980915


危険水域に入った世界経済危機

国民犠牲のうえに成り立つ金融再生法案を許すな


 世界資本主義が危機にのたうち回っている。その経済危機は、ますます危険水域に入りつつある。

 米国ニューヨーク株式市場では八月二十七日、株価が三百五十ドルを超える史上三番目の下げ幅を記録し、三十一日には史上二番目の下げ幅で七五三九ドルとなった。中南米各国市場でも株が下落、さらに通貨危機さえ引き起こしている。ついにひざ元の中南米に火がついた米国は、急きょ米、カナダ、中南米蔵相・中央銀行総裁会議を召集して対応策をねったが、打つ手なしの状態である。

 東京市場でも八月二十八日、終値がバブル崩壊後最安値の一万三千九百十五円となり、その四日後の九月一日には、さらに最安値を一時的に更新した。これと前後してアジア、欧州、中南米の各国でも株価が大幅下落し、金融・経済危機は世界に波及している。

 特にわが国は、国内総生産(GDP)が戦後初めて三期連続マイナス(昨年十月〜今年六月)となるなど、いよいよ危機が深刻化している。

 今回の世界同時株安のきっかけは、八月二十七日のロシアの債務返済繰り延べ、ルーブル暴落の金融危機、政治危機からである。米ロ首脳会談は既定方針通り開かれたものの、ロシア経済危機に米国はなす術もなく、世界危機の前に米国の力の限界を露呈した。

 まさに世界資本主義はのたうちまわり、恐慌の瀬戸際にある。

 だが、大銀行に三十兆円を投入して救おうとしているように、支配層は自らは生き延び、この危機の犠牲を勤労国民に転嫁しようとすることは断じて許されない。

脅しかける支配層

 こうした世界的危機を背景に、財界は、金融再生関連法案の早期成立に向けて、小渕政権などにハッパをかけた。経団連は九月七日、「法整備に向け与野党挙げて全力を傾けよ」と緊急声明を発表したのである。

 支配層は、マスコミも最大限動員し、「世界恐慌回避に野党も協調せよ」(読売・社説)「金融危機を政争の具にするな」(日経・社説)といった具合に、「挙国一致」へ向けた雰囲気づくりに必死である。

 だがわれわれは、だまされるわけにはいかない。

 現在、日本長期信用銀行へ公的資金投入が問題になっている。すでに長銀にはこの三月、千七百億円余が投入されている。いわれているのは、長銀の破たんを防ぐためには五千億〜一兆円の資金投入がさらに必要だという。まさに、大銀行には至れり尽くせりである。

 しかも、金融再生関連法案の中心であるブリッジバンク制度とは、いわば「経営不健全」銀行の合併促進法ないしは破産(清算)促進法である。従って、それを避けようとする銀行は、資本充実を図るため、貸し渋りや貸付金の回収を行うことになる。

 宮沢蔵相さえ「金融機関は自己防衛的になっている。(三月の公的資金注入で銀行の)資本率が増えれば貸し出し能力が増すはずだと(政府は)言ってきたが、そうはならなかった。期待された影響は今日まで見られない」(衆院特別委)と、認めている。これが、中小企業への貸し渋りの横行、中小倒産、苦境の大きな要因となっている。

 さらに許せないのは、この「合併」「破産」の過程で、銀行の強化や不良債権処理に三十兆円の公的資金=税金が使われることである。まさに銀行救済費であり、あるいは合併・再編費である。これは、戦後「護送船団方式」などといわれ、銀行が歴代自民党政府によって手厚く保護されてきたものの形を変えたものにすぎない。すでにこの三月、大手十八行を含む二十一行は、一兆八千億円の公的資金の恩恵を受けている。

 他方、中小企業の実情はどうか。例えば東京・江戸川区は、八月下旬、この不況の中では二十三区として初めて中小企業向けに区予算から五十億円直接融資する方針を決めた。無担保、無保証で、一件五百万円の貸し出し限度で、約千社を対象にするという。銀行救済の三十兆円ならば、一件五百万円として中小企業約六百万社が救われる計算になる。何という格差か。

 東京商工会議所は四日、都や東京信用保証協会、都信用金庫協会などの中小金融機関団体、国民金融公庫などの政府系金融機関と懇談会を開いた。貸し渋りの解消など中小企業金融の円滑化に向けての意見交換、連携が目的である。とにかく、中小への資金繰りに必死である。これに比べて、大銀行などに対する手厚い保護ぶりはいかばかりか。

 財界は、近年諸分野に対して規制緩和、市場原理を盛んに強要している。しかし、こと金融システム問題では完全に国家保護であり、かれらの強調する「市場原理」に反するものである。かれらは自らの利益になるものには、見境いない。

 そのうえ、今後の状況次第では公的資金は際限なく投入され、資金枠は三十兆円よりさらに拡大する恐れさえある。いずれにせよ、最終的には国民の血税による負担となる。

 一部の大銀行のために、中小企業などに犠牲を転嫁し、国民負担をいっそう増大させる金融再生関連法案は断じて認めるわけにはいかない。

 注目すべきは、これら政策が米国の監視、圧力のもとでなされていることである。九月初めの日米蔵相会談で、ルービン財務長官はわが国の経済運営について、公的資金の拡大を含め金融、財政措置のよりいっそうの「量、質、スピード」を要求した。ここにきて中南米の金融危機の拡大で足元に火がついた米国は、自国経済防衛のため対日圧力をいちだんと強めている。

 これを受けて、日銀は九日、短期金利の誘導目標を最低に設定した。つまり、金融緩和に踏み切ったのである。まさに、一国の経済運営が米国に左右されるという対米追随の典型のようなものである。こうした対米追随の転換なしに、わが国の危機の打開もまたできない。

妥協重ねあてにならない野党

 国会では、長銀への公的資金投入について、民主党など野党は当初反対していたものの、結局ほとんどの野党は容認に傾いた。支配層の「これほどの金融危機に政争している場合ではない」という攻撃に屈したのであろう。野党は、金融再生関連法案の対案を提出したものの、その内容も結局は公的資金投入を容認しており、またどこで自民党と妥協する

か、決して幻想を抱くわけにはいかない。

 これに対し、ゼンセン同盟の高木会長は定期大会で「なぜ長銀に公的資金の投入が必要なのか。ゼンセン同盟の中には、長銀の破たんで多大な影響を受ける所もあるが、国民に納得のいく説明はない。原理・原則を外れ筋の通らない対応をすれば、国民の不信は妥協に応じた野党にも向けられる」と、現時点では反対の考えを表明し、妥協的な野党を批判した(九月九日)。まさに筋の通った見解である。

 前述のように、中小企業は大銀行のように何千億円どころか、五百万円の融資さえ死活問題なのである。本紙が紹介しているように、ますます増大する失業者は「なぜ銀行ばかり救い、普通の会社や、労働者を救わないのか」と怒りの声を上げている。

 こういう危機の時こそ、中小企業や労働者にこそ、支援すべきである。大銀行への三十兆円の税金投入をやめ、中小零細企業の救済に回すべきである。銀行は貸し渋り、強制回収を即刻やめなければならない。政府系金融機関、自治体は融資枠を、中小企業が救われる水準まで拡大する必要がある。

 営業と生活の死活がかかっている中小商工業者、労働者は今こそ怒りの声を上げ、小渕政権に国民生活危機突破のための要求を突きつけよう。

 国会の野党はあてにならないことが、次第に明確になっている。各界の自らの大衆行動こそが、要求実現の最も確かな保証である。労働者階級はその先頭で闘おう。


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