980725 社説


状況は有利、自らの要求のため断固闘おう

中小企業、労働者を犠牲にする「金融再生案」


 先の参議院選挙で、自民党は生活危機に苦しむ国民各層から厳しい審判を下されて惨敗し、橋本首相は辞任に追い込まれた。間もなく新内閣が発足するにせよ、支配層は、政治がますます不安定になる困難な状況下で、経済危機への対処を迫られる。

 財界と米国は、新政権が「有効な」不良債権処理(金融システム再生)策と大型減税を実施するよう、盛んに迫っている。これは、不況に苦しむ国民各層にいっそうの犠牲を強い、貧富の格差をさらに拡大するものでしかない。

 他方、国民各層の生活危機はいっそう深刻化し、打開を求める声は日に日に高まっている。

 不安定化した政治のもとで、支配層と国民各層との矛盾は激化し、支配層の危機はいちだんと深まるであろう。生活危機を突破し自らの要求を実現するには、国民各層の共同した闘いこそが、唯一の道である。

国民犠牲に拍車をかけるブリッジバンク案

 近く予定されている臨時国会は、何も勤労国民の生活危機を打開する課題が焦点となるわけではない。

 国の経済運営では、自民党は引き続き勤労国民を犠牲にし、大銀行、大企業のための政策をとろうとしていることが明らかになっている。彼らは、臨時国会では不良債権処理策などを最重要課題と位置付けているのである。

 政府・自民党は参議院選挙のさなかに、米国のブリッジバンク(つなぎ銀行)をまね、急ごしらえで「金融再生トータルプラン」を決定した。その関連法案が臨時国会に提出される。この問題で、自民党総裁選における諸提案もこの「プラン」がベースである。

 ブリッジバンク制度とは、こうである。破たんした金融機関は国の管理下におき、最初は「金融管理人」、次はブリッジバンクが「善良な借り手」への融資を継続するとともに、引き取り手の金融機関を探す。原則二年以内に引き取り手がない場合は清算する。融資の原資やこげつきの穴埋めなどに、すでに決めた三十兆円の公的資金の一部を投入する。

 だが、そもそも「善良な借り手」や「破たん銀行」はどう決めるのか。これらの認定、運用は、金融監督庁や借り手のさじ加減でどうにでもなるものである。例えば、昨年破たんした北海道拓殖銀行など、多額の債務超過が破たん後かなりたってから発覚した例もある。したがって、税金投入で大銀行を救済したり、バブルに踊り膨大な不良債務を抱える大手ゼネコンや不動産会社などに融資を継続し、それらを救済するものだといわれるのも当然である。もちろん、こんな救済は許されるものではない。

 より問題なのは、こうしたブリッジバンク制度が導入されれば、中小企業経営と労働者に深刻な影響が出ることである。すでに金融機関による中小企業への貸し渋り、融資の強制的な回収は全国で重大な問題となっている。しかも、中小企業向け融資は景況次第で「健全債権」から「要注意債権」に変わりやすいという。そうすると金融機関が回収をより急ぐことになる。

 同制度によって「破たんを避けようとする金融機関の融資回収がこれを機に激しくなる」(東京・中小経営者)というように、中小企業の間では、資金調達が一段と難しくなるとの懸念が広がっている。

 ブリッジバンク導入の動きに対し、東京商工会議所は中小企業への融資収縮が進むと見て、今月、都内の信用金庫と初めての金融懇談会を開く。まさに、中小企業は資金面でも大変な事態に直面している。

 要するに、政府・自民党の不良債権処理策は、体力のない銀行を淘汰(とうた)し、吸収・合併を促進して巨大銀行に再編することである。その過程で、中小企業はつぶされ、労働者は首を切られる。中小企業や労働者の犠牲の上に、金融システムを安定化させようというのが、「金融再生トータルプラン」なるものである。こんな事態は断じて許されない。

 しかも注目すべきは、政府・自民党の不良債権処理策は、米国の度重なる圧力に屈し、その指揮と監視のもとにつくられたものだということである。

 六月中旬の円安防止の日米協調介入をカタ(担保)に、サマーズ米財務副長官らは、不良債権処理策と恒久減税の実施を迫った。政府・自民党は、オルブライト米国務長官の訪日に間に合うよう、急きょ参院選の最中に「トータルプラン」を決定したのである。米国は、自民党次期総裁(首相)選びの過程でも、さまざまな発言を行うなど、露骨な内政干渉を繰り返している。

危機打開の方向は

 国民生活はどうか。

 完全失業率は四・一%と最悪の記録を更新したが、さらに悪化すると予想されている。特に、世帯主の失業が増え、就業者も正社員が減りパートが増加している。

 倒産件数は、本年上半期で十四年ぶりに一万件を突破した。ほとんどの民間調査機関は、十六兆円の総合経済対策をおりこんだ上でも、九八年度もマイナス成長になると予測している。不況はますます深刻になる。

 不良債権処理策は、体力のない金融機関を破たんに追い込み、この不況をさらに深刻にする劇薬である。倒産、首切りを増大させ、中小企業や労働者にいっそうの犠牲を強いる。労働者の所得の減少は消費をいちだんと落ち込ませ、生産を縮小させる。

 政府・自民党が不況対策としてもくろむ来年一月からの恒久減税も、一部の金持ちや大企業をうるおすだけで、消費拡大にはつながらず、デフレスパイラル(デフレ連鎖)に歯止めをかけるものとはならないであろう。

 現在、わが国の経済運営、危機の打開をめぐる二つの道が問われる。勤労国民の所得の大幅拡大による内需拡大、生活水準向上を実現する国内経済政策とアジア諸国の経済発展と結びつけた「共生」の対外経済政策こそ、真の打開の方向である。

 わが党は六月十二日、こうした方向で、国民諸階層の切実な要求を支持し、諸悪の根源―対米追随で多国籍大企業優先政治の転換を求める「緊急要求スローガン」を発表した。

 「消費税の即刻廃止、大幅賃上げ」「三十兆円の公的資金は中小企業救済に」「失業者にただちに仕事を」など、勤労諸階層の生活支援、大幅な所得の拡大こそが、内需を呼び起こし、消費を拡大させ、生産の拡大に進む、経済危機打開の基本的条件であること。

 そのためにも、大企業が持つ膨大な対外資産を、外国ではなく日本で使い、国民経済の発展、国民生活救済に投じるべきである。また「基金」を作り、アジア諸国に資金が回るように支援すべきであるという提起である。

自民党政治を許さず、さらに前進を

 政府・自民党の不良債権処理策や恒久減税も、政策的に自民党と基本的に変わらぬ野党各党のそれも、中小企業や労働者に塗炭の苦しみをあじわわせるだけで、事態を打開することにはならない。特に共産党は、税金投入に反対するだけで、「資本主義の枠内」で解決できるかのようにあいまいにして、支配層との根本的対決を避けている。

 現在の状況では、続くのは多国籍大企業のための、また対米従属の自民党政治であり、その延長である。何ら期待はできない。

 だが、多くの有権者が先の参院選で自民党政治に怒りの鉄槌(てっつい)を下し、新たな局面が生まれた。政局は不安定化し、支配層は従来通りには進められない。

 状況全体は闘う側にいちだんと有利である。労働者も中小企業家も、身に降りかかる困難を打開しようとすれば、闘わざるを得ないし、現実に闘いが始まっている。

 共同した闘いこそが、支配層をいっそう窮地に追い込み、事態を打開する唯一の道である。労働者は中小企業家をはじめ国民各層と共同して闘おう。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997,1998