980315 社説


地域と中小小売商つぶす大店法廃止

世論を盛り上げ、各層と連携して闘おう


 橋本政権は二月二十四日、これまで大型店の出店をある程度規制していた大規模小売店舗法(大店法)を廃止し、新たに大規模小売店舗立地法(大店立地法)案と、関連の都市計画法改定案を閣議決定した。政府は、これら法案の今国会での成立を狙っている。

 七三年に、大型店を規制し「中小小売業の事業確保」を目的とした大店法が制定された。その後日米構造協議で再三米国の圧力が加えられ、九〇年以来三度にわたって、大型店に有利になるよう規制が緩和されてきた。それを今回、財界や米国の要請に沿って撤廃しようというわけである。

 橋本政権が進める「経済構造改革」からすれば、二つの法案による新制度は、その重要な一環であり、規制緩和の柱の一つと位置づけられている。

 これら法案が成立すれば、中小小売商にとっては壊滅的な打撃となり、一部大型店優先の町づくりが進むことになることは必至であり、商店街と中小小売商にとってはまさに死活をかけた重大問題である。

大型店を野放しにする大店立地法

 これまで大型店の出店は、事前に国などに店舗計画を提出し、中小店の保護の見地から店舗面積、開店日、閉店時刻や休業日数などについて、ある程度規制を受けてきた。

 ところが大店立地法は、「中小小売業の事業確保」という目的を削除し、「生活環境の保持」のみを目的としている。新制度では、まず改定都市計画法により市町村が、大型店が立地すべき地域を設定する。出店希望者はそれに沿って、都道府県ないし政令指令都市に計画を提出し、交通や騒音など生活環境の面から指導を受け、必要な点を改める。審査基準の大枠は国(通産省)で定め、具体的な基準の設定、運用は都道府県・政令指令都市が行うという。

 つまり、従来の店舗規模や営業時間などの「経済的規制」はいっさい排除し、生活環境や町づくりなどの「社会的規制」のみにするわけである。これでは、例えば大型店が駐車場などを整備し、周辺交通に支障をきたさなければ、いかに地域の中小商店、商店街が衰退しようが出店自由だということになる。

 出店届け出を受ける都道府県などが内容の改善を求めるにしても、単に「勧告」するだけで、従わない場合は「公表」する程度の権限しかない。しかも地域に最も密着する市町村は運用主体から排除されている。

 従来以上に大型店が容易に進出できるような仕組みになることは、火を見るより明らかである。

 マスコミなどは「新制度のメリットは地域住民にとっても、日本経済にとっても大きい」「中長期的に日本経済活性化の効果も期待できる」(読売)などと賛美するが、とんでもないペテンである。まさに弱肉強食の論理を公認したもので、これが推進されれば「大型店栄え、中小商店・地域は滅ぶ」という事態が引き起こされよう。

 こうした規制緩和は、財界が市場原理による流通分野におけるコストダウンをめざし、強く要求してきたものである。橋本政権は、それを「改革」の名の下に強行しようとしている。他方、近年とみに高まってきた規制を求める中小小売商や地元住民の闘い、またそれらを背景とした自治体独自の規制強化を阻止するためでもある。

 また、注目すべきは米国のしつような圧力である。昨年来開かれてきた日米通産当局による政策部会で、米国は再三大店法の廃止を要求。三月初めクリントン米大統領は「通商年次報告」において、大店立地法が新たな出店規制にならぬようけん制するとまで言及した。大型おもちゃ店トイザらスの進出に味をしめた米国は、規制緩和、市場開放の標的として日本の商業分野を位置づけ、米巨大流通資本の大規模参入を狙っているのである。

 ここに今日の「改革」、市場開放や規制緩和の本質がある。売国的なわが国支配層、その中枢をしめる多国籍大資本は、米国の要求に屈し、中小商工業者など国内各層を犠牲にし、国内市場を明け渡すことで、国際的な大資本間の競争での生き残りを果たそうとしているのである。

