980525 社説


深まる世界の政治・経済危機、無力ささらしたサミット


 サミット(主要国首脳会議)は、世界の一握りの金持ち国の指導者たちが年に一度集まり、世界で起こっている事態に「共同対処」し、自分たちに都合よく世界を「秩序立て」、支配していくためのしくみである。それは、サミットの第一回目が、七五年、石油ショックという世界の金持ち国とその秩序を根底から揺るがした危機的事態に「共同対処」する目的で開かれた事実、八〇年代は「対ソ戦略討議」が中心的内容であったという歴史的経過がよく示している。

 今年二十四回目のサミットは、英国のバーミンガムに、クリントン米大統領、コール独首相、シラク仏大統領、プローディ伊首相、クレティエン加首相、橋本首相、ブレア英首相、それにエリツィン・ロ大統領の八人が集まって開かれた。

 大恐慌以来の世界経済の深刻な危機の進行、インドネシアの暴動、それにインドの核実験など、まさに既存の金持ち国優位の世界秩序が重大な挑戦を受け根底から揺さぶられている事態を眼前にしながら、この金持ち国クラブの指導者たちは何一つ有効な処方せんを見い出せず、無能さと限界をさらした。

 一握りの金持ち国にとって、世界は「アウト・オブ・コントロール」(制御不能)の事態となって、危機がさらに深刻化し、広がることを予感させるものとなった。

アジアの経済危機は第2ラウンドへ

 今回のサミットの指導者たちは、直前に起こったインドネシアの反スハルト暴動、インドの核実験という「重大な挑戦」が突きつけられ、これにどう対処できるか、鋭く問われた。

 これらについてサミットは、どう回答したか。

 インドネシアに対しては、「当局に対し最大限の自制」を、「民衆に暴力の回避」を訴えながら、「国際通貨基金(IMF)と合意したプログラムの完全実施で、安定が回復すると確信する」と、これまでの対策を繰り返すだけにとどまった。あの時点では焦点であったスハルト政権への対応など肝心な問題でさえ、各国の利害の違いから協調姿勢を打ち出せなかった。

 「IMF合意の順守」が処方せんにならないことは、火を見るより明らかである。そもそもインドネシア人民の暴動は、IMFとの合意に従ってスハルト政権が実施した補助金削減に伴う公共料金の値上げがきっかけであり、昨年来のアジアの通貨・金融危機のなかで失業、生活苦を強いられた人民の不満が爆発したものである。だからこそ、G8宣言でも「貧困者がもっとも深刻な経済危機の被害を受けている」事実を認めざるを得なかった。

 だが、「唯一の」処方せんとして打ち出したものは、さらに貧困者に深刻な犠牲を負わせて国の経済を立て直す「改革プログラム」である。金持ち国クラブとしてはこうした対応しかありえようがないが、これでは第二、第三の人民暴動を呼び起こし、政治危機がさらなる深刻な経済危機となってはねかえってくることは目に見えていた。

 G8宣言のインクが乾く間もなく、インドネシアの人民はスハルトを退陣に追い込んた。金持ちクラブの指導者たちは、スハルトに代わって登場したハビビに最大限テコ入れし、政治危機の沈静化を図ろうが、それは不可能である。

 アジアの経済危機が第二ラウンドを迎え、再燃する可能性が高まった。昨年来の「アジア発の世界恐慌」は、いっそう現実味を帯びるようになった。

 大恐慌以来といわれる世界経済の深刻な危機の要因は、決してアジア危機の進行にとどまらない。

 アジア通貨・金融危機が「二十一世紀型」と言われるゆえんともなった、途上国のGDPをはるかに上回る一日一兆ドル超の巨額の投機資金の攻勢に対応する手段は、議題にのぼせられた。だが「監視の強化」「経済データの公表」など、本人たちさえ信じない対処策しか示せなかった。

