新ガイドライン関連法案を廃案に

990405　社説

新ガイドライン関連法案を廃案に

アジアに信頼され共生する新たな進路を切り開くために

　今国会の最大課題と位置づけられた、新たな日米防衛協力の指針（新ガイドライン）関連法案の国会審議が進行している。

　自民・自由連立政権は、四月末の小渕首相訪米までに法案成立の目処をたてるべく審議を急いでいる。政府・与党は、はやばやと法案の一部修正に応じる姿勢を明らかにした。野党の公明、民主党は基本的に修正協議に応じる姿勢であり、国会審議の状況は予断を許さない。

　新ガイドライン関連法案は、日米安保共同宣言（九六年四月）にもとづく新安保体制構築の総仕上げに当たる。日米安保共同宣言は、冷戦後のわが国の新たな安全保障のあり方、国の進路の選択であった。だから国会では、日米安保共同宣言の選択の是非が第一義的に議論されるべきだが、実際の論戦もマスコミの関心も枝葉の問題に集中している。

　こうした国会審議の実際だが、広がり始めた反対世論を発展させ、廃案に向けて国民的闘いを一段と強めなければならない。闘いの戦線を広げるためにも、日米安保共同宣言の道、対米追随の国の進路には前途がなく、独立・自主でアジアに信頼され、共生をめざす進路にこそ展望があることを示さなければならない。

安保共同宣言の是非こそ議論すべき

　新ガイドライン関連法案は、１）米軍に対する後方地域支援などを定めた周辺事態法案、２）「邦人救出」などのために自衛艦も使用する自衛隊法改定、３）米軍への物品など提供を有事にも提供する日米物品役務相互提供協定（ＡＣＳＡ）改定、の三つで構成されている。

　周辺事態法は、その地理的範囲も概念も明確でない、わが国の「周辺事態」に際して、戦闘行動を行う米軍への物資の補給・輸送などの「後方地域支援」や、米兵らの捜索・救難、船舶検査（臨検）などを行うことを盛り込んでいる。

　そして、自治体や民間企業へも協力要請ができ、民間空港、港湾、公立病院、海運なども米軍支援の「実効性確保のため」の対象にされるという。わが国全土を、いわば総動員して、米国の行う戦争に協力する体制を整備しようというのである。

　国会の論議では、米軍支援の基本計画の国会承認や臨検の前提となる国連決議の扱いなどが焦点になっているが、これらはまったく枝葉の問題と言わなければならない。また、一部の野党は「安保条約の目的の枠内で」という文言を入れることが歯止めになるかのように言うが、いずれも日米安保体制の存続強化を前提にしており、五十歩百歩である。

　新ガイドライン関連法案の審議で第一に議論されねばならないのは、冷戦後のわが国の安全保障、進路として選択された日米安保共同宣言の是非である。

　一九九六年四月、橋本首相とクリントン米大統領は、冷戦後の安保条約について再定義を行い、新たな安保体制ともいうべき日米安保共同宣言に調印した。この共同宣言は米国防総省の「東アジア戦略報告」（九五年二月）を下敷きにしたもので、それは冷戦後の世界秩序を単独で確立しようとする米国の国益をかけた世界戦略のアジア・太平洋地域版にほかならず、ソ連封じ込めから、中国、北朝鮮を最大の標的にした戦略への転換、そのための米軍十万の兵力維持を内容とし、日本はその要（かなめ）として位置づけられた。

　これにどんな態度をとるのか、まさに冷戦後の新たな世界秩序再編期における日本の進路が問われた。日米安保体制から脱却し新たな進路の確立に向け、国民的合意を形成するまたとないチャンスでもあった。だが、橋本政権はなに一つ民意を問うことなく日米安保共同宣言で「東アジア戦略」への忠誠を誓い、日米安保体制を存続強化して、中国、北朝鮮に内政干渉し、アジア諸国に敵対する道を選択した。

　これは単なる安保条約の継続ではない。アジア諸国の新たな警戒と不信を増幅させる、より侵略的な安保体制への強化・拡大、変質を意味する。本来なら安保条約の大改訂としてその是非が、国民に問われるべきであった。この重大な選択がただの一度も国会で審議に付されることなく、新ガイドラインの政府間の取り決めなど官僚主導で具体化されてきたのはきわめて異常である。

