99025 社説


北朝鮮敵視政策をやめ、国交正常化交渉を


 昨年末から今年にかけて、わが国ではマスコミを中心に「北朝鮮がテポドン・ミサイルを発射する」「米国は核・ミサイル施設を爆撃する」などの「観測」が流され、朝鮮半島の「三月危機」「五月危機」などがまことしやかに語られた。わが国内での、昨年八月三十一日の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による人工衛星打ち上げ以降高まる一方の「北の脅威」論や「軍事衝突」論とは対照的に、北朝鮮をめぐる米国、韓国、欧州連合(EU)などの「対話」外交が活発化している。

 隣国でありながら、ひとり取り残される日本。小渕首相は、国交正常化交渉再開を口にせざるを得なくなったが、どう臨むつもりか。

米国は「米朝枠組み合意」を維持

 米国と北朝鮮は、昨年からの数回の「地下核施設疑惑」をめぐる協議を経て、この一月下旬、歩み寄りをみせた。最終合意には至っていないが、北朝鮮が疑惑施設への「訪問」を認める代償として、米国は今年中に八十万トンの食糧支援で打開する方向が強まったと報じられている。

 この米朝協議の背景には、共和党優位の米議会で高まった「対北朝鮮強硬論」があった。

 一九九四年十月、北朝鮮での核開発疑惑に端を発した米朝交渉が合意し、北朝鮮は寧辺にある原発施設などを凍結、使用済み燃料棒の密封と安全貯蔵を約束した。引き替えに米国は朝鮮半島エネルギー機構(KEDO)を通じ、二〇〇三年までに軽水炉二基を提供すること、その間の代替エネルギーとして年間五十万トンの重油供給を約束した。同時に南北対話の実施、貿易・投資の障壁緩和、連絡事務所の相互開設なども取り決めた。以降、米朝関係は、この「米朝枠組み合意」の下に関係改善が進むはずであった。

 しかし米国の重油供給と軽水炉建設の大幅な遅れ、不満足な経済制裁の緩和など、昨年春から北朝鮮側は履行状況に不満を表明、凍結作業を中断していた。これに対し十月、米議会は新たな「地下核施設疑惑」を持ち出し、重油代金拠出案承認に当たって条件をつけ、さらに「枠組み合意」自体を見直すべきだ、と主張。クリントン大統領は、ペリー前国防長官を北朝鮮政策調整官に任命し、見直す約束をしていた。

 他方、昨年九月最高人民会議を開催して金正日国防委員長を中心に政治体制を整備した北朝鮮は一貫して疑惑を否定。「枠組み合意」に取り決めのない査察に応じる義務はないと強調、「ミサイル開発・配備・輸出は主権国家としての権利であり、他国もしている」と反論してきた。

 ここ数カ月間、激しい軍事的発言の応酬もあったが、結局のところ米朝間交渉は先に述べたように妥結の方向となった。また、ペリー政策調整官が大統領に提出予定の報告書骨子には、議会の強硬論に配慮しつつも「引き続き一九九四年の米朝枠組み合意を堅持する現行の基本政策の維持を軸とする」ことが盛られている。ペリーは北朝鮮訪問の意向だという。

 要するに、クリントン政権は北朝鮮の核、ミサイル開発を懸念しながらも短期的には「危機」とはみておらず、引き続き「米朝枠組み合意」を基本に、より包括的な合意を目指そうとしている。

 言うまでもなく、東アジア戦略構想、国防報告で指摘しているように、北朝鮮を「地域における最も顕著な危険」と見なす米国の北朝鮮敵視戦略にいささかも変わりはなく、日米韓の軍事協力を強めて「抑止力」を増強し、ミサイル開発への対抗策として全米ミサイル防衛(NMD)開発の優先順位を繰り上げるなどの措置をとっているのは事実である。にもかかわらず、米国は北朝鮮の核拡散を阻止することを目標にしているとみて間違いない。

