世界資本主義の危機がいちだんと深まるなか、米欧を中心に巨大企業による国境を越えての大型合併、買収(M&A)の旋風が吹き荒れている。石油メジャーのエクソンとモービルの合併、自動車ではダイムラー・ベンツとクライスラーの合併、フォードによるボルボの乗用車部門買収、金融ではドイツ銀行のバンカース・トラスト買収、シティコープとトラベラーズの合併、等々。百年来の歴史的な再編のうねりという論評も出るほどである。
グローバル化、技術革新、世界的なデフレの圧力を背景に、「二十一世紀に向けた技術獲得競争」「業界で生き残る三〜五社を決める最終戦」などと言われる大型合併、買収の争奪戦が激しく演じられ、ますますひとにぎりの巨大企業への資本と生産の世界的集中が図られている。
この世界的な再編のうねりに、わが国の大企業もいや応なしに対処を迫られ、生き残りをかけての、聖域なき事業再編に踏みきった。
合併、再編成を進める大企業のもう一面の狙いは、バブル期に積みあげた膨大な「過剰設備」と「過剰人員」の削減である。
いよいよ本格的なリストラ攻撃が始まる。大企業の合併、再編は、倒産の激増、失業者の急増、地域経済の崩壊など重大な社会問題を引き起こさざるをえない。
米欧企業、史上空前の大型合併
まず、米欧を中心に空前の規模で進んでいる巨大企業の合併・買収の実態を見ておこう。
われわれに大合併時代到来の印象を決定づけたのは、昨年十二月、石油メジャーの米エクソンによる米モービルの買収であろう。九七年米企業売上高番付で三位と八位の巨大企業同士が合併し、さらに「規模の利益」を追求するというのである。買収金額は約八百億ドルで過去最大、合併後の新会社は売上高が二千億ドル(約二十四兆円)、原油生産は日量二百五十万バレルで産油国のクウェートを抜き、「競争相手は企業ではなく、サウジアラビアになる」とさえ言われるほどの超巨大企業が出現した。石油産業は昨年八月、英国資本のBP(ブリティシュ・ペトロリアム)が米アモコと合併(買収金額四百八十億ドル)を決定、戦後のメジャー六社体制(シェル、エクソン、BP、モービル、シェブロン、テキサコ)は終わり、シェルは首位から転落、新たな戦国時代へと突入した。
自動車でも昨年十一月、独ダイムラー・ベンツが米クライスラーを合併し、生産台数世界第三位に躍り出るや、今年に入って米フォードがスウェーデンのボルボの乗用車部門を買収、EU市場ではGMを抜くなど、劇的な再編成が進んでいる。
昨年は金融機関でも、大型M&Aが相つぎ、世界の金融大再編の年となった。米シティコープと米トラベラーズの合併(買収金額八百二十五億ドル)で、世界最大の総合金融機関が生まれた。米ネーションズと米バンカメリカの合併(六百二十六億ドル)は、米国初の全米型銀行の出現となった。スイス銀行とスイス・ユニオン銀行の合併(二百四十八億ドル)で世界二位の銀行に。十一月には、ドイツ銀行が米国八位の投資銀行バンカース・トラスト(百一億ドル)を買収し、世界最大の資産規模をもつ巨大銀行が誕生した。今年に入って、仏ソシエテ・ジェネラルと仏パリバが合併合意、資産規模で世界三位の銀行になる。
その他、保険、通信、化学、医薬などのさまざまな分野で、巨大企業による大型合併・買収が繰り広げられている。まさに、大型合併時代の到来と呼んで過言ではない。
それを裏づける数字がある。米国の調査会社によると、九八年の米M&Aの総額はなんと前年比七九%も増加、一兆六千二百十八億ドルとなり、史上空前の規模に達した。件数は昨年並みの水準だったが、買収金額数百億ドル規模が相次ぎ、世界の過去上位十案件のうち九件までが九八年に発表された米企業がらみのものだった。ちなみに九七年の合併件数は、九〇年代初頭の約四倍となっている。また、九八年の国境を越えたM&Aは五千四百四十億ドルで、前年比六〇%も増加した。
