990205 社説


自自連立政権の発足に当たって


 一月十四日、自民党と自由党の連立政権が発足した。昨年十一月、急転直下、小渕総裁と小沢党首が連立政権樹立に合意して以来、約二カ月の政策協議を経ての帰結である。

 九三年非自民連立政権の成立以降、繰り広げられてきた政治再編は、危機のいちだんの深まりのなか、「保守結集」というかたちで新たな段階に入った。

 自自連立政権は、「新たな保守」と称して、対米従属には何一つ変更を加えず、安全保障・憲法問題、「小さな政府」など反動的政策を軸にした政権基盤の強化によって、危機の打開をはかろうとしている。

 すべての野党、労働組合、進歩的人びとの態度が問われている。

危機打開に大きな責任

 今回、小渕首相が自由党との連立を決断したのは、国会運営での窮状を打開したいというのが最大の動機だった。参院選で大敗した自民党は、参議院では過半数に二十三も不足し、国会運営でいちだんと窮地に追い込まれていた。先の金融国会では民主党案を丸のみさせられ、米国が早期成立を迫る新ガイドライン関連法案の審議に入ることもできなかった。終盤では額賀防衛庁長官に対する問責決議が可決された。

 危機がいちだんと深まるなか、法案ごとに賛成してくれる政党が違う部分連合(パーシャル連合)では機敏に対処できないことが明らかになって、理念や政策が近い政党との協力の枠組みづくりがいよいよ待ったなしの課題となった。

 他方、自由党の側にも、与党となって自民党との選挙協力を進めない限り、総選挙では生き残れないとの危機感があった。

 両党にはこうした共通する利害がありながら、連立合意に進むには越えがたいハードルがあった。

 そのハードルを越えさせたのは、財界の危機感である。ロシアから中南米へ、ヘッジファンド破たんで米国にまで迫った世界資本主義の危機、戦後最大の危機に直面した日本。にもかかわらず、危機打開のために迅速な行動をとれない政治に財界の危機感はつのるばかりであった。平岩外四経団連名誉会長は小渕首相に小沢との交渉を進めるよう要求した。

 こうして来日するクリントン米大統領との日米首脳会談に間にあわせるように、その前日の十一月十九日、小渕首相は小沢とのトップ会談で自自連立政権樹立に合意した。以後二カ月にわたる政策協議を経て、一月十四日、連立内閣が発足したのである。

 財界は当然にも、「危機から脱却するには政治の安定とリーダーシップが欠かせない」(経団連)、「安定した政治体制に一歩近づいた」(日本商工会議所)と歓迎し、「思い切った政策を打ち出してこそ、自自連立の意味がある」「二十一世紀に向けた大胆な構造改革と新しい国づくりが必要だ」と注文をつけた。稲盛和夫京セラ名誉会長、亀井正夫住友電工相談役、瀬島龍三伊藤忠特別顧問ら財界人は一月十八日、全国から企業経営者二千四百人を集めて「国難突破・国民大会」を開き、自自連立政権を応援する団体「がんばろう日本!国民会議」を結成した。

 米国も、政権が安定し、ガイドライン関連法案の早期成立、北朝鮮情勢への的確な対応、日本経済の早期回復と市場開放、規制緩和を実現する政策遂行能力が高まるとして、自自連立政権を歓迎した。

 自自連立政権は、危機がいちだんと深まるなか、財界の後押しと米国の期待に応える形で発足し、危機打開に大きな責任を負わされた。

「米国なしで生きられない」路線

 自自連立政権は、どういう政治方向で危機を打開しようとしているか。小渕首相は「新しい保守の理念」に基づいてといっている。

 その実質は、第一に対米従属路線には変更を加えないまま、安全保障や憲法での反動的政策の展開である。

 この点では、自由党の小沢の「米国なくして日本は生きられない」との考え方が相当に反映しているとみてよい。世界は経済から軍事まで米国を中心にして一つになる、それに積極的に協力することで日本の国益を追求しようという考え方だ。

