980625 社説


きわどいところにきた金融・経済危機――米国が露骨に介入

労働者 農民 中小商工業者のための危機突破を


 急速な円安に象徴される金融・経済危機が、「日本発の世界恐慌」に発展しかねない、きわどいところとなった。急きょ二十日、東京で、日米欧アジア十七カ国・地域の蔵相・中央銀行総裁代理による緊急通貨会議が開かれた。そこで日本は、経済・金融システムの立て直しを「国際公約」し、米国が日本を監視する体制が敷かれた。市場関係者の間では、この会議を演出したサマーズ米財務副長官を、敗戦後の日本を指揮したマッカーサーになぞらえる見方すら出ている。

 この危機をいかに打開するのか、これは緊急の重要事である。二つの道が争われている。

金融危機とデフレスパイラル

 急速に円安が進み、とくに十五日には、七年十カ月ぶりに一ドル百四十六円台に暴落した。株価も一万五千円を割り、債券も下落するトリプル安が加速され、いわゆる「日本売り」の展開となった。同じ日、ニューヨーク株価も今年二番目の下げを記録、アジア各国でも株式・通貨が軒並み大幅安となった。ニューヨーク株価暴落など、ドルと世界金融崩壊の危機に世界中の資本家たちは震え上がった。

 日米両国政府が緊急に協調介入し、円はいくらか値を戻した。また、緊急通貨会議も開かれた。しかし、日本が世界恐慌の「震源地」となりかねないという深刻な事態は、何一つ変わっていない。その後、日本長期信用銀行が破たんした。

 一方、最近の発表によれば九七年度の国内総生産(GDP)実質成長率は、マイナス〇・七%である。第一次石油危機の七四年いらい二十三年ぶり、戦後二度目のマイナス成長で、しかもマイナス幅は最大である。個人消費や設備投資の不振にアジア経済の混乱が重なっており、九八年度も再びマイナス成長になると予測されている。

 日本経済は縮小に向かい、明白にデフレとなった。しかも七四年当時のように一過性のデフレではなく、デフレがさらに大きなデフレを呼ぶ「悪魔の循環」、デフレスパイラル(デフレ連鎖)に入っている。簡明にすれば、所得の減少↓消費の減少↓生産の減少↓雇用の減少↓所得減少という連鎖に陥ったのである。

 一方で金融不安、他方でデフレスパイラル、長期化する日本経済の危機は未曾有(みぞう)のものとなりつつある。そして国民各層に集中的に犠牲が押しつけられている。

 倒産は無論のこと、リストラ・肩たたきという形で、労働者がいたる所で職場を追われている。失業者は、四月段階で昨年より五十九万人増加、二百九十万人に達し、完全失業率は、四・一%に急上昇した。五十九万人のうち、世帯主が二十三万人と半数近くで、一家の生計を支える世帯主がやむなく失業するケースが新規失業者の中心となっている。

 中小企業の倒産も深刻化している。九七年度の倒産企業負債総額は戦後最悪で、前年より六四・五%も増えて十五兆一千億円、倒産件数も一七・四%増の一万七千四百件に上った。とりわけ、今年一〜三月期に倒産した企業の従業員数は四万五千人に上り、これは昨年同期比約三〇%増で、年間ベースでは過去最悪となる。銀行の貸し渋り、融資の強引な回収が倒産を強制している。

 凄惨(せいさん)な数字がある。昨一年間の全国の自殺者総数は二万四千人を超え、戦後五番目の高水準となった。倒産や事業不振、借金苦などの「経済・生活問題」に起因する自殺が一七・六%増えて三千五百五十六人となっていた。

 これらの事態を許すわけにはいかない。しかも、この事態は始まったばかりで、これからいっそうの深刻化が避けられない。

巨利を上げ海外資産を増やす大企業

 ところが、危機の影響は、国民各層に対して一様でない。この危機のさなかでさえ、巨大企業はばく大な利益を上げている。

 上場企業の九八年三月期決算で、巨大企業は大方、増益である。本田技研、キャノン、ソニーなど百九十社は、過去最高益を更新した。最大の輸出企業で経常利益トップのトヨタ自動車は、十一兆六千七百八十三億円の売上げ、利益は八千二百八十七億円で増収増益である。円安で一千億円の「もうけ」が出たといわれている。新日本製鉄も増収増益である。売上げは〇・九%増加しただけだが、利益を千三十九億円、二二・七%も伸ばしている。