 世界経済の危機の要因は、さらにある。グローバル経済の最大の潜在的不安要因として懸念されるようになった、米国の異常な株高、バブルの広がりである。米国の異常な株高は、アジアや日本経済の低迷を受けて、世界の資金が米国に集まっていることが一因であり、世界経済は「米国の楽観とアジア、日本の悲劇という明暗の中でかろうじて『危うい均衡』」(日経新聞)を保っているのである。

 この『危うい均衡』は、いつ危機の連鎖に変わるかもしれない。米国のバブルがはじけるのはもはや時間の問題となっているが、そうなれば、アジアと日本の危機をさらに深刻化する。ユーロの実現に取り組む欧州経済にも響く。

 だが、サミットでは、この問題は議題にもならなかった。

 さらに付け加えるなら、ユーロの登場が、米国の基軸通貨国の発行特権を奪って、ドルを相対化し、ドル暴落の引き金になるかもしれない。「日本発の世界恐慌」の可能性も、あり得ないことではない。

 世界経済の危機は、これらのいくつもの要因が重なり、絡みあって、いちだんと深刻さを増している。

 十年前、社会主義ソ連を崩壊に追い込んで「資本主義の勝利」を宣言し、二年前のリヨン・サミットでは「グローバル化の過程は将来への希望の源泉」と豪語していた世界の金持ちクラブの指導者たちは、まさにグローバル資本主義が生み出した危機の前に、なすすべなく立ちすくんでいる。今回のサミットは、そんな姿を浮き彫りにした。

インド核実験への対応は乱れ

 もう一つの重大な挑戦、インドの核実験についても、サミットは何ら効果的な対策を打ち出せなかった。

 インドの核実験が意味するところの詳細は別に譲るとして、これが米国が中心に推進してきた核独占体制に風穴をあけた、国際政治の新たな展開を示す画期的事件であることは明らかである。核兵器による世界支配の現実のもとで、もう一つの新たな核保有国の登場は、各国の戦略の見直しを迫らざるを得ないからである。

 したがってこれへの対処は、本来金持ちクラブの威信をかけた断固たるものでなければならなかった。だが、サミットはインドネシアへの対応以上に、足並みの乱れを露呈した。米国とそれに追随して独、日本が制裁に踏み切ったのに対して、英、仏、ロは制裁に否定的な態度をとり、インドに対する厳しい共同対処ができなかった。

 インドは、この結果に「満足」を表明し、六番目の核保有国を宣言した。パキスタンは、対抗措置として核実験に踏み切る姿勢を示した。国際政治は、新たな局面に移行せざるを得ない。

 こうしてサミットは、大恐慌以来の深刻化する世界的経済危機に対しても、それと時を同じくして起こった国際政治の危機に対しても、何一つ有効策を示せず、「秩序立て」ができないままに終わった。

 とりわけ、その中心をなす米国の統率力に陰りが見えたことは、重大な変化である。

 世界がいっそう危機的、不安定な局面へ突入することは不可避である。危機の中から、インドネシアに続いて人民がいたるところで雄叫びを挙げ、世界の金持ちクラブの指導者たちの心胆を寒からしめる時が来るのも、そう遠い日のことではない。

日本に重い課題

 サミットは、世界的な危機の中でわが国がどんな位置にあるかも、鮮明にした。金持ちクラブの列強間の危機の押しつけあいの中で、米国の従属下にある日本は、アジア危機の防波堤の役割を押しつけられ、重い課題を背負った。

 橋本首相は、「不良債権問題の解決や構造改革に取り組む」ことを「国際公約」として約束させられた。さらに、アジア危機への対応についても大きな責任を負わされた。これらの実行が、国民各層にさらなる犠牲を負わせることなしにできないことは明白である。

 世界経済、世界政治の危機の中で、わが国が対米従属ゆえの困難を抱え、「弱い環」であることが明らかとなった。わが国での矛盾の発展も不可避である。

 こうした国際情勢の危機的発展と、わが国の位置は、敵にとっては不利で、われわれに有利である。われわれはこの歴史的危機を、労働者階級と人民大衆の勝利に結びつけるために準備を急がねばならない。


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