990415 社説


NATO軍はユーゴへの軍事介入を直ちにやめよ


 三月二十四日(現地時間)、米国を中心とする英、仏、独、伊などの北大西洋条約機構(NATO)軍は、ユーゴスラビア連邦共和国領土への空爆を開始した。以来、こんにちまで三週間、空母からの巡航ミサイル攻撃、Fなど六百機を超える戦闘機による空爆が続けられている。対象も軍事施設から、首都近郊の石油精製所、通信施設、橋など民間へと拡大している。その結果、四十万人以上の難民が発生している。

 四月十二日開かれたNATO緊急外相理事会は、地上部隊の派遣も視野に入れた空爆継続を決定した。

 これは、主権国家ユーゴに対するあからさまな侵略行為であり、覇権主義丸だしの武力による内政干渉である。国連決議も、国際法も踏みにじる暴挙である。

 あろうことか小渕政権は、この暴挙に「理解」を示し、政治的に加担した。

 われわれはNATO軍によるユーゴ空爆、軍事介入を厳しく糾弾し、即時停止を要求する。併せて、この暴挙に加担する小渕政権に抗議し、「理解」を撤回し空爆の即時停止を求めるよう要求する。

 空爆に当たり、クリントン米大統領は「人道惨事を防ぐ道義的な義務」、ソラナNATO事務総長は「コソボで続く非人道的行為をやめさせなければならない」と「人道」を強調した。だが、それは人をあざむくペテンであり、覇権主義を覆いかくすかくれ蓑(ミノ)である。

 第一に、そもそもコソボ紛争はユーゴの内政問題であり、いかなる理由をつけようと米国など外国がとやかく口を出す権利はない。ユーゴ連邦セルビア共和国南部のコソボ州は人口の九割をアルバニア系住民が占めているが、この一年余、アルバニア系武装組織とセルビア治安部隊の戦闘が拡大、和平交渉が行われていた。今回の空爆は、和平案をミロシェビッチ大統領のセルビア側が拒否したことに対する軍事制裁として行われたもので、まぎれもない主権国家に対する内政干渉である。

 民族紛争の解決は、決して外部からの軍事介入では解決しない。遠くはバルカン戦争や第一次大戦、最近では冷戦崩壊以降くすぶる紛争は根が深く、長年にわたり歴史的に形成されたもので、大国の干渉の産物である。大国の干渉を排し、当事者同士のねばり強い平和的交渉によってこそ、解決の道が開ける。短期決着は不可能で、まして外国の軍事介入は紛争を複雑化し深刻化させるだけである。現に空爆は、セルビアによるアルバニア系住民への弾圧を拡大し、大量の難民を生み出し、和平交渉を中断させることになった。

 しかも第二に、今回の軍事行動はNATO創設以来初めての「域外」主権国家に対するものだが、国連安保理決議など国際法上の最低の裏付けもなしに強行された。

 こうした勝手放題のやり方は、今回のユーゴ軍事介入を米国が冷戦後のNATOの「新戦略概念」、そのテストケースとして位置づけていることとかかわりがある。

 米国は二十三日から開かれるNATO創設五十周年首脳会議で、冷戦後の「新戦略概念」の採択をめざしている。それは冷戦時代の「侵入に対する集団的防衛」という戦略から、「域外の紛争」への介入・「大量破壊兵器やテロ」の対策へと任務を広げる「域外軍事介入」戦略への転換である。しかも米国は域外の主権国家への軍事介入を、これまでのように国連安保理決議に拘束されることなく行えるようにしようとしている。NATOを国連から解放された「世界の新たな警察官」に仕立て上げようとするものだ。これは、冷戦後の世界を米国主導で支配下に置こうとする覇権主義の現れである。

 こうした国際社会にたいする米国の重大な挑戦に対し、ロシアをはじめ中国など各国は厳しく批判、米欧諸国でも抗議の声が高まっている。最初から解決の展望がみえないまま踏み切った軍事介入は、早くも泥沼化の様相を示しており、やがて米・欧間の矛盾も表面化しよう。

 国際世論と連帯し、NATOの軍事介入に抗議する声を広げ、小渕政権の態度を撤回させるための闘いは、緊急の課題となっている。


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