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政治はますます不安定に、支配層の危機はいちだんと深まった

――参院選の結果について

1998年7月13日

日本労働党中央委員会政治局


(1)

 七月十二日、投開票された参議院選挙で、自民党は惨敗、橋本首相は辞任に追い込まれた。政局はいちだんと不安定化した。

 経済危機はますます深刻化するが、不安定化した政治は、危機への対応能力をいちだんと失う。支配層は、ますます窮地に追い込まれた。

 状況の全体は、財界支配層に不利で、政府の悪政と闘う側にいちだんと有利である。

(2)

 「日本発の世界恐慌」さえ懸念される戦後最大の経済危機が深まるもとでの国政選挙で、国民各層が自民党政治にどんな審判を下すか、注目されていた。

 議席数で見る結果は、自民党が四十四議席(改選議席六十)と激減させ、惨敗した。直前まで自民党と連立を組んでいた社民党は、わずか五議席(同十二)と大敗、さきがけは議席を獲得できなかった。野党ではあるが、自民党との距離をあいまいにさせてきた公明も九議席(同十一)とふるわなかった。悪政に怒る国民の意思は、ある程度議席数にも示された。少なくとも橋本自民党政権とその悪政は、明確に拒否された。自民党政権への批判票を、民主党二十七議席(同十八)、共産党十五議席(同六)の両党が引きつけ躍進した。自由党も五議席から六議席へと増やした。

 こうして自民党は、参議院だけとはいえ過半数を失い、議会運営は困難さを増した。

 得票数・率、また、投票率などからも、国民の意識状況をある程度は読みとることができる。投票率は前回比一四ポイント増の五八・八%で、投票総数は五千六百十三万七千二十三票となった。だが、自民党はそのわずか二五%、千四百十二万余票(比例)を獲得したに過ぎない。議会制民主主義の危機ということで投票率引き上げをねらった選挙法改正と異常な「投票へ行こう」キャンペーンもあったが、前回に比べて千五百万人も多い有権者が自民党政治反対の意思表示のチャンスとして投票に向かった。それでも四〇%強、約四千万人の有権者は棄権し、政治不信を意思表示した。

 全体として自民党政治への強い批判が表された。とくに、それは大都市部での自民党議席の全滅状況に特徴的にでている。この危機の下で、活路を求める中小商工業者など旧来の自民党支持層が崩壊している様子などが表れている。多くの有権者は「誰がなっても同じさ」といいながら、まさにワラをもすがる思いで自民党への批判票を投じたといえる。これはまた、大衆の意識状況をも示している。

 だが、自民党の敗北、野党の前進は、この選挙だけのことではない。八九年参院選の結果、与野党逆転となった。九五年の前回参院選では、当時の新進党が得票数で自民党を百五十万票上回っていた。衆議院では九三年に自民党は過半数を割って、政権を失った。にもかかわらず、自民党に反対した野党各党は、根本的に代わる政策的対案をもたず、国民的力の結集はおろか、野党の結集にも失敗し、結局自民党政治を許してきている。今回も、事態を変えられるとは、有権者はもちろん、野党各党の指導者たちすらも信じていない。

 また、十五議席で「史上最高」となった共産党も、そんなに浮かれる根拠はない。今回は躍進に違いないが、七四年にすでに十三議席をとっている。曲折あって、二十五年かかってわずか二議席増やしたといっても言い過ぎでない。

 選挙という制度は、民意をほとんど正確に反映しない。議席の結果はもちろん、投票行動でさえ、マスコミその他が大きく影響する。買収さえある。だから議席は増えたり減ったりである。こうした投票と選挙に一喜一憂するのは政党の自由だが、危機に苦しむ中小商工業者や農民、失業者や労働者にはそんな余裕はない。ましてや、「解散・総選挙が政治の中心問題」(不破共産党委員長)という言い草は、危機に苦しむ国民を無視し、愚弄(ぐろう)するものである。現実に苦しんでいる国民各層は、現実に行動を起こす以外にないのである。

 野党に投票した人びと、とりわけ労働者階級は、根本的解決への道は何か、危機のなかで学びとらねばならない。

(3)

 国民各層は政治に活路を求めている。この選挙では、橋本政権の経済政策、不況対策は、危機に苦しむ国民各層に厳しい批判をあびた。いうところの市場からも「不信任」を突きつけられた。

 こうして経済政策、不況対策、とりわけ不良債権処理と消費税問題、減税問題などが争点となった。だが、野党各党も、政府の政策に根本的に対置した政策提起はなかった。共産党も昨年の二十一回大会路線にそって、現実政策、柔軟さ、すなわち「安心さ」をもっぱら売り込んだ。

 消費税問題で共産党や自由党は税率三%への引き下げを主張した。大衆の生活実感と近いこうした提起が、一定の支持を受けたのは間違いない。一方、この点でも社民党は揺れた。

 とくに共産党の各地の候補者たちは、実際上、この点だけを売り込んでいた。そして、三%への引き下げが消費不況に対する万能の経済政策かのような幻想を振りまいた。

 たしかに労働者国民の消費は停滞し、「不況」の原因となっている。だが、それはもっと根本的で構造的なことで、歴年の自民党政治、大企業の輸出中心の経済政策がもたらしたものに他ならない。また、商工業者や農民の危機は、市場開放や規制緩和など、多国籍化した巨大企業のための改革政策の結果である。消費税引き上げが不況に拍車をかけたのは間違いないが、現在では三%に戻したら解決するわけでもない。