こうしてあらゆる産業、金融部門で、米欧を中心とするひとにぎりの多国籍企業、巨大金融機関の手に資本と生産が世界的に集中する過程が劇的に進んでいる。集中の大規模な進展は、世界の分割に向かわざるを得ない。ひとにぎりの巨大化した多国籍企業による世界の経済的分割、分け取りが進む。五〜六社、多くても十社前後の、勝ち抜いた巨大企業が世界的に支配的地位を手にする。
世界規模での巨大企業間の、食うか食われるかの激しい争奪戦が始まったのである。
過剰設備、過剰人員の削減が課題
米欧の巨大企業による大型合併・買収の旋風は、わが国企業にも大きな衝撃となって対応を迫っている。わが国の大企業は、売上高や収益など依然として低迷しているが、ここにきて、世界の激化する競争、世界的再編に加わり、生き残ろうと本格的な事業再編に踏み切る動きが出てきている。
わが国でも、合併・買収の再編の動きが活発化している。
金融部門が先行して、一昨年頃から内外企業入り乱れての、大型合併や事業買収・提携が続出している。メリル・リンチが旧山一証券の一部を買収したのは記憶に新しいが、その他シティコープと住友信託の合併交渉、住友、富士、三和など都市銀行とゴールドマン・サックスの業務提携が相次ぐなか、日本の金融機関同士の業種をこえた再編も進んだ。九八年五月には最大の証券会社野村証券が日本興業銀行と提携。住友銀行と大和証券も提携を決定した。
合併・買収は、自動車、電機、石油、化学など産業部門でも本格的に進みはじめた。
めぼしい事例だけでも、日本石油と三菱石油の合併、三菱化学と東京田辺製薬の合併、東芝と三菱電機の大型モーターの事業統合など。なかでも住友ゴムと米グッドイヤーの全面提携、帝人と米デュポンとのポリエステルフィルムでの事業提携は、それぞれ世界最大のシェアを握るもので、世界の注目を浴びた。
また事業再編に聖域をも設けず事業部門を売却・買収するケース(JTが旭化成から食品事業を買収、日立製作所が半導体ウエハー事業を信越化学に売却)、ライバル同士の事業統合のケース(東芝と三菱電機)なども出てきている。
今年はさらに、商社、百貨店、建設業などさまざまな分野で大規模な合併・再編の動きが加速するだろうとの予測もある。
だが、こうした事業再編にはもう一面の狙いがある。わが国大企業がこんにち、合併、再編成という手法を使うのは、バブル期から引きずってきた過剰設備や過剰人員を一気に削減、圧縮するためでもある。三十兆円ともいわれる過剰設備を廃棄し、百七十万人ともいわれる「過剰人員」をはきだすことなしに、国際的な競争力などつけようがないからである。
政府もこうした個別企業の「改革」を全面的にバックアップしようとしている。小渕首相の諮問機関である「経済戦略会議」は、「産業における過剰債務と過剰設備を迅速に処理する」ことを重視し、設備廃棄に伴う欠損金の繰越期間の十年への延長、設備廃棄を伴う合併・買収に対しては税金を減免するなど税制面からの強力な支援策を提言した。
要するに、わが国大企業は世界での激しい企業間競争に勝利するために、合併や買収の事業再編を推進しながら、他方でいよいよコスト削減のための労働者攻撃、本格的なリストラ攻撃に踏みきったのである。
すでに設備廃棄に伴い、各所で工場閉鎖、人減らし・首切り計画がでてきている。ごく最近だけでも、日産ディーゼルが九九年度中の群馬工場閉鎖、三千人の人員削減を発表した。化学大手も相次いで設備廃棄を決定、三菱化学は四日市工場のエチレン設備廃棄、二千人の人員削減を発表した。等々。
倒産は激増し、大失業時代がやってくる。失業率は九九年度末には六%台まで上昇するとの予測もある。昨年のアサヒ靴の経営破綻に伴う福岡県筑後地区のような地域経済危機が、全国いたるところで起きるに違いない。
労働者階級は、大企業家どものなりふりかまわぬ攻撃がつくりだす反作用、新たなエネルギーに依拠して闘い、状況を主導的に打開しなければならない。
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