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世界的危機のもとでの日米首脳会談

対米追随、大企業優先政治の転換を


 世界の経済危機はアジアから世界を一巡し、いまや「最後の支え」といわれた米国経済にも波及しつつある。そうしたもとで九月二十二日、小渕首相とクリントン米大統領の初の日米首脳会談が行われた。会談は、主に日本の金融再生と景気回復、世界経済の立て直しをめぐって話し合われた。

 そこでは、またもやわが国の経済運営に対するあからさまな圧力が加えられた。これに対し小渕首相は、ただひたすら従うのみであった。

 今回の日米合意にもとづく経済運営では、危機の犠牲を押しつけられている勤労国民にとって、いっそう困難が増大するだけである。

 労働者、中小商工業者などわが国勤労国民の当面する困難を打開するには、小渕政権の経済運営の転換とともに、対米追随の国の進路の転換が切実に求められている。

危機を背景に米国の露骨な干渉

 マスコミは今回の会談を評して、「米側の厳しい姿勢に貫かれたものとなった」(読売)と米国に恐れをなし、「強力な政策を迅速に実行して国際責任を全うしなければならない」(日経)と対米公約実行を騒ぐ始末である。

 今回の首脳会談において、最初から米国側の「布陣」は「異例」だった。会談に、日本側からは外相しか同席しなかったかったにもかかわらず、米国側は国務長官、財務長官・副長官、通商代表部(USTR)代表も同席させて日本側を監視した。

 クリントン大統領は「存続可能な銀行に対して、十分な額の公的資金投入を実施する必要がある」と、破たん前の銀行に対する公的資金投入を迫った。「異例」と称される程、米大統領が日本の税金の使い方まで指図するという露骨な内政干渉である。同時に、「内需主導による成長への刺激のために迅速で効果的な措置が緊要だ」と大幅で、早急な景気対策も要求した。

 こうした米国の強硬な対日圧力の背景には、昨年夏の東アジアから始まった金融・経済危機が、日本、ロシア、中南米まで広がり、さらに米国経済にも波及しようとしている状況がある。とりわけ、米国にとって途上国投資の約六割、輸出の約二割を占める中南米市場の危機は、その影響が大きく、容易ならざる事態である。国際通貨基金(IMF)の支援さえいわれている。

 米国自身、この夏以降、ニューヨーク株式市場は乱高下を繰り返し、製造業を中心に主要企業五百社の営業利益の減益(第三・四半期)予測すら出されている。著名なヘッジファンド(投資信託)であるLTCMの経営危機も象徴的である。そして、米連邦準備理事会(FRB)は九月末、ついに二年八カ月ぶりにフェデラル・ファンド(短期金融)金利の引き下げ、すなわち金融緩和、景気対策に踏み切った。

 こうしたもとで、対日圧力、干渉は強まりこそすれ、弱まることはないであろう。

 これに対し、小渕首相は「金融システム全体の包括的な安定性を揺るがさない」「経済の早期回復のため、さらに今後とも適切な措置を取っていく」と、金融システム問題、景気対策について、大統領に約束を行った。独立国としての自主性もなく、徹底した対米追随をくり返した。

 そもそも小渕首相は、事前に訪米の手土産づくりに必死であった。一つは、訪米直前に金融システム安定化について玉虫色の与野党「合意」を強引にまとめたことである。もう一つは、九月初めの日米蔵相会談において米国の圧力を受け、財政当局が金融緩和を打ち出したことである。つまり日銀による短期市場金利の誘導目標引き下げ(〇・二五%前後へ)である。これほどまでの対米追随ぶりであった。

 だが、われわれは何も米国に日本の経済運営を決めてもらう必要はない。世界的にもロシアやマレーシアのように、米国・国際通貨基金(IMF)の締め付けに公然と逆らう、あるいはそうせざるを得ない動きが出ている。小渕政権の経済運営の転換が必要であり、かつ対米追随の進路の転換は不可分である。その転換を実現することによって、わが国の自主的な経済政策、あるいはアジアなどに対する経済外交の幅が広がるに違いない。

