981115 社説


いちだんと深まる世界資本主義の危機

問われるわが国の進路


 世界資本主義の危機はいちだんと深まり、破局の可能性はますます増大している。

 米国を筆頭にする帝国主義諸国の指導者たちはあわてふためき、九月以降だけで三回も協議の場をもったが、利害の対立もはらんで何一つ有効な手だてを見いだせていない。

 こうした中で、米国主導のグローバル資本主義に対する批判が高まり、ヘッジファンドなど投機資金の規制、国際通貨基金(IMF)の改革などの機運が高まっている。わが国支配層の中にも、これまでの「市場万能主義」への疑問と批判が広がり、米国追随からの脱却を唱える論調も目立ってきている。政府は、アジア諸国を支援する「新宮沢構想」を打ち出した。

 危機のいちだんの深まりは、日米関係の問題点を浮き彫りにし、対米従属路線の転換を深刻に迫っている。

「世界の混迷は新段階に入った」

 この夏以降、世界資本主義の危機はいちだんと深まった。

 昨年七月、タイに始まった国際金融危機は、この夏ロシアに連鎖し、米国の裏庭・中南米に波及した。そのなかで、急激な短期資本移動の源になってきたヘッジファンドの経営危機が表面化、これに貸し込んでいた米欧の金融機関に巨額の損失をもたらし、ついに危機は資本主義の心臓部、米国を襲いはじめた。

 これは単に地域的に広がったというにとどまらない。米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン議長が告白したように「世界の混迷は新段階に入った」。FRBが今年はじめにつくった五段階シミュレーションによれば、第四段階の「世界デフレによる米欧の企業収益悪化と金融機関の損失発生に伴う実体経済の減退」の局面に入ったというのだ。ちなみに、第一段階は、アジア新興市場の通貨・金融危機。第二段階は日本の金融破たんと不況の深刻化に伴う円売りとアジア通貨の二次的な混乱。第三段階は、日本を含むアジアのデフレに伴う一次産品価格の低迷と外資逃避によるロシアや中南米の危機。そして最後の第五段階は、米欧の株価急落と世界景気の急減速、いわゆる恐慌と想定している。

 米国は不況知らずの経済になったと誇らしげに唱えられた「ニューエコノミー」論はまったくの幻想に過ぎなかったことが暴露され、そのぜい弱さを露呈して、今日米国は世界恐慌の震源地の一つとなった。

 とりわけロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の経営破たんに象徴される米ヘッジファンドの大打撃、その影響と意味するところはきわめて重大である。

 米国は基軸通貨国でありながら、世界最大の借金国で年々膨大な経常赤字を出し続けている。にもかかわらずこの八年間、持続的成長と株高を誇ってきていた。それが可能だったのは、巨額の経常赤字を埋めるため、日本をはじめとする世界中から年間七千億ドルもの資金を吸い上げ、株高を維持しながら、世界に資金を環流してきたからである。

 その手法は、膨大なマネーを国境を越えて瞬時に駆けめぐらせるウォール街発のグローバル資本主義であった。この展開の先兵として育成されたのが、ヘッジファンドであった。ヘッジファンドは、億万長者からカネを集め、デリバティブ(金融派生商品)を駆使して純資産の何倍、何十倍もの投機を行い、マネーゲームで荒稼ぎする国際的投機集団である。これが新興市場国に膨大な短期資金をつぎ込み、また瞬時に引き上げた張本人であり、九四年末のメキシコ危機、九七年以降のアジア、ロシア、中南米危機と続いた「二十一世紀型危機」を増幅した犯人である。

 米国は、こうしたやり方でドルの環流システムをつくりあげ、ドル基軸を維持し、世界経済を支配してきた。だから、ヘッジファンドの危機は、そのようなからくりで延命してきた世界資本主義のシステムの機能不全、行き詰まりを意味する。