韓国、EUも「対話」外交活発化

 韓国の金大中政権は、さらに意欲的に北朝鮮との「対話」に動いている。

 金大中政権は、昨年二月の発足以来、北朝鮮との交流・協力を拡大するいわゆる「太陽政策」を推進してきた。また、金大中大統領は米朝交渉による危機回避を希望し、ペリー調整官に対して米朝国交正常化を含む「包括的解決」を提案した。日本にも、食糧支援の再開と国交正常化を提案した。それは、北朝鮮に対して「要求するものは要求」しつつも、その見返りとして「与えるものは与える」との考え方に立つ。「要求するもの」は、核開発の中止、ミサイル開発・輸出の中止だ。一方、「与えるもの」は、単なる経済支援にとどまらず、経済制裁緩和など米朝関係改善、日朝関係改善、南北関係の改善などで、これらを一括して実現すべきだ、という主張である。

 こうした提案の背景には、経済危機の立て直しを最優先課題としている韓国にとって、緊張の高まりは回避したいという事情がある。また、「北朝鮮はすぐには崩壊しない」との判断もあり、北朝鮮の政策変化を促しつつ、南北の和解と共存を図り、統一に備えるという長期戦略があるようである。

 こうして韓国からは肥料支援を議題に南北会談が呼びかけられ、北朝鮮からは今年後半の南北高位級政治会談の呼びかけが行われた。

 さらに注目すべきは、EUの北朝鮮接近の動きである。

 歴史的にも地理的にも縁遠いEUが、KEDOや食糧支援(九八年には肥料も含め四十億円相当)を通して関係をつくり、昨年十二月にはブリュッセルで初の政治対話を開催した。続いて欧州会議の代表団が平壌を公式訪問し、政府首脳と協議して関係改善に意欲を示した。

米国の動向に右往左往する小渕政権

 こうして今年に入り、北朝鮮をめぐる情勢は、大きく変化しようとしている。

 ひるがえって、この数カ月間の小渕政権の北朝鮮への対応をみるに、失望と憂慮を禁じ得ない。米国の時々の発言に右往左往、短絡的な対応で、国家戦略なきわが国外交の危うさと無力さをさらけ出した。そのあげくの果ては、北朝鮮との交渉ルートもなく、米国や韓国からも取り残されて進退極まれりである。

 わが国政府は、昨年八月の人工衛星打ち上げを、「ミサイル発射」と言い張り、国会では全会一致で北朝鮮非難決議を採択した。国交正常化交渉、食糧支援を凍結、いったんはKEDOへの費用分担まで見合わせる措置をとった。

 マスコミ、右翼勢力を総動員した反北朝鮮キャンペーンは、ついに在日朝鮮人への暴行と朝鮮総連会館への襲撃、殺害事件という暴挙を引き起こした。全国の在日朝鮮人を震撼(しんかん)させた一連の事件を決して見過ごしてはならない。

 さらに重大なことは、「北の脅威」を利用して、懸案であった偵察衛星の導入、弾道ミサイル防衛(BMD)システムの共同開発、空中給油機の導入など軍事強化を一気に進めただけでなく、新ガイドライン関連法案の早期成立を目指すなど「朝鮮有事」に備えた体制整備へ動いたことである。

 こうしたこの間のわが国政府の対応は、すでに根深い北朝鮮の不信感を何十倍にも増幅させたにちがいない。彼らが「日本の共和国敵視政策が危険ラインを超えつつある」と警告を発したのは当然である。

 小渕政権は迫られて国交交渉再開を口にしたが、こうした北朝鮮側の状況を十分に理解して臨まなければならない。

 北朝鮮との国交交渉に当たってわが国がとるべき態度の第一は、わが国が戦前の三十六年間、朝鮮民族に与えた災難、戦後五十余年間に与えた損失に対する謝罪と補償を行うことである。こうした態度を打ち出せなければ、北朝鮮の信頼は得られない。昨年十月、小渕首相は金韓国大統領との「共同声明」で、植民地支配により与えた損害と苦痛に「痛切な反省と心からのお詫び」を明記した。これを踏まえるべきである。

 第二は、戦後わが国支配層がとり続けてきた日米安保体制に基づく対米従属路線にひきずられることなく、独立、自主の立場で会談に臨む必要がある。米国はもちろん、韓国も、EUも自国の戦略をもって、北朝鮮との関係を進めている。わが国も対米従属から脱却し、自前の戦略を持って、臨むべきである。

 こんにち、北朝鮮に対してなすべきは、「脅威」をあおり続けることではない。隣国として信頼し合い、友好的に共存できる関係を築くため、直ちに国交正常化を実現すべきである。


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