新ガイドライン具体化を公約

 また安全保障問題も、首脳会談の一つのテーマであった。クリントン大統領は「(日米防衛協力の指針問題について)日本側は努力している」と評価。そして、日米関係と安保条約の重要性を両首脳が再確認し合い、これに先立って開かれた外交・防衛担当閣僚による日米安保協議委員会の合意を追認した。

 二十日に開かれた日米安保協議委員会では、一九九六年四月の「日米安保共同宣言」(安保再定義)と九七年九月の「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)の重要性を確認した。そして「(両国は)ガイドラインの実効性を確保するために必要なすべての措置を取る」(共同発表)として、日本側は「ガイドライン関連法案の早期成立」を米国側に約束したものである。

 さらに、小渕首相は「沖縄施設・区域特別行動委員会(SACO)最終報告が十分実施されていないことは遺憾だ。前進を図りたい」と言明、沖縄の米軍海上ヘリポート実現を約束した。沖縄県民などの強固な反対を無視しての対米追随ぶりである。

 また、日米安保協議委員会で注目すべきは、弾道ミサイル防衛(BMD)の共同技術研究に合意したことである。これは、技術研究、開発に長期間を要するとはいえ、米国の世界戦略の一環にいっそう組み込まれ、軍事同盟の強化にほかならない。アジアから、いっそうの反発、批判を招くのは必至である。

 安保再定義によって、わが国は冷戦崩壊後の米国のアジア戦略に明確に組み込まれた。朝鮮半島、台湾海峡、あるいは中東での米軍の戦闘行為に日本は自衛隊だけでなく、民間と自治体も動員される。アジア諸国と敵対する体制をつくりあげるのが、今国会でも継続審議になっている新ガイドライン関連法案である。沖縄県民をはじめ全国の米軍基地撤去の要求、アジアと日本国民大多数の平和への願いを無視し、安全保障問題でも日本政府は対米従属の道を改めようとしていない。

 この危険な方向に反対し、新ガイドライン具体化阻止の国民的運動を早急に盛り上げなければならない。

危機の今こそ、進路の転換が求められている

 アメリカ政府が要求し、また小渕内閣が実行しようとしている金融再生関連法案など金融システム安定化策や七兆円減税、いっそうの市場開放や規制緩和で、日本経済が再生し、勤労国民の生活と営業が保障されるであろうか。金融再生関連法案は衆院を通過したが、その制定経過を見ても明らかなように、支配層は大銀行、大企業救済に必死で、中小零細業者や労働者、農民などの営業・生活の切り捨ては明らかである。

 では、民主党や共産党などの主張する道に展望はあるのか。金融システム問題では、条件付きとはいえ、民主党まで公的資金の投入を是認している。景気対策についても自民党と五十歩百歩である。

 共産党は「安保容認論」を打ち出したように、連合政権にありつくために、もっぱら米国並びに支配層に安心してもらうおうと懸命である。決して、対米従属の転換など本気でめざさない。経済も外交も小手先の「よりまし」的転換ではどうにもならないのである。

 今年度の経済成長率もマイナスという多くの予測が出されるほど、日本経済の危機はいっそう深刻化している。失業も増大する一方である。危機感と怒りが全国各地で高まりつつある。

 倒産、廃業の危機にある中小商工業者も闘いに立ち上がっている。中小企業団体は、貸し渋り反対、融資の拡大、大幅減税などを要求して、九月から十一月にかけて全国三十七都道府県以上であいついで危機突破大会を開いている。これらの闘いを断固支持して、闘いを広げなければならない。

 大銀行・大企業優先、対米追随のわが国の政治・経済の転換が、今こそ求められている。

 党利党略に奔走する国会、政党を頼りにすることはできない。断固たる大衆行動こそ、政治を転換する唯一確かな道である。


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