981105 社説


大都府県の「財政危機」は誰がつくったか

広範な戦線をつくり、住民犠牲攻撃と闘おう


 東京都など大都府県の「財政危機宣言」が相ついでいる。大阪府、神奈川県、愛知県が同様の「宣言」を発している。

 各知事の共通した言い分は、およそ「不況により税収が減収するので、財政は火の車であり、このままでは財政が破たんする。住民サービス低下も覚悟されたい」というものである。

 この機に乗じて、マスコミは「自治体に求められるのは、多くの企業が進めている、血がにじむようなリストラへの取り組みだ」(読売社説)とあおっている。

 しかし、こうしたキャンペーンにだまされてはならない。この期間、多くの自治体は景気が良くも悪くも、膨大な借金をしてまで大企業の事業のために財政を投入し、かれらが利潤を上げることに貢献してきた。「財政危機」はその結果である。他方、こんにち長期の不況で税収が落ち込めば、住民、職員に犠牲を転嫁するという。こんな住民をばかにした大企業・大銀行本位の地方政治を許してはならない。

 同時に、地方自治体の「財政危機」を救うには、「保守も革新もない」などというとんでもないペテンが宣伝されている。現実には古今東西、地方でも財政をめぐって階級間のし烈な争いが存在する。人だましのキャンペーンを打ち破り、広範な力で住民の生活と営業を守る闘いを、知事や各首長に対して展開することが今こそ必要である。

自治体のカネで誰がもうけてきたか

 「財政危機」に陥った大都府県当局は、その原因として、まず不況による法人二税(法人住民税、法人事業税)の減収をあげている。今年度の全都道府県の税収不足は、一兆四千億円にのぼるという推計もある。

 だが、こんなことは誰にもすぐ分かることである。法人二税が景気に左右されやすいのは、もとから分かりきっている。これを今さらわざわざ取り上げて、「財政危機」の理由としているのには、訳がある。そうやって、財政を大企業のためにさんざん使い、「財政危機」を招いた真の原因を覆い隠しているのである。

 各自治体は、建設事業費など投資的経費を増やし、加えて地方債を発行して、大企業のために事業を増大させてきた。これら投資は歴代知事によって綿々と続けられ、借金などのツケは後年度住民に回ってくることになった。

 例えば、東京都では臨海副都心開発は八七年度から十一年間で一兆七千五百億円を使い、今後も開発計画は聖域扱いで、基盤整備費だけでもこれから一兆六千億円を投入する計画だという。さらに、この期間の豪華都庁舎や「国際フォーラム」などの大規模「箱モノ」建設や後年度負担に地方債や基金の取り崩しがあてられてきた。当時の鈴木都政はバブル崩壊後も、臨海副都心開発などへの投資的経費を増加させた。青島知事は就任前「臨海部開発の全面見直し」を公約しながら、それを裏切り、開発の全面再開を決定したのである。

 大阪府も同様である。大阪府の財政危機の原因は、九二年度以降の単独の投資的経費(関西空港関連整備など)の突出した伸びにある。その基本的流れは、規模こそ調整したものの、現在も継続されている。九八年度予算でもすでに破たんした「泉佐野コスモポリス」事業へ二百三十億円の負担、採算の見込みのない国際会議場建設へ百八十九億円、「りんくうタウン」(総事業費約七千四百億円)などの大型事業は引き続き推進するとしている。

 神奈川県でも過去、長洲県政は、MM(みなとみらい)21や湘南国際村に象徴されるように、三井や三菱、東急電鉄などの利益のために巨大プロジェクトを進め、国策としての「業務核都市構想」を推進してきた。九五年からの岡崎県政も、これを基本的に継承・発展させている。九七年度からスタートした「かながわ新総合計画 」は、五年間で総事業費約十二兆四千億円にのぼる。「京浜臨界部再編整備構想」をその重点政策に掲げ、この地域の「サービス経済化」(手塚治虫ワールドや物流基地など)を主張している。その誘導プロジェクトは、「東海道貨物支線貨客併用化」である。実態は、NKKなどが工場を破棄し、「土地利用転換」を進めようとしているが、それを最大限支援する狙いだ。

 県税収入の減少にもかかわらず、長洲県政以来巨大プロジェクトを進めたため、地方債を増発、発行残高は二兆円に迫り、神奈川県財政は一般会計総額(約一兆七千億円)を上回る「サラ金財政」に陥った。

 かように、こんにちの「財政危機」は長年の大企業奉仕の地方政治の結果である。税収減で、その矛盾が露呈したにすぎない。それが突如、税収減で「財政危機」が発生したかのように宣伝するのは、全く住民をあざむくものである。

 もちろん、「景気対策」として、バブル経済崩壊以降、地方単独事業、補助事業をあおった政府の責任も大きい。

 ところで、共産党は「いま求められているのは、国の悪政の防波堤となり、住民の暮らしと福祉を守る自治体本来の姿を取り戻すことです」(赤旗主張)という。ここには、地方財政で誰が最も潤ってきたか、真の受益者に対する何らの批判もない。かれらが最も強調するのは「ゼネコン」である。

 神奈川県の実態を前述したように、三井、三菱など大企業の連中が、膨大な利益を元手に地方政治を牛耳り、県土計画を具体化し、地域全体としてさらに自分たちの利益がより大きく保証される方向に導いているのである。共産党のいうゼネコンはその具体化の一部を受け持っているのにすぎない。共産党の主張は、地域における敵を明確にせず、最大の敵との闘いをそらすことにつながるものである。

相次ぐ住民犠牲の策動

 これを許すな。

 こうした財政状況の「危機感」をあおりながら、大都府県は相ついで住民、職員犠牲のリストラ計画を発表している。大阪府は職員七千人削減、ベア凍結、高齢者医療助成費の削減、府立高校入学金の十倍化などの「財政再建案」を打ち出した。東京都、神奈川県も、組織の再編や職員定数削減、職員給与の削減など、大幅なリストラを計画し、さらに広範な住民に公共料金引き上げ、住民サービスの劣悪化など犠牲の転嫁を狙っている。市町村への援助金削減計画は、県下自治体の財政悪化をもたらすことになる。

 しかも、これらは神奈川、東京の知事が賞与の全額ないし一部返上というパフォーマンス付きで、推進されようとしている。

 こうした攻撃は、要するに住民や県下市町村を犠牲にし、そこで浮いたカネを大企業のための事業費、あるいは大企業のために使った借金(地方債)の返済費にあてようというものである。断じて認めてはならない。

 マスコミは「都議会は党利党略を抜きにして、こうした(都庁)改革案を議論してほしい」(日経社説)と「党利党略抜き」をいうが、地方財政をめぐってこそ階級・階層間のし烈な争いがあり、大企業が牛耳る自治体では、その財政運営に大企業の利益が見事に貫徹されているのである。地方財政に対する考え方を明確にして、われわれは地域で大企業と利益を争わなければならない。

 すでに大阪では、「再建案」に対し見直しを求める意見書が各議会で採択されている。高齢者医療費削減計画に対し、当面三十一自治体が独自に制度の継続を決定した。

 東京都では昨年来、劇場使用料金引き上げに反対して多くの芸術家が抗議行動を起こし、引き上げ幅縮小をかちとった。東京都庁職員労組もこの十月、「都政リストラのさらなる強行に反対し、真に都民本位の施策の民主的な再建の展望をしつつ、職場の団結と広範な都民との共闘を基礎に、闘争を全力をあげて推進していく」と、実力行使も含む闘いを表明している。

 長期の不況下、住民の生活と営業の苦境はどん底にある。これ以上の犠牲を許してはならない。都府県の犠牲転嫁に反対し、区市町村を含め広範な力でこれを押し返さなければならない。


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