980615 社説


インド、パキスタン核実験後の新たな状況

いまこそ核廃絶、独立自主の外交確立へ世論結集を


 五月末、二回にわたりパキスタンが地下核実験を行った。インド、パキスタン両国の核保有で、世界の状況は新たな局面へと移行している。核の脅威がいちだんと高まったが、同時に核独占の大国支配に抵抗、反対する新しい動きが進んだ。また、核廃絶実現のための新たな認識と各国の動きも進んでいる。

 この状況、認識発展の全体を把握し、その積極面を促進しなくてはならない。対米追随で、世界の流れに逆らうわが国政府を、いまこそ打ち破らなければならない。

非難されるべきは誰か

 今日、米帝国主義が主導した冷戦後の世界支配体制である核拡散防止(NPT)体制は、崩壊した。

 わが党は、先のインド核実験に際して中央委員会声明を発表し「大国の核独占体制は崩れた。インドに続いて、さらにパキスタン、そしてその次の国と、核武装国は地球上に増えるであろう。核に裏づけられてしか、真の主権行使が容易でない国際社会の現実がある以上、こうした選択には根拠があるといわなければならない」と指摘した。事態は、まさにそのように進展している。

 この結果、世界の核の脅威は、新たな高まり、危機的状況を迎えることになった。

 同時にこの危機は、人びとの認識面での変化、発展をもたらしている。被爆者団体や反核団体のリーダーが「政府はインドに抗議する前に、なぜ米国に抗議しないのか」「予想された事態だが、NPT体制が完全に破たんしたことの証明だ。核保有国が自分たちの核を減らす努力をしようとしないことに対する不満の表れ」といった主張を始めている。核廃絶のために、非難されるべきは誰か、誰と闘うべきか、明確な正しい認識が発展している。

 深刻な事態の最大の責任は、唯一の核超大国であり、核兵器を最初に開発し、それを使用し、核の脅威を自らの世界支配の道具としてきた米帝国主義こそ負わなければならない。核脅威の根源はインドやパキスタンではない。

 今日、全世界的に差し迫った課題である核兵器廃絶の闘いは、核を独占し、自らの世界支配の道具としてきた、米帝国主義を追いつめる闘いと結びつけてこそ、有効な成果をあげることができる。

始まった新たな世界状況

 インドの核実験以来、米帝国主義は、ほころんだ核独占体制の維持のために必死で狂奔した。クリントン大統領らは、インドへの制裁を叫びながら、パキスタンに対して援助と制裁というアメとムチをちらつかせ、核実験を断念させようと圧力をかけ続けた。しかし、この脅迫は効果を上げなかった。自国の運命は自らが握る、こうした世界の流れを覆すことはできなかった。

 また、クリントンは両国に対する経済「制裁」を世界各国に迫った。しかし、日本など数カ国しか同調しなかった。核保有国ですら、足並みは乱れ、米国以外の「制裁」参加国はない。

 力の衰退を劇的に暴露された米国は焦り、ぶざまな対応を迫られている。国連常任理事国外相会議(P5)は、インド、パキスタンを核保有国と認めない、と宣言した上で、NPT、CTBT(包括的核実験禁止条約)への両国の無条件の参加を求める共同宣言を採択した。しかし、この矛盾に満ちた宣言が、核拡散の歯止め策になるとみる国は皆無である。むしろ、自らの核軍縮を全く棚上げし、他国に核保有を禁じる核保有国の態度に、世界の不信が拡大しただけである。ジュネーブ軍縮会議や国連安保理でも、「核保有国の中には、NPTが無期限に延長されたことを論拠に、自国だけは永久に核兵器を持つようなことを主張する国すらある」(イラン外相)「核保有国はNPTの定める核軍縮義務を果たすべきだ」(オーストリア大使)などといった、核保有国への批判、不満が噴出した。

