訪問で、会談では互いを称賛し合い、友好関係を演出してみせた。
小渕首相は、新ガイドライン関連法案の衆院採決を手みやげに、対米追随丸出しの「外交」を展開した。
今回の会談の最大のポイントは、二十一世紀に向け日米両国が同盟関係を強化していくことを確認したことである。
この「日米同盟強化」という国の進路は、わが国の政府・支配層が九六年の日米安保共同宣言ですでに選択したものだ。今回、二十一世紀に向けてさらに強化することを確認した。この道が果たして日本をどこに導くことになるか。わが国の繁栄、アジアと世界での友好関係と平和を保証できるのか。
対米追随丸出しの小渕「外交」
会談では、「自由、民主主義、人権の尊重」という「共通の価値観」が強調され、これに基づいて日米両国が「同盟関係を強化する」と確認された。小渕首相は訪米中の演説で、「アジア太平洋地域の平和と安定に不可欠なのは、日米両国の確固たる安全保障上の同盟関係維持」と軍事面での同盟強化を強調、「日米関係を二十一世紀において史上最高最強のものとする」と表明した。
軍事、政治面での同盟強化の裏付けとして、三点が確認された。
第一は、新ガイドライン関連法案による軍事同盟強化である。小渕首相は同法案の衆院採決を強行して会談に臨んだ。クリントン大統領は「これによってアジアにおける地域的な危機に対して柔軟かつ迅速に対応できるようになる」と評価した。それは日米軍事協力が、「日本の防衛」という枠を大きくはみ出して、アジア太平洋地域での米国の手前勝手な軍事介入に際して、わが国自衛隊がこれを支え軍事展開するという新段階に達したことを意味する。
小渕首相は「日米同盟関係の絆(きずな)を深くするもの」と述べたが、わが国は米国の東アジア戦略に深く組み込まれ、いっそう大きな負担を背負わされることになった。
第二に、北朝鮮への米国主導の共同対処である。クリントン大統領は、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への二億ドルの日本の資金供与を評価し、「朝鮮半島の一番の課題はミサイルの技術移転」と述べた。小渕首相は、米国のペリー調整官が検討している「包括的アプローチ」に支持を表明、そのうえでいわゆる日本人拉致(らち)疑惑への協力、日米中韓露朝の六カ国協議の提唱を行った。だが、この「独自」の要求は、必ずしも支持を得られなかった。
第三に、行き詰まりをみせるNATOのユーゴ空爆に、小渕首相は支持と協力を約束した。これまでの「理解」からさらに踏み込んで、二億ドルの財政貢献だけでなく、「政治的解決」のために犬馬の労をとることを約束した。帰国前にはロシアのチェルノムイルジン特使と協議して「責任の共有」を演じてみせた。これは同盟を理由に、日本が米国の世界政策に際限なくつきあわされる姿を示すものである。
今回の会談で、「共通の価値」に基づく「同盟強化」を強調した背景には、強大化する中国に「米国との緊密な関係を前提に対処したい」という日本のもくろみがあったといわれているが、どんな議論が交わされたか公表されなかった。
会談のもう一つの柱、経済面では、クリントン大統領はわが国に内政干渉まがいの要求を突きつけ、小渕首相は対米譲歩を約束した。クリントンは、「日本経済の脅威はデフレを通じた経済の縮小だ」と財政出動を含む景気刺激策を強く要求、小渕首相は、「プラス成長達成へ不退転の決意」でこたえた。「補正予算」による追加対策は対米公約となった。
さらにクリントンは、自動車・同部品、保険、板ガラス、政府調達、鉄鋼問題など個別品目での市場開放、規制緩和を要求した。
日米同盟では繁栄も平和もない
小渕首相は、主権国家の面子(めんつ)などうち捨て、「日米関係はいま最高」「今回の訪米は大成功だった」とはしゃいでいる。
すでにみたように、今回の会談の実態は、日本にとっては何一つ自主性も利もない、対米追随丸出しの「外交」であった。さらに重大なことは、小渕首相が、二十一世紀にわたりこうした日米関係を継続すると確認したことである。日本を軍事、政治、経済のすべての面で米国の戦略にしばりつけ、力の限界を露呈する米国を支え、一体となって進むことを誓約した。
国際政治の現実を、日米関係という狭い窓からのぞいてはならない。広い視野でありていに見るなら、この選択がいかに国を誤る選択であるか、見えてくるはずである。
冷戦崩壊から十年。米ソ二極構造の世界秩序が崩壊しただけでなく、米国一極支配の夢も破れ、多極化と再編成のさなかにある。アジア危機から始まったドル基軸のグローバル資本主義の危機とユーロの登場は、世界秩序を土台から揺さぶっている。最近採択されたNATOの新戦略概念も、日米新ガイドラインも、一面では米国一国では世界を牛耳れなくなった現実を認めたものだ。凋落(ちょうらく)する米国と主要国が、国益をかけて激しく争う局面に入っている。
こうした国際政治の新たな展開のなかで、米国との従属的同盟の道は、わが国の力になるどころか外交の幅を狭め、主導性を失わせて危機に陥る結果になりかねない。
第一、日米同盟強化によって、隣国である中国、北朝鮮との関係はますます悪化しよう。新ガイドライン関連法案は、日米軍事同盟を強化して、中国、北朝鮮の内政に干渉する道を開いたものである。中国がガイドライン法案を厳しく警戒し、「台湾が周辺事態に含まれない」ことを繰り返し要求するのは当然である。北朝鮮が不信感をつのらせ、日本をまともに交渉相手と認めない態度をとるのも、当たり前であろう。
過去の侵略戦争と植民地支配に対する反省、謝罪が未解決のまま、隣国との関係が取り返しのつかない方向に進んでいる。アジア、とりわけ隣国の中国、北朝鮮との友好関係なしに、わが国の安全と繁栄はありえない。日米同盟強化は、わが国の平和と安全を保障しないばかりか、その障害である。
第二、日米同盟強化は明らかに、わが国外交の幅を狭め、国益を守る外交の障害物となろう。とりわけ、わが国が重視すべきアジア外交で、これまでにも東アジア経済協議体(EAEC)構想、アジア通貨基金構想など、日米同盟ゆえに挫折させられた。
また、かつての湾岸戦争、昨年末のイラク爆撃、今回のユーゴ空爆など、わが国は米国の世界政策に際限なく支持を求められてきた。その結果、日本外交は「ご用聞き外交」とそしられ、外交舞台での日本の信頼は地に落ちている。
日米同盟強化によって、こうした傾向はさらに強まる。複雑化する国際政治の中で主導性を失うのは必至である。これは、対外依存度の高いわが国にとって、致命的と言わねばならない。
第三、日米同盟を支えるための軍事、経済面での負担も法外なものとなろう。この点では、この十数年あまりドルに隷属したわが国の通貨・金融政策が、いかにわが国の経済力をそぐ結果になったかを思い起こすだけで十分であろう。日米同盟のもとでは、一国の財政運営さえ自由にならないのである。
日米同盟強化の道では、わが国の繁栄も平和も保証できず、かえって国を危機に陥らせることが明らかとなった。いまやわが国の発展を阻害する要因となっているのだ。日米同盟強化は、そのことでもうかるひとにぎりの多国籍化した巨大企業の要求に他ならない。
米国の窓からだけ世界をのぞく対米追随の外交は、もはや耐用年数が切れた。われわれは、国際政治の新たな展開に通用する、世界的視野と戦略性を備えた独立・自主の外交への転換を急がねばならない。これは、野党だけでなくわが国の進路を憂えるすべての政党、派、政治家、知識人、経済界、労働組合など各界の人びとの緊急課題である。
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