 金融を頂点とする世界資本主義の根本的な問題点を露呈して、打開の道を見いだせず実体経済を巻き込んで破局が迫っている。

対米従属からの脱却アジアとの共生へ

 米国主導のグローバル資本主義は、転機を迎えている。G7では、ヨーロッパ諸国を中心に、ヘッジファンドなど短期資本の取引規制、米国主導の「時代遅れのIMF運営」など、批判が相ついだ。米国の影響力の低下は、覆いがたい事実となった。しかも、来年一月一日から欧州で新通貨ユーロが誕生する。ユーロがどれほど強くなるかは別にして、複数基軸通貨時代に入れば、ドルの特権が薄れるのは必至で、その地位の低下は避けようがない。

 こうしたもとで、大銀行、大企業集団間の、国家間の生き残りをかけたいっそう激しい闘争の局面に入った。

 米国は、影響力低下を補う必要から、各国への分担、とりわけ日本への負担を強めてくるであろう。これに対し、欧州諸国はユーロの発足を背景に、「ドルからの自由」を実現し、独自の動きを強めるだろう。

 こうした状況の下で、否応なしにわが国の進路が問われざるを得ない。すでに政府は十月初め、アジア六カ国に対し総額三百億ドルの金融支援を実施する「新宮沢構想」を打ち出した。

 これはそれなりにアジア諸国に歓迎されているが、求められているのはたんなる当面の対応策ではない。もっと根本的な、国家としての戦略、わが国の独立・自主の進路を確立することである。その核心は対米従属から脱却し、アジア諸国と共にその一員として生きることである。

 米国主導のグローバル資本主義が展開した八〇年代以来のことを振り返ってみれば明らかなように、対米従属の政治ゆえに、米国にほんろうされ、国益を大きくそがれてきた。八五年の「ドル高是正」のプラザ合意は、日本が積み上げてきた対米資産(多くが米国債)を大きく減価させた。米国に資金を環流させるための金利調整は、わが国に巨大なバブルを発生させ、その崩壊によって日本経済は戦後最大の不況に陥った。世界最大の債権国である日本が大不況で沈み、世界最大の借金国、米国が繁栄を謳歌(おうか)する実に奇妙な現実が続いた。日本が保有する対外純資産は九七年末で百二十四兆六千億円にのぼるが、この大半が米国債などのドル資産であり、ドルが下落すれば紙くずにしかならない。このドル依存、対米従属からの脱却なしに、わが国の前途はない。

 経済界の一部にさえ、対米関係の変更を求める意見が出ている。「プラザ合意などを見ても、為替の変動はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)よりも政治の方が強く働いているのではないか。米国が自らの国益に基づいて為替相場を誘導し、日本が追従しているというのが実情だろう。今や米国自身が市場変動に揺さぶられているのだから、日本としてももう少し節度を求める時期にきている」(津田義久・三菱重工業副社長)。

 また、対米従属から脱却し、独立・自主の進路を確立してこそ、アジア諸国の信頼を回復し、共生する道が開けるであろう。マハティール首相が提唱した東アジア経済協議体(EAEC)構想、あるいは昨年、日本が自ら提唱した「アジア通貨基金」構想は、いずれもアジア諸国に歓迎されながら、米国のけん制と妨害に屈し、挫折した。独立・自主の気風がなく、いつも最後的に米国に屈服する日本の態度は、戦争責任へのあいまいな態度とともに不信頼のもとになっている。

 世界恐慌に向かって危機が深まれば、いよいよドル基軸、対米従属は大きな負担となることは明らかである。従属的な日米関係の清算をめぐって、支配層内部にはより深刻な分化、亀裂が生まれるだろう。アジア諸国からも態度を迫られよう。

 労働者階級とわが党のみならず、国の発展と現状の打開を願うすべての人々が、支配層のこうした状況に着目し、わが国の独立・自主の国の進路を確立するために主導的な役割を発揮できるかどうか、それはわが国政治の根本的転換にとって核心的問題である。


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