 このようにインド、パキスタンを非難し、抑えつけようとした米帝国主義の策動は、かえって世界中の中小国、非保有国の核保有国への不満と反発を強めただけである。

 米帝国主義が主導した、核大国で構成されるP5によって核独占体制、世界支配秩序の再構築を進めようとする策動に対して、フランスやロシアをはじめ「主要国」も、陰に陽に抵抗した。英国はG8(主要八カ国外相会議)を主催した。フランスは、P5ではなくG8プラス、インド及びパキスタンによる国際会議を模索した。橋本首相も、一時期、フランスと同様の構想を提唱したが、米国から「時期尚早」と一喝され、いち早くP5中心に転向した。

 米国が中国との連携でとりあえず「P5中心」ということでフランスやロシアを抑えたが、各国の思惑はそれぞれである。核独占体制の崩壊は、米帝国主義とその他の大国との関係でも変化を促している。

 元米大統領補佐官のスコウクロフトは「残念ながら世界はまさに混とんとして危険な無秩序状態に入った」と語った。米帝国主義の核独占による世界支配秩序が崩壊し、世界の状況は新たな局面となった。

対米追随に保守層からも不満が

 日本は、この客観的に進む世界の流れにも関わらず、最もたち後れた、対米追随の態度をとり続けている。わが国は、戦後一貫して、「米国の核の傘」の下にある。しかも、今日、日米安保共同宣言と、それによる新ガイドライン、周辺事態法案などで、米国の世界核戦略の一端を積極的に担い、中国、朝鮮など周辺諸国への大きな脅威となっている。

 そのわが国橋本政権は、米国の「制裁」提案に真っ先に応えた。また、G8の中では唯一、米国の策動する「秩序再構築」のお先棒を担ぎ、世界の流れに逆らって核拡散防止条約体制の維持に奔走している。

 これでは世界から孤立するのは当然である。いまこそ、わが国は、「米国の核の傘」から離脱し、米国自身の核廃絶を厳しく求めなくてはならない。大国による差別と不平等に反対する世界の流れに呼応しなくてはならない。

 深刻な経済危機の打開のためにも、対米追随からの脱却を求める声が広がっている。世界の流れに背を向けた政府の対応に、当然ながら強い不満が生まれている。

 それは保守層、一部支配層の中にも広がっている。例えば、自民党の野中広務幹事長代理は「どうして日本は被爆国として五つの国に『核をなくしなさい、核をなくして他の国が核武装しないように言いなさい』と堂々と言う勇気が生まれてこないのか」と述べた。また、元副総理の後藤田正晴氏も「問題はインド、パキスタンだけにあるのではない。米国、ロシア、英国、フランス、中国の核五大国の責任も問われなければならない。五カ国がNPT、CTBTによって敷こうとしている核兵器の独占体制は不公正であり、矛盾があり利己的である」と述べている。

 これらの意見は、まさに正論であり、わが国政府の欺瞞(ぎまん)性を鋭くつくものである。橋本首相は最近変化する世論を気にしてであろうが「核保有国自身の核軍縮努力が重要であることは言うまでもない」などと語った。そうであれば、米国にはっきり迫るべきである。また、わが国は「米国の核の傘」から脱却すると宣言すべきである。

 インド、パキスタンの核実験を契機に、すでに国際政治が新たな状況に移ったことを知らなければならない。核独占による脅迫政策は打ち破られ、「中小国家、帝国主義に抑圧された民族、国家が、国家主権の確立、平等な国際社会を主張して米帝国主義と堂々と渡り合う時代」(党声明)が始まったのである。

 ところが、ひとりわが国政府・支配層だけが、自主性のない、旧態依然とした対米追随の態度をとり続けている。これでは真の核廃絶の実現にも、世界の平和、平等の実現にも結びつかないことは明らかである。これでは日本は永遠に米国の「属国」でしかあり得ない。また、対米追随では、今日の深刻な経済危機の打開もあり得ない。

 世界の新たな状況にふさわしく、わが国の進路を独立、自主で、世界の平和、民主主義に貢献する方向に転換する世論の結集こそ緊急に求められている。この状況を憂える心ある人びとが、広く連携し、積極的な役割を果たすことを期待する。


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