980805 松本恵一


解説

小渕新政権が発足したが…

ますます深まる経済危機


 小渕新政権が発足した。「経済再生内閣」などと称しているが、危機は容易に解決できないほどに深刻である。「バブル崩壊」を契機とする長期不況は、いっこうに出口が見えない。多額の不良債権を抱える金融機関の破たんは、今後もやみそうにない。現在の日本はデフレスパイラル(所得・物価の下落↓生産の縮小↓所得・物価の下落という景気下降の悪循環)に入ったといわれ、アジア経済危機は、この危機を加速させている。まさに、「日本発の世界恐慌」につながりかねない情勢である。多国籍化した大企業優遇の政治では国民生活は豊かにならず、真の経済回復もあり得ない。小渕政権を追いつめている、最近の経済危機の特徴について述べる。


(1)不況がいちだんと深刻に

 昨九七年度、国内総生産(GDP)は、二十三年ぶりに〇・七%減を記録した。

 GDPの約六五%を占める個人消費が一・二%減となったことが響き、国内需要(内需)は二・二%減となった。それでもGDPが〇・七%減にとどまったのは、円安による輸出増で国外需要(外需)が一・五%伸びたことによる。

 こうした不況は、年度末においても、悪化の一途をたどっている。

 とくに九八年一〜三月期のGDP成長率は、前期比一・三%減(年率換算で五・三%減)を記録した。内需は、民間企業の設備投資が前期比五・一%減と、三・四半期ぶりに減少に転じ、公共事業などの公的固定資本形成も前期比一・九%減と、官民ともに冷え込んだ。

 外需も、輸出が半導体などの減少で前期比三・八%減となったのをはじめ、輸入も原油、木材などが減少し、前期比一・四%減となった。

 このように、民間設備投資の大幅減や外需の減少など、経済をいくらか支えていた要因も崩れたのである。

 この全般的な景気後退は、九八年四月以降さらに悪化の傾向を示している。

 鉱工業生産は、五月には前年同月比で一一・二%減少、九五年を一〇〇とする指数では、九一・五に縮小した。

 景気の先行指標ともいわれる設備投資も急減しており、機械受注は九七年度は通年で三・九%減が、五月には二八・六%減となった。建設工事受注も、九七年の八・九%減から、五月には二七・五%減に落ち込みを見せている。

 企業倒産も増加した。九八年度上半期の倒産件数は前年同月比二八・〇%増加し、一万百六十二件と十四年ぶりに一万件台を突破した。とくに六月は千七百三十六件で、負債総額は前年同月比二四三・九%増加した。

 不良債権の処理を急ぐ銀行は資金の回収を急いでおり、深刻な「貸し渋り」と強制回収が中小零細企業の資金繰りを直撃している。

 労働者の生活は困難さを増している。

 完全失業者は六月に二百八十四万人に達し、完全失業率は最悪を更新し四・三%となった。労働力のパート化もさらに進んだ。実質賃金が低下し、九七年度の五人以上事業所の平均実質賃金は一・二%低下した。五人以上事業所の名目賃金は、九八年一月以降、三月を除いて、連続して前年同月を下回っている。五月は前年同月比〇・七%減となった。

(2)デフレスパイラルとされる事情

 これらの経済状況について、単なる不況ではなく「デフレスパイラルに入りつつある」という見解が目立っている。

 デフレスパイラルとは、二九年の世界大恐慌にみられた、景気下降の悪循環である。

 いくつかの指標が、それを示している。

卸売物価の下落

 卸売物価は、九八年二月から、六月を除いて前年同月比でマイナスが続いている。

消費低迷

 賃金低迷を背景に、勤労者世帯の消費は、九七年一一月以降、九八年五月を除き、連続して前年同月を下回っている。

売り上げ・利益の減少、投資急減

 大蔵省法人企業統計調査(九八年一〜三月)によると、金融・保険業を除く資本金一千万円以上の営利法人の経常利益は七兆七千五百三十九億円で、対前年同期比で二五・四%減となった。

 階層別では、資本金十億円以上では対前年同期比二二・〇%減、資本金一千万円以上一億円未満は二九・〇%減と、中小企業ほど利益が減少していることがわかる。

 設備投資額は十四兆三百十四億円で、対前年同期比五・八%減となり、ここでも資本金十億円以上の階層が〇・九%減であるに対して、資本金一千万円以上一億円未満では二一・四%の急減となった。

企業の経営見通しも深刻

 九八年六月の日銀短観によると、製品需給判断では、「需要超」であるとする企業から「供給超」であるとする企業を引くと、三月のマイナス四二から六月にはマイナス四八と悪化し、企業が生産過剰感をもっていることが明らかになる。

 九八年度の設備投資計画では、主要企業製造業が対前年比二・六%減、中小企業製造業が二一・七%減と、引き続き投資を抑制する計画である。

 雇用人員判断においても、「過剰」であるとする企業から「不足」であるとする企業を引くと、主要企業製造業で三月二一ポイントが六月は二八ポイント、中小企業製造業では同一四ポイントが二五ポイントと、いずれも悪化し、企業は人員が「過剰」であるとの見方を崩していない。

 以上のように、デフレスパイラルといわれるのには根拠がある、深刻な状況となっている。

 以前のように、円安によって輸出ドライブをかけ、海外市場に活路を求めるやり方は許されなくなっており、昨年来のアジア経済危機も、その出口をせばめている。

 日銀も七月の「金融経済月報」において、ついに「最終需要の低迷を背景として、大幅な減産が行われる下で、雇用・所得環境が悪化を続けており、企業マインドは一段と後退している。このように、わが国の経済情勢は全般に悪化している」と認めざるを得なくなっている。

(3)闘いこそ危機打開の活路

 これら出口なき危機は、八五年以降支配層が進めてきた「国際化」という産業構造調整政策の結果でもある。

 八五年のプラザ合意、それに続く「前川レポート」により、わが国は産業構造調整を進めるなど、内外政治の「改革」を迫られた。これに続く冷戦崩壊も含む新しい国際関係の下、わが国大企業が国際的競争に打ち勝つための効率的な経済体制づくりである。

 リストラによる労働者の切り捨てやパート化、生産拠点の海外移転による国内の失業増、コメ輸入自由化や大規模小売店舗法(大店法)の改悪・廃止に代表される各種の規制緩和などは、こうして起こった。

 これらが、賃金や物価の低下、中小商工業者の倒産・廃業、失業増をもたらし、デフレスパイラルといわれる今日の危機の根底にある。そして、支配層は「改革」を進める方向性を変えていない。

 一方、昨年来のアジア経済は、帝国主義と民族ブルジョアジーの矛盾、階級矛盾を激化させ、インドネシアの政変に代表されるように政治も不安定となり、引き続き危機を深めている。

 また、九九年のユーロの発足により、ドル中心の世界的な資金の流れが変わり始めるなど、バブル化した米国経済の動揺を誘いかねない状況も発展している。通貨・株価・債券の「トリプル安」にみまわれたロシア経済も、波乱含みである。

 実体経済よりもはるかに巨大となった世界的な金融・通貨の問題もあり、日本から破局が始まるか、あるいはアジアから日本、世界へと広がるか、世界的な経済破局の芽はいくつもあり、しかも急速に大きくなっているのである。

 支配層も、国際的大競争に生き残るため、国民各層に犠牲を転嫁することに必死になるであろう。それは、必ずや国民の反撃を受ける。幅広い人びとが連携し、要求を掲げ、闘いを発展させることが重要である。


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