980605 中村哲郎・党福岡県委員長


福岡県久留米市

アサヒ靴倒産7000人が雇用危機に

アサヒ靴は社会的責任を取れ

県、市は地域経済、雇用を守れ


 大手ゴム履物メーカーのアサヒコーポレーション(本社・福岡県久留米市、以下アサヒ靴)は四月六日に倒産した。関連倒産は地元福岡県をはじめ九州だけでなく、北海道、関東にまで広がっている。福岡県は昨年の大牟田市の三井・三池炭鉱の閉山に続いての倒産により、地域経済は深刻な打撃を受けている。こうしたなかで、日本労働党福岡県委員会は、現地対策本部を設置し、労働者、下請け会社などへの犠牲を許さず、地域経済を守るために、宣伝・激励活動などに取り組んでいる。中村哲郎委員長に聞いた。

 アサヒ靴は本社だけで1750人の労働者が働いており、全国に関連会社が約220社、約5000人が働いている。県内では関連が190社、久留米市にはおよそ140社ある。

 久留米市商工会議所の屋上に巨大な三角形のモニュメントがある。これはアサヒ、月星、ブリヂストンのゴム三社を示したもので、市がゴム産業で発展したことを象徴している。実際にゴム産業が市の工業出荷額の約半分を占め、労働者の約四割はゴムに働いている。

 アサヒ靴が倒産し、関連・下請けの連鎖倒産や賃金未払いや自宅待機や解雇が相次いでいる。四月末で県内7社で80人が解雇された。県外では、佐賀県の筑紫旭加工など5社で545人が解雇された。さらにアサヒ靴を含めて2430人が休業申請し、雇用調整関係にある。そのほか会社解散に伴い全員解雇が山田市のアサヒシューズ八女市の朝日縫製などがある。しかも、これは四月末の数字で、実際はもっと増えている。

 それは5月29日に発表された福岡県の失業者が、過去最高の11万2304人(前年同月比12.2%増)となったことにも表れている。また久留米市ではこれまで有効求人倍率は0.5を下回ったことはなかったが、ついにそれを下回った。

地域経済に深刻な打撃

 旧炭産地の山田市のアサヒシューズは、市の誘致企業第一号で当初は800人、田川市の工場も含め1000人を超える労働者がいた。合理化され今は170人だが、それでも山田市で最大の企業だ。

 アサヒ靴はアサヒシューズに4億数千万円の未払いがあり、このため従業員に賃金やボーナスが支払われなかった。解散に伴い組合の積立金などを分配したが、これも給料ではなく、退職金ももらえず退職に追い込まれた。

 さらに内職に出していた分があるが、これも賃金が未払いで、アサヒシューズの社長が「払えなくて申し訳ない」と頭を下げて回ったが、本来はアサヒ靴が回るべきだ。

 その上、製品の運送するためのガソリン代などにも未払いがある。そうした直接の取り引きではないものも一千数百万円が未払いだ。

 山田市は人口1万人程度までが減少し、市は鉱害復旧事業で成り立っている。市には自主財源がなく、国に依存しているところにこの倒産で、経済的には大きな打撃だ。

 アサヒ靴の負債は一千数百億円といわれるが、下請けへの未払い、内職の人びとへの未払いやガソリン代などさまざまな影響が出ており、総額は分からないほどだ。

広がるアサヒへの不満・怒り

 下請け・関連会社が「未払いをなんとかしろ」と怒鳴り込んでも、アサヒ靴は「破産で管財人に権限が移っている。騒いでもどうにもならない。再建できればまた仕事がある」と言って不満をだまらせている。これに対し、関連・下請けは頭に来ているが、「もう未払金は帰ってこないだろう。それよりも一日いちにちの生活のために仕事がないだろうか」というふうに考えているところも多い。 まだ再建計画がどうなるのか分からないので、ひょっとしたら仕事がくるのかもしれない。あまり先走って、文句を言うと後が怖いという思いもあり、公然と不満の声が上がっていない。つまり巧妙に諦めさせようとしている。

 だが本音を言えば「アサヒ靴をつくった石橋は土下座してあやまれ。何年かけても未払いは払え」「経営者の社会的責任がある。創設者である石橋は財産を投げ出して、労働者や関連・下請けを救済する責任がある」という怒りや不満がある。それは多くの関連・下請けがアサヒ靴を支えてきたからだ。

 アサヒ靴本社でいえば、社内預金問題がある。一人500万円までだが、夫婦共稼ぎで1000万円預金している労働者もいる。ところが、これを引き出せない。これは労働者の預金であり許せないことだ。

 下請けからは「よく暴動が起こらなかったな」という声が出るほどだ。アサヒ靴の労働者は再建後の雇用を期待しているから、暴動が起きなかったのだろう。

労働者、下請けを切り捨てるな

 会社再建の場合でも、大合理化が予想される。再建計画も本体だけなのか、関連・下請けも含めてなのか、まだ明らかされていない。しかし、倒産を口実にアサヒ靴が身軽になるために関連・下請けを切り捨てる可能性もある。

 関連・下請けは今後どう進路を取るのか迷っている。再建計画に自分たちが参加できるのか、参加できても100%なのか半分位なのか、早く判断をつけたい。「だめならだめと言ってくれ。再建で半分なら半分と言ってくれ。そうしないと従業員に説明できない」と言っている。こうしたことで関連・下請けはジリジリしているが、アサヒ靴は答えない。

 党は、ビラ配布や宣伝カーによる激励行動を行っているが、アサヒ靴の労働者はよくビラを読んでいる。久留米駅前で宣伝しても、若い人がビラをよく取る。それは親兄弟などがアサヒや月星、ブリヂストンなどに関係していたりするからだ。

 タクシー、バスの運転手やキヨスクの人がビラを取りに来る。それほどに久留米はゴムの町だ。

 アサヒ靴の労働者には関連・下請けの労働者と力を合わせて、お互いの雇用を守るために連携して闘うことを訴える。

 アサヒ靴は関連・下請け、労働者を切り捨てて生き残ろうとしている。これを許さず、石橋は私財を投げ出して社会的道義的責任を取るべきだ。そして久留米の地域経済を守るべきだ。

 また県や市には、緊急対策として下請け会社などに手厚い支援策を要求する。現在の融資はこれまで通りの制度でしかない。だから関連・下請けが融資を求めても「担保や再建計画は」となる。アサヒ靴の再建計画も出ていないのに、関連・下請けが再建計画を出せるはずがない。つまり役に立っていない。無担保で利子ぐらいは自治体が負担すればよい。それこそ雇用を守る重要な自治体の役割だ。

 倒産失業を防ぐために県も市も動かなければならない。久留米市だけでも130社の関連があるのだから。地域経済、雇用を守る積極的な意味がある。そのことは中小業者を守るだけでなく、商店街を守ることにもなり、地域経済を守ることにもなる。これは自治体の積極的な政策であると思う。


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