980225 社説



中東支配のためイラク危機を演出する米帝国主義

中東に敵対するわが国外交政策の転換を


 イラク政府の国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)の査察拒否を口実とした、米国による一方的な武力行使の準備が進む中で、中東、イラク情勢は緊迫の度を高めた。

 二月二十三日、調停に乗り出した国連のアナン事務総長とイラク側との間で、平和解決に向けた一定の合意が形成されたとの報道がなされているが、米国は「調停作業と関係なく、武力行使の準備を進める」(バーガー米大統領補佐官)と空爆準備体制を崩していない。米国はイラク周辺に空母三隻(英の一隻を含む)の機動部隊を派遣、三百四十機の航空機、三万人もの地上部隊を動員して、あからさまