980405 社説


規制緩和新三カ年計画を決定

強まる反発、連携した闘いの発展を


 橋本政権は三月三十一日、九八年度から開始する新たな規制緩和推進三カ年計画を決定した。

内容は、電力小売りの自由化、NTT接続料金の引き下げなどを目玉として、情報通信、運輸など十五分野、六百二十四項目に及ぶ。

 この計画は、九五年度の村山政権時代に初めて開始された規制緩和三カ年計画に次ぐものである。

 いうまでもなく、規制緩和は橋本政権の掲げる「六大改革」のうち、「経済構造改革」の柱とされている。支配層は、規制緩和は「日本の経済・社会を再活性化する」(読売)と盛んに賛美するが、果してほんとうか。

 現実は、決してそうではない。そこに待ち受けているのは、米国などに市場を明け渡し、一握りのわが国多国籍大企業だけがもうけて、中小企業、労働者など大多数の勤労国民を犠牲にさらす現実だけである。

 ここ数年、またこの計画の策定過程でも見られたように、各業界や労働者などの規制緩和に抵抗、反対する動きは強まっている。支配層の戦後の支持基盤を自ら掘り崩す「改革」、規制緩和は、その遂行が決して容易ではない。

 その犠牲をこうむるものは、連携を強めて闘い、前進するチャンスである。

規制緩和の打撃は計りしれない

 今回の計画には、例えば国内航空、タクシー、港湾運送などの新規参入規制や運賃設定規制など、いわゆる「需給調整規制」を撤廃する方向が盛り込まれた。トラック運送事業は営業区域が従来より拡大される。

 これらの規制緩和・撤廃の結果もたらされるのは、国内外の大企業の進出による中小零細業者の淘汰(とうた)であり、労働者の首切りである。また大手、中小を問わず、過酷な労働条件の切り下げ攻撃が加えられるだろう。

 例えば、大型店規制はすでに九〇年以来三度にわたって緩和が進み、全国で膨大な中小小売商の倒産・廃業を引き起こした。その実態は、存亡の危機を訴えた昨年の中小小売商の決起大会を見れば明白である。実際、中小小売商はこの三年間で、全体の約半数を占める一〜二人規模の店数は約五万六千店、七・三%も減少した(九四〜九七年)。それに比べ、百人以上の大型店は一三・六%も増加、激しい進出ぶりをみせている。

 前記のトラック、タクシー、港湾などの運輸業でも、相つぐ規制緩和で、業界の大多数を占める中小零細は今日でさえ厳しい「生存競争」にさらされている。航空業界も内外の激しい競争下にある。タクシー業界では、規制緩和による事業の新規免許、増車の認可で「供給過剰」となり、新規免許事業者は認可後三カ月をへてもほとんど稼働できない状態にあるという。

 長期の不況や貸し渋り、また緊縮予算による切り捨て、一連の「改革」などによって、自殺者も相つぐほど中小零細業者の苦境は頂点に達している。これに規制緩和攻撃が加わるならば、その打撃は計りしれない。

 これら以外にも、医療・福祉分野では、株式会社による医療・介護への進出や医薬品の自由販売の方向、労働分野でも、労働法制の規制緩和などが盛り込まれている。

 こうした実際から、存亡の縁に立たされる各界から抵抗、反対が強まるのは当然である。

多国籍大企業の狙いは

 このような国民の「痛み」を覚悟で、規制緩和を強行しようとする支配層の狙いは何か。

 規制緩和の目的について、マスコミは「世界的な大競争や少子高齢化社会の進展など厳しい環境に対応できるようにする」(読売)という。橋本首相も、「サービス水準が二〇〇一年までに国際的に遜色(そんしょく)のないものとなるよう徹底した規制の撤廃と緩和を行う」(施政方針演説)と力んでいる。

 まったくその通りで、多国籍大企業が「世界的な大競争」に対応するためである。かれらは自国市場を開放し、中小零細を犠牲にしてまでも、国際的な大企業間の競争に打って出ようとしているのである。これが規制緩和の本質である。

 他方、わが国市場を狙う米国の圧力も、一段と露骨になっている。今回の新三カ年計画に対しても、計画発表直後、米通商部代表部(USTR)は「緩和は不十分だ」との声明を発表、「サミットまでに成果があがるよう」圧力をかける構えを示した。すでに昨年六月の日米首脳会談以来、わが国は電気通信などの規制緩和で日米事務レベル協議を強いられ、クリントン大統領はこの三月、「通商年次報告」において、早期の規制緩和と市場開放を明確に要求した。ここには、日米間における多国籍企業間の「大競争」、屈服する橋本政権の姿が浮き彫りにされている。

 われわれは、かれら一握りの多国籍企業による犠牲転嫁を甘受する必要はいっさいないのだ。政府流儀の「改革」、規制緩和を打ち破り、国民多数の生活と営業が成り立つ国の運営の道を選ぶことこそ展望がある。

進む各界の抵抗 闘いをいっそう発展させよう

 しかし、橋本政権は新三カ年計画を打ち出したものの、計画の前途は容易ではない。各業界はもちろん、労働者もストライキをはじめ抵抗を強めている。

 中小小売商は昨年、大店法の緩和に反対して相ついで決起大会を開催した。著作物の再販制度緩和は、書店、新聞・出版業界などの反対で今回の計画では決まらなかった。

 運輸分野の港湾運送では、労資の事前協議制を米国が標的として攻撃、それに対して港湾労働組合は昨年二十四時間ストを二回も打ち抜き、この四月も四十八時間ストで闘う決意でいる。航空でも、規制緩和による競争激化で賃金コスト引き下げ攻撃がかけられた全日空、日本エアシステム、日航の乗員組合は、四月六日から順次スト突入の闘いを準備している。

 タクシー事業の規制緩和では、全自交と私鉄総連が「安全輸送と労働者の生存権をかけた闘い」としてタクシーを動員して決起集会を開催した(三月)。

 医療・福祉分野でも、医師会、薬小売り業界、福祉団体などの反発は強い。

 労働分野でも、労働法制の規制緩和に連合などの労働組合や弁護士などが一斉に反発し、闘いを強めている。

 規制緩和によって、橋本政権は長く戦後保守政治の支持基盤であった各業界を敵に回さざるを得なくなっている。昨年の各界の決起は、それを明らかにした。橋本政権は、危機的な経済状況を背景に窮地にある。

 犠牲をこうむる全ての人びとは、連携していっそう闘おう。「改革」と規制緩和推進で自民党と同じ土俵に立つ議会内野党が本質的に無力で、頼りにならないことは明白である。まして「ルールある資本主義」をめざす共産党の路線は、政権への参画をめざし、支配層にすり寄るもので、全く無力で、裏切り以外の何物でもない。

 規制緩和で犠牲を受ける人びとは、積極的に労働者、各階層と連携し、国民世論を盛り上げる必要がある。

 また労働者は、労働法制の規制緩和や規制緩和に伴う合理化と闘うとともに、各界の要求を断固支持し、ともに闘わなければならない。

 昨年に引続き、これらの闘いをいっそう前進させ、国民的抵抗に発展させることが可能な情勢である。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997,1998