980825 社説


惰性の対米追随−小渕政権

そこからの脱却にこそ、わが国の進路は開ける


 小渕政権が発足してひと月近くになる。臨時国会では、金融システム安定化法案など「経済の立て直し」が焦点となり、議論が展開されている。

 外交・安全保障問題では、惰性ともいうべき対米追随ぶりが鮮明である。今秋には、日米(九月)、日韓(十月)、日ロ(十一月)と首脳会談が目白押しとなっている。本来なら、日中首脳会談は九月初旬に予定されていたが、中国側の「水害対策」で延期された。いずれにせよ、小渕政権の外交姿勢では、何ら自主性なく米国の世界戦略に沿って走狗(そうく)として動くだけである。

 激動するアジアの平和と発展に積極的に貢献することなど、とうてい望むべくもない。わが国に自主性がなく、いっそう「国際社会で小さな存在」になりつつあることを憂える世論は強まりつつある。こうした国の進路を、はっきりと転換させなければならない。

世論に逆行 米国の「核の傘」を堅持

 この夏、特にその姿勢を象徴的に露呈したのが、核兵器廃絶問題をめぐってであった。小渕政権と核廃絶を真剣に求める国民との矛盾は、顕著になった。

 小渕首相は、就任後初めての所信表明演説で「核不拡散体制の堅持・強化、核軍縮の促進など、世界に向けイニシアチブを発揮する」と強調。また広島、長崎の原爆忌に出席した際、インド、パキスタン両国を非難し、両国に核拡散防止条約(NPT)締結などを要求するとともに、「核不拡散体制の堅持・強化」などを強調するあいさつを行った。

 しかし、同じ祈念式典で伊藤・長崎市長は、平和宣言で印パ両国よりも、むしろ核軍縮を怠ってきた米ロなど核保有五カ国の姿勢を厳しく非難、「核兵器全面禁止条約」の早期締結に向け直ちに交渉を始めるよう訴えた。同時に、政府に対し「(米国の)『核の傘』に頼らない真の安全保障」を追求するよう迫ったのである。

 平岡・広島市長も、印パ核実験を批判するとともに、核保有五カ国の責任に言及して「各国は核兵器使用禁止条約の締結交渉を直ちに開始すべきだ」と訴えた。すでに平岡市長は、昨年の平和宣言で「核の傘」脱却を求めている。

 このように、小渕政権は世論に真っ向から対立したのである。

 すでに五月の印パ核実験の際、特徴的だったのは、被爆者団体、反核団体の指導者から、印パに対する非難もさることながら、むしろ核独占五大国に対する責任追及、五大国の核廃絶要求の声がいっきに高まったことである。印パ核実験が、現在の核独占体制の矛盾をあばき出し、世界における核脅威の根源、米国など核保有五大国へのほこ先を明確にした主張を生み出したのである。

 野中官房長官が「五カ国以外の核保有を禁じる核拡散防止条約(NPT)体制を続けているのは、核のない世界を作っていくうえでやや問題だ」と述べたように、政府部内からさえ批判の声が上がっている。

 さらに許せないのは、高まる世論を気にしてか、小渕政権がぎまん的な核軍縮キャンペーンをもくろんでいることである。政府は、国際フォーラム「核不拡散・核軍縮に関する緊急行動会議」を今月末発足させ、世界の核軍縮を促進するという。これに参加する主なメンバーは、明石康・元国連事務次長、ジョセフ・ナイ元米国防次官などである。米国の核戦力を中心とした「東アジア戦略報告」(九五年)をつくったナイなどを中心メンバーにして、どんな核軍縮「提言」を出せるというのか。人だましのフォーラム以外の何物でもない。

 わが国が対米追随である限り、米国の「核の傘」から脱却できず、また世界で核廃絶を促進することなど、とうていできない。こうした進路の転換が求められている。

際立つ対米追随ぶり

 こうした小渕政権の姿勢は、相変わらず米国追従ぶりにある。小渕首相は、「日米関係は、引き続きわが国外交の基軸」「安全保障、経済等広範な分野で良好で強固な関係を築く」とし、両国関係の維持を最優先させると所信を表明した。

 さらに、新たな日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)関連法案の成立と、沖縄・普天間基地の代替地問題の解決を、重要課題として位置づけた。

 小渕政権はその具体化にさっそく動き出した。小渕首相(当時は外相)は七月、自民党総裁に選出された直後、急拠マニラでの東南アジア拡大外相会議に臨み、オルブライト米国務長官と会談。そこで、国務長官に新ガイドライン関連法、沖縄米軍基地問題、また日本経済再建策の実行について、厳しくクギを刺されたのである。

 九月下旬には日米首脳会談が予定されているだけでなく、新ガイドライン具体化(法整備など)について、2+2(外交・防衛閣僚会談)も周到に設定されている。

 そればかりではない。新ガイドライン体制は、既成事実として着々と進んでいる。米空母キティホークは横須賀を母港として入港、今後小樽などへ新ガイドラインの地ならしとして寄港するという。日米合同軍事演習も相次いで予定されている。

 わが国外交全般でも、米国の世界戦略の枠組みを出るものではない。今秋予定されている日ロ首脳会談(あるいは日中会談もあり得る)、対アジア外交とてそれ以外ではない。

 日中関係でも、引き続き台湾問題が争点となる。わが国は一昨年の日米安保共同宣言によって、台湾紛争では明確に米国の側に立ち、米軍出動の際には米軍支援を約束させられた。この枠組みを脱却しない限り、わが国は東アジアにおける米戦略に縛りつけられ、中国敵視の立場に置かれている。

 今日の深刻な経済危機でも、わが国は米国の監視下に置かれ、米国はわが国を「属国」扱いしている。これでは、わが国の経済危機の打開はあり得ず、そこから対米不満、アジアにおける「円圏形成」「アジア独自の決済機構」などの声が国内外から急速に広がっている。経済危機打開の問題でも、対米追随の転換が求められている。

広がる進路転換を求める声

 わが国の進路の転換を求める声は、各方面でますます根強くなっている。

 安保・外交問題をめぐって、印パ核実験を契機とした核廃絶世論の前進、全国でも米艦船寄港地や日米共同訓練に反対する闘いが闘われている。米空母キティホーク横須賀母港化反対には三千人余が結集、沖縄の基地撤去の闘いは、粘り強く闘われている。日中、日朝関係を含めアジア外交の大きな転換も要求されている。

 今日の深刻な経済危機の打開をめぐっても、対米追随でいる限り打開できないと、その脱却を求める声が広がっている。

 要するに、安保・外交にせよ、経済危機問題にせよ、最大のネックは対米追随である。これからの脱却を求める声が、各方面から広く起こっている。「アジアの海は広い」、わが国はもっと広く日本の「友」をアジアに求めなければならない。

 だが問題は、議会内野党の間で、対米問題での明確な主張、もう一つのわが国の進路を提起する論戦が、皆無なことである。

 体制内化をすすめる共産党は、日米安保問題をタナ上げにし、政権参加をめざす姿勢を鮮明にした。共産党の不破委員長は衆院代表質問でも、「核廃絶交渉の国連決議案」「ガイドラインの範囲から台湾とその周辺を外せ」と政府に要求するだけで、わが国の進路を誤らせる元凶―対米追随の転換にはひとことも言及しない。志位書記局長に至っては、「米国の金融行政の到達点に学べ」と、米国を天まで持ち上げる始末である。これでは、わが国の進路の転換、困難の打開は不可能である。

 対米追随外交を転換させる国民的世論を築き、政府に実現を求めよう。その条件は今日ますます大きくなっている。


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