 こうして自自合意では、日米安保体制の堅持をうたい、ガイドライン関連法案は米国への協力を通じて、日米安保体制の実効性を確保するためのものと位置づけ、通常国会で早急に成立させると明記した。国連の平和活動は「武力行使と一体化しない限り、積極的に参加・協力できる」として、国連平和維持軍(PKF)への参加凍結を解除するとともに、多国籍軍への協力に道を開く新法の制定を打ち出した。小沢は、武力行使と一体化する行為を除外せず、公海上の臨検では威かく射撃を認めるべきだと主張、また政府があいまいにしてきた周辺事態に「朝鮮半島、中国、台湾が入るのは当たり前だ」とあからさまに述べた。

 小渕首相も施政方針演説で、「日米関係をこれまで以上に強固にしていかなければならない」と強調し、憲法改悪をねらった憲法調査会設置の策動も始まった。

 「新しい保守の理念」に基づく政策軸の第二は、市場経済の徹底、規制緩和、行政改革、「小さな政府」の推進である。

 自自合意は、政府委員制度の廃止、衆院比例代表の五十削減、国家公務員定数の二五%削減、消費税の福祉目的化を明記し、「小さな政府」への再編をはかっている。

国の進路と国民生活に苦難

 こうした自自連立政権の政治方向が具体化されるなら、当面するわが国の危機打開に役立たないだけでなく、わが国の前途と国民生活にいっそうの苦難をもたらすであろう。

 早くもアジア諸国からは、警戒の声があがっている。「自自連立政権で日米同盟は強化される。これが台湾問題への干渉につながれば、日中関係は決定的に悪化する」(中国)、「連立政権が防衛力増強を積極的に推進して、日本の軍事大国化を警戒してきた周辺国家と摩擦がおきかねない」(韓国)。

 ユーロが登場したもと、ドル依存を続ける道でわが国はかつてない経済危機から脱却し、繁栄を見いだせるだろうか。この九〇年代を振り返ってみただけでも、わが国経済がドルに翻弄(ほんろう)され、経済力が大きく殺がれてきたことに気づく。今後、米国がドル体制の延命をはかろうとして今まで以上にわが国に犠牲を押しつけてくることは目に見えている。すでにアジア危機以来、日本からIMF資金として数百億ドルをむしり取ってきた。今また、スーパー三〇一条の復活を決めた。さらにもし、米国のバブルが弾ければ、日本経済はどうなるのか。

 自自連立政権の「小さな政府」が、ごくひとにぎりの多国籍企業と大資産家に都合がよく、国民大多数の福祉と権利を切り捨てるものであることは明らかである。

 自自連立政権の政治方向での危機打開は、対米従属のもとでも生き延びることができるごくひとにぎりの多国籍企業にだけ有効なものである。国民大多数とアジア諸国の反抗は必至である。

もう一つの政策軸を提起すべき

 われわれは、自自連立政権の対米従属で反動的な政策の一つひとつと闘いながら、これに対抗するもう一つの政策軸を提起し、広範な国民的戦線を形成することに全力をあげなければならない。対米従属、ドル依存から脱却し、独立・自主、アジア諸国から信頼される国の生き方を確立しなければならない。それと結びつけて、国民大多数が等しく豊かに生きられる国内政策を確立する必要がある。

 敵は、決して強くはない。自民党と自由党をあわせても、参院では過半数に十議席も足りない。自自連立政権は国会運営でも引き続き不安定さを残している。「新たな保守」の自自連立に踏み込んだとはいえ、一枚岩ではなく、さまざまな傾向、矛盾を含んだままである。とりわけ、対米従属への不満は全体として高まっている。

 危機のいっそうの深まりは、自自連立で強化したはずの政権基盤を足元から揺るがすに違いない。早晩、さらなる政治再編は避けがたいのである。

 自自連立政権の登場は、悪いことばかりではない。労働者階級と進歩を願う人びとにとって、前進のチャンスであるし、またそうしなければならない。


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