 売上げが伸びれば利益を上げるのは当然、伸びなくても労働者への合理化・リストラで利益をあげている大企業の過酷な姿がある。

 それだけではない。九七年度末の日本の対外純資産残高は、前年と比べ二十五兆円弱、二〇・五%増加し、百二十四兆五千九百億円になった。これは、七年連続で世界第一位、GDPの実に四分の一に膨れあがっている。二位ドイツの十兆七千五百億円を大きく引き離している。労働者が外国に資産を持つことはまずありえない。これらは、ことごとくみな、大企業や政府が保有する資産である。そして国民が稼いだ金である。

 とくにこのところ毎月毎月二兆円も三兆円も、国民から搾り取った金をドルに換え、米国の国債や株につぎ込んでいる。その結果こそ急速な円安の進行である。だから、こんな円安で日本が非難され、労働者国民に犠牲が求められるなど、まったく許し難いことである。

問われる二つの政策方向

 危機の打開をめぐる二つの道が問われている。勤労国民の所得の大幅拡大による内需拡大、生活水準向上を実現する国内経済政策とアジア諸国の経済発展と結びつけた「共生」の対外経済政策こそ、真の打開の方向である。こうした方向で、わが党はさきに、国民諸階層の切実な要求を支持し、諸悪の根源―対米追随で大企業優先政治の転換を求める「緊急要求スローガン」を発表した。

 「消費税の即刻廃止、大幅賃上げ」「三十兆円の公的資金は中小企業救済に」「失業者にただちに仕事を」など、勤労諸階層の生活支援、大幅な所得の拡大こそが、内需を呼び起こし、消費を拡大させ、生産の拡大に進む、経済危機打開の基本的条件である。そのためにも、大企業が持つ膨大な対外資産を、外国ではなく日本で使い、国民経済の発展、国民生活救済に投ずべきである。また、「基金」を作って、アジア諸国に資金が回るように支援すべきである。

 こうした方向こそ、だれが見ても分かりやすい道理ある政策方向である。ところが、対米追随で大企業の番頭、橋本首相らはもちろんにしても、腑(ふ)抜けな野党も、こうした道理ある主張をできない。

 もちろん、日本が米国債を売り払えばバブルが破裂し、米国経済や世界経済にも深刻な影響が出るだろう。しかし、それは日本のせいではなく、米国自身、資本主義そのものに問題があるからで、どのみち避けがたい。日本の労働者や失業者、中小零細企業、農民など、勤労国民にはなんの責任もないことである。

 国内を貧しくしてひとにぎりの巨大企業だけが輸出で儲(もう)け、その儲けで米国の国債を買って、米国経済を支えるという、ばかばかしい反民族的反労働者的な経済運営はやめろということである。対米追随、大企業優先の経済運営は、とっくに破たんしている。

 この抜本的な転換なしに、十六兆円・戦後最大規模といわれる「総合経済対策」も焼け石に水、対症療法に終わる以外ない。 

幻想あおる共産党

 共産党も、「消費税は三%」などと、若干の手直しで問題が解決するかの幻想をあおっている。「資本主義の枠内で」と、現実政党ぶりを支配層に印象づけたいのであろう。だが、米国とわが国大企業の利益にまるで手をつけないで、この危機を打開することはできない。だれの負担でこの危機に対処するか、これこそ根本にある問題である。経済運営をめぐって利害が鋭く対立するという現実を幻想で覆い隠す共産党は、客観的には労働者国民の断固たる闘いの発展を妨害しているのである。

 支配層・財界は、この危機を労働者、国民大多数に押しつけて乗り切ろうとしている。労働者、国民はこれと闘い、うち破らなければ、自らの危機打開はない。

 労働者と勤労国民の切実な要求を基礎に、これら大義ある要求を掲げ、大衆行動を起こすことが求められている。


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