980805 社説


国民総犠牲を強める小渕新政権

行動に立ち上がり、要求を実現する好機


 小渕政権が七月三十日、危機の真っただ中で発足した。先の参院選結果を反映して、参院では民主党の菅直人代表が首相に指名され、自民党の小渕恵三総裁はかろうじて衆院で首相に指名された。衆院、参院が異なった首相を指名したのは、今後の政局、自民党支配の不安定さを象徴するものであろう。

 小渕新政権は「経済再生内閣」をうたい文句に登場したが、金融システム安定化、減税、景気対策などの施策を打ち出し、対米追随、多国籍大企業のための政治、国民総犠牲の政治を強行しようとしている。

 だが、先の参院選に示されたような国民の強い政治不信、議会運営の困難さ、政局の不安定化など、新政権の策動が成功する保証はどこにもない。

 情勢は、支配層にきわめて不利で、闘うものにきわめて有利である。断固として闘い、前進する好機である。

「経済再生策」は国民総犠牲の「鬼手」

 小渕首相は、先に自民党総裁選に当たり「鬼手仏心をもって大改革に臨む」(鬼手―大胆な手だて)と政権担当に向けた決意を述べた。組閣後は「経済再生内閣」などと自称し、金融システム安定化策(不良債権処理)、景気対策(六兆円超の恒久減税、十兆円の補正予算など)を最優先課題として打ち出した。

 新政権が掲げるこれらの施策は、何よりも国際的大競争に生き残ろうとするわが国多国籍大企業の要求にこたえようとするものである。経団連は新政権誕生に当たり「新内閣に望む」と題して、金融システム安定化関連法案の早期成立が最優先課題だとの緊急提言を行った。財界は「もはや問題の先送りは許されない」(根本・日経連会長)と焦るとともに、小渕新政権にハッパをかけている。

 だが、最優先課題とされた金融システム安定化策は国民に何をもたらすか。

 これは、ブリッジバンク(つなぎ銀行)制度導入による不良債権処理などが柱である。これが進めば、各銀行とも「国家管理」という事態回避のため、貸付金回収、貸し渋りを強め、資産の「健全化」をめざすことになろう。その結果、現在でさえ苦しい中小商工業の資金繰りをさらに困難にし、倒産・廃業に拍車をかけることになる。

 結局、弱小銀行をつぶし、税金(公的資金)投入で巨大銀行への再編を促す。「健全な借り手保護」という名目で、バブルに狂ったゼネコン、不動産業などへの貸し付けは救済されるのである。こうして、金融システム安定化策は、結局のところ、一部の巨大銀行などを支援し、他方で膨大な中小商工業とそこで働く労働者の無慈悲な切り捨てをもたらすのである。

 また、新政権は所得課税、法人課税で六兆円超の減税を提起している。「恒久減税」といえば聞こえはよいが、実態は今のところ、金持ち優遇の減税方向である。つまり、最高税率の引き下げ(総裁選での公約)であり、それは年収三千五百六十五万二千円以上の者の最高税率を引き下げようということである。これが金持ち減税でなくて何なのか。およそ年収何百万円かの勤労国民の生活とは無縁である。「中堅所得層にも手厚い」減税ともいうが、それは世論対策の付け足し減税にすぎない。結局のところ、最大の恩恵をこうむるのは、一握りの金持ちだけである。

 そのうえ、大企業に有利な法人税率の引き下げももくろんでいる。

 「十兆円公共投資」にしても、財界などは「都市型公共投資」「ハイテク・情報産業」へ投資せよと騒いでいる。大企業向けの景気対策であるとともに、自民党が参院選の大都市圏で全滅したことを踏まえての露骨な選挙対策でもある。

 以上のように、新政権が画策しているのは、まさに多国籍大企業、金持ち優遇の経済運営であり、貧富の格差は拡大し、大多数の勤労国民にはいっそうの犠牲が強いられる。

 見逃せないのは、これら施策すべては米国の横暴な対日圧力のもとで決定されていることである。米国はクリントン大統領などが早くから要求してきた。小渕首相(当時は外相)は七月二十六日、マニラでオルブライト米国務長官と会談し、金融システム安定化、恒久減税、景気対策の各項目をあげて、その実施を具体的に迫られた。自国の経済運営を、自国で決められないのが、新政権の実態である。

 新政権の経済運営がうまくいかなければ、再び米国からの対日圧力は強まり、日米間の矛盾は激化しよう。

 だが、こうした施策でも、景気が上向くという保証は全くない。すでにほとんどのシンクタンクは、九八年度成長率を昨年度に続いてマイナスと予想し、新任の堺屋経済企画庁長官ですらマイナス○・五%との予測を打ち出す始末である。

 まさに新政権の前途は暗たんたるものである。

 新政権が狙うもう一つの大きな課題は、外交・安全保障の課題である。九六年の安保共同宣言の具体化、日米防衛協力指針(新ガイドライン)関連の国内体制(法)整備である。

 小渕首相は首相就任早々、「日米同盟関係は、日本外交の基軸」と、クリントン大統領に誓約(電話会談)。と同時に、先の外相会談でオルブライト国務長官から新ガイドライン関連法制整備、沖縄普天間基地問題の解決について、クギをさされた。額賀防衛庁長官は、早くも関連法案を今臨時国会で成立させたいと発言している。

 これらの課題で新政権の対米従属の方向は明白であるが、しかし、沖縄県民の闘い、新ガイドラインで協力を強いられる自治体の抵抗、地域住民の闘いなど、国民の闘いは根強く闘われている。

あてにならない野党 自らの大衆行動を

 どの世論調査を見ても、宇野政権(八九年)に次ぐ最低の支持率の中で、新政権は発足した。経済危機を背景に、国民の不信がそれほど根深いのである。にもかかわらず、新政権は大銀行・大企業を優遇し、勤労国民に犠牲を強要するいっそう露骨な階級政策をとらざるを得ないのである。支配層は「短期決戦の不況脱出こそ内閣の使命」(日経)と焦っている。

 その結果は何をもたらすか。勤労国民との矛盾の激化である。それに、参議院で自民党が過半数を割ったように、議会運営は容易ではない。早くも金融安定関連法案でも野党との妥協策が提示された。景気上昇も当分望めない。米国からのあの手この手の対日圧力もいっそう強まろう。まさに新政権は「わが身は明日なき立場」(小渕)である。

 かように、状況は支配層にきわめて不利で、闘う側にとって有利である。生活・営業の危機にある労働者、中小商工業者、農民などは、闘いに立ち上がり、自らの要求を実現する好機である。

 経済運営にせよ、外交問題にせよ、議会野党は自民党と基本的に対立するものではなく、国民の生活危機を打開するうえで全くあてにならない。

 特に、共産党は支配層のこの危機的事態を「左」から救う役割を果たそうと必死になっている。かれらは最近、自民党政治に比べ「よりまし政権」をつくろうと、「政権共闘」を再三呼びかけた(共産党創立記念講演会など)。共産党も含めて野党は自民党と政策的に根本的に対決しているわけではない。支配層もまた、「リーダーシップある政治」といってさまざま画策している。わが国の危機は、米国とわが国大企業の利益にまるで手も触れずに、打開することはできない。誰の負担と犠牲でこの危機を乗り切るか、これこそ根本にある問題である。この問題を、自民党より「よりまし政権」であるといって、幻想で覆い隠す共産党は、客観的には労働者、国民の要求をねじ曲げ、断固たる闘いを抑え込むものである。

 小渕新政権の国民総犠牲の政治方向は、早くも暴露されつつある。しかも、われわれはきわめて不安定な政治状況にあることを見抜き、労働者、国民はこの危機の押し付けと闘い、うち破ろう。

 労働者、勤労国民の切迫した要求実現のためには、何よりも大衆行動に立ち上がることこそがカギである。


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