 共産党の「消費税三%で不況克服」という宣伝は、大衆を欺くもので、経済政策でも何でもなく、むしろひとにぎりの巨大企業のための自民党政治という真実を覆い隠すことになっている。

 不良債権処理では、政府与党と同じく、自由党も民主党も税金投入で金融システムを安定化させると主張している。共産党だけが税金投入に反対し、米国型でやれと主張している。たしかに、税金投入で、大銀行や「善良な借り手」というゼネコン、不動産企業などバブルに狂った連中を救済するなど論外である。

 だが、共産党のいう資本主義のルール通りという米国の不良債権処理でも、日本の戦前の恐慌時も、多くの銀行がつぶれたが、巨大銀行はますます巨大化した。他方、中小企業はばたばたつぶれ、失業者が街にあふれるなど、国民大多数がより大きな犠牲を払わされた。まさに弱肉強食で、貧富の矛盾が急速に発展したが、共産党の主張ではこうした結末以外にない。

 もちろん、税金を投入しても国民大多数にとっては事態は同じである。資本主義のシステム内ではこうした破局が避けられない。問題は、それを共産党があいまいにしている点である。

 もっと根本的政策が必要である。この危機は、銀行や巨大資本になにがしかの犠牲を強いなければ片づかない。労働者や中小企業を犠牲にしないで処理しようとすればそれ以外にない。

 減税問題でも同様である。この問題で、最後まで橋本首相は揺れた。誰のための減税か、誰の負担での減税か、この点をあいまいにしようとしたからである。

 所得税減税での自民党の主張は、高額所得者の累進税率の引き下げと課税最低限の引き下げで金持ちへの減税、貧乏人への増税である。だからこそ、橋本は動揺した。人気取りで減税は言いたいが、その中身がばれれば国民多くの反発を招くことが必至だったからである。もう一つは、法人税減税問題も同じで、巨大企業の法人税負担の軽減をねらったものである。

 所得税問題でも法人税問題でも、自由党や民主党は自民党とそんなに違わない。

 このように、争点とはいっても、根本的な政策対決とはなっていなかった。この危機を誰の負担と犠牲で乗り切るか、これこそ根本的な対立である。野党の側の提案は、自民党とさして変わらない、手直しの提案に過ぎなかった。共産党も、この危機を打開する方向、自民党に代わるもう一つの方向を示していない。むしろ、いかに、このシステムの枠内で解決できるかの、「資本主義の枠内」で何でもできるはずだという、現実路線、柔軟さを競った。

 野党各党は、これから急速に危機が深まる中で、自民党に次いでぼろを出さざるを得ない。危機によって、暴露される。

(4)

 今回の結果に財界は、政治の不安定化を恐れ、危機感を強め、リーダーシップある政治の実現を求めている。財界は、九〇年代に入って以降、多国籍化した巨大企業が冷戦後の大競争に対応するため強力な内外政治を求めて、さまざま画策してきた。改革政治を求めて、強引に細川連立政権を作りあげ、薄氷を踏みながら二大政党をねらって失敗した。また、条件が十分でなかったにもかかわらず、橋本政権で「改革」政治の実行を後押し、そして今回、とん挫した。今また、リーダーシップある政治といってさまざま画策している。いずれにしても政局は安定せず、いちだんと不安定な政治状況となろう。

 米国政府は橋本辞任へのコメントでも金融システム改革を要求するなど、露骨に内政干渉を繰り返している。金融システム問題が新政権最初の仕事となるのは間違いない。税金投入に反対している共産党も含めて、「改革」それ自体にはほぼ異論がない。

 金融機関の整理統合が急テンポで進められることになる。すでに中小企業への貸し渋り、あるいは融資の強制的な回収などが深刻な問題となっている。金融システム改革にいっそう拍車をかけるわけで、中小企業の経営に深刻に影響し、倒産と失業の急増は避けられない。

 こうして労働者も、中小企業家も闘わざるを得ない情勢が進む。現実に闘いも始まるだろう。

 与党は追いつめられるが、政策的に自民党と基本的に変わるところがない野党各党もこの事態に対応できない。

 なかでも共産党は、労働者や危機に直面した商工業者の期待をある程度集めているが、自民党に根本的に代わる方策をもっていない。

 それが二十一回大会路線で、むしろ党の存在感を示すため、柔軟路線、現実路線をますます進めることになる。すでに、開票日翌日の党常任幹部会をマスコミに公表して、さらに「開かれた党」を印象づけた。この方向は、ヨーロッパの共産党がすでに進めている路線であり、危機にあえぐ支配層を支えるだけである。

 こうした路線をとればとるだけ、危機に苦しむ労働者や中小商工業者の利害や感情から離れ、馬脚を現すことになるだろう。危機の深化と共に、急速に共産党の暴露の過程が進むことになる。

 労働者や国民各層が、失業や倒産などさまざまな困難を打開しようとすれば、根本的解決以外にないこと、闘い以外にないことを学ぶ機会が非常に多くなる。これからはそうした一時期、大前進の一時期となるであろう。

 われわれは、労働者階級の政党として、この過程を促し、労働者、危機打開を求める各界の人びとと共に前進する。


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