全国商店街の危機感

 しかし、「大店法のこれ以上の規制緩和は認めない」という中小小売商の固い意思には、正当な根拠がある。

 大店法の段階的緩和による大型店の進出、あるいは長期不況などによって、全国の中小小売商は存亡のふちにある。すでに中小小売商(従業員一〜四人)は三年前に比べ約十四万店減少の約百十三万五千となり(九四年、その前の三年間は約五万店の減少)、この四月に発表される商業統計では、一段と深刻な実態が浮かび上がるだろう。さらに各種調査でも「シャッター通り」といわれる程、商店街の空き店舗が急増、商店街の「停滞あるいは衰退」傾向は急進展している。

 しかもこの状況に拍車をかけるのが、大型店進出計画だ。二〇〇〇年までに五百五十七店、約七百七万平方メートルの計画があるという。

 その一方で、大型店はいったん進出しても、もうからなければ直ちに撤退する。例えば、西友二十店、ジャスコ六店、カインズ(ホームセンター)十七店という撤退計画がある。これは直ちに町の空洞化を引き起こす。わが国内外の巨大流通資本にとって、町づくりなどはおよそ関係ない、まさに資本の論理のみによって動くのである。こうした傍若無人な大型店の振る舞いを許してはならない。

改革反対の国民的戦線の拡大を

 商店街の危機的状況を背景に、電器商や商店街振興組合など中小小売商が危機突破決起大会を開くなどあいついで立ち上がっている。

 こうした闘いの流れが、現行の大店法に基づく大規模小売店舗審議会(大店審)の審議に反映して届け出店舗面積を大幅に削減される事例が目立ってきた。さらに、川崎市、東京・荒川区などの地域環境を重視した事前協議制度のように、自治体独自で規制を強化する動きも強まっている。

 全国商店街振興組合連合会や日本商工会議所など中小企業関係八団体は昨年十二月、「大店法のこれ以上の規制緩和は厳に避け、現行法の枠組みを存続させること」という意見書を出している。

 一方、自民党は、参院選も計算にいれて中心市街地活性化策なるもので、ごく一部地域、商店街にアメ(財政)をばらまき、小売商の分断を画策しようとしている。しかし、圧倒的多数の中小商店は切り捨てられ、零落させられる。中小商業者は、こうした支配層の分断策動を見抜き、大店法廃止に断固反対し、大型店の経済的・社会的規制の強化のために闘いを強めなければならない。

 「改革」と規制緩和推進で自民党と同じ土俵に立つ議会内野党が、本質的に無力で、頼むに足りないことは明らかである。とりわけ共産党は、「大店法改正案」を提案するなど、この闘いの発展を議会の枠に押しとどめることに必死である。今日の国会の力関係の中で、かれらの「対案」が、どれほどの現実的意味を持つというのか。

 この闘いの発展のカギは、あくまで商人が自らの力に頼り、国会に押し掛け、米大使館に抗議を行うなど、断固とした大衆行動を組織することにある。あわせて、積極的に労働者、各階層と連携し、国民的世論を盛り上げることである。

 また、労働法制の規制緩和などと闘う労働者階級、労働組合はこれら商人の要求を断固支持して、ともに闘わなければならない。

 長期不況と金融不安の拡大、アジア通貨・金融危機の波及の下で、財政改革を事実上放棄せざるを得なかったように、橋本「改革」政治はいま、内外の抵抗の前で立ち往生しようとしている。

 多くの商業者は、今日、橋本の「改革」政治に対する厳しい反対勢力として登場している。戦後の保守政治の一つの支持基盤として機能してきた、中小商工業者の抵抗、反乱は、窮地の橋本政権をいっそう追いつめる重要な勢力となるに違いない。

 大衆的基盤のある国民運動を発展させ、大店法廃止を阻止しよう。

 国民の団結した力で、橋本「改革」政治を打ち破ろう!


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