　元新党さきがけの代表代行・田中秀征氏は、最近、「日米安保体制の存続強化」論が幅をきかせている国会審議を憂い、「この数年間の連立政治の特異な経過も野党の手足を縛り、国会の論戦を萎縮させている」と政党の責任を指摘している。野党の有力政治家、民主党の幹部も、「自社さ政権」の閣僚、与党役員として日米安保共同宣言に関与してその責任を共有していること、社会党が村山政権と引き替えに「安保廃棄」「自衛隊違憲」の政策転換をはかり、新安保構築の流れに引きずられてしまったことをあげている。

　その上で田中氏は、「野党は、新安保構築の流れに参画した過去の制約にとらわれず」「時代を見据えた骨太の安保論議を」と提唱している（三月十九日「朝日新聞」）。自社さ政権の中枢にいた人物の発言として、傾聴に値する。

　野党がもし、わが国の前途を真に憂えているのなら、今からでも遅くはない、「過去の制約にとらわれず」、安保共同宣言の是非について態度を明確に示すべきである。

安保宣言の道はアジアで孤立する

　橋本政権が日米安保宣言の道を選択して三年。すでにこの道は、わが国の前途を危うくし、国益を損なうことが明らかになってきた。

　第一に、ソ連に替わって「最大の標的」にされた北朝鮮、中国の警戒と不信はいちだんとつのり、両国との関係が悪化している。とりわけ昨年八月の北朝鮮の人工衛星打ち上げ以降、最近の「不審船事件」に至るまで、わが国では常軌を逸した反北朝鮮キャンペーンが繰り広げられた。それらを口実に偵察衛星の導入、弾道ミサイル防衛（ＢＭＤ）システムの共同開発、空中給油機の導入など軍事強化を一気に進めた。

　「不審船事件」では自衛隊発足以来初めての「海上警備行動」がとられた。また、新ガイドライン関連法案の早期成立を図り、さらに有事法制の整備、武器使用をめぐって自衛隊法の改悪までもくろんでいる。北朝鮮は、「日本の共和国敵視政策が危険ラインを超えつつある」と警告を発し、最悪の関係となった。

　中国が台湾を「周辺事態」に含めることを内政干渉として繰り返し批判し、戦域ミサイル防衛（ＴＭＤ）の開発を厳しく批判しているのは周知の通りである。

　こうしてわが国はアジアの隣国から孤立する道に陥っている。後藤田正晴氏は、「日本がアメリカ一辺倒ばかりやっていると、気がついてみたときには中国中心のアジアが米国と手を結んでいたと言うことになる。結局、日本だけがまた昔のように『蚊帳（かや）の外』になる恐れがある」と危ぐを示している。

　第二に、米国が新ガイドラインの既成事実化をねらい、米軍と自衛隊による共同訓練、米艦船の民間港入港が繰り返されてきたことである。これは先に述べたわが国の一連の軍事強化と併せて、アジア諸国にとって軍事的脅威となっている。

　その他、昨年末のイラク、最近のＮＡＴＯによるユーゴ爆撃など米国の無法な軍事攻撃に対する、わが国政府の追随ぶり、自主性のなさへの不信。経済面でも対米従属の政治とドル依存によって、米国にほんろうされ、金融・経済運営への露骨な干渉で国益を殺がれてきたこと、等々。

　冷戦後のわが国の安全保障、国の進路として選択された安保共同宣言の道は、アジアで孤立し、国益を損なうことが明らかになった。

　安保共同宣言を軍事面で具体化する新ガイドライン関連法案を廃案に追い込まねばならない。

　議会内の力関係だけでなく、わが国内外の環境を見回せば、闘いにとって不利な条件ばかりではない。

　新ガイドラインに反対する国民各層の世論と闘いが広がっている。「朝日新聞」の世論調査によれば、法案に反対が四三％で、賛成の三七％より多い。沖縄県民の闘いをはじめ北海道、九州での連合による大規模な集会、海員組合、全港湾、航空労組などの闘い、女性団体や青年団体、消費者団体、学者などの闘い�自治体での反対決議も広がっている。朝鮮、中国などアジアの不信と警戒の声はいっそう高まっている。

　この闘いは、従属的な対米関係を清算し、自主的でアジアに信頼され共生する新たな国の進路を切り開く闘いの重要な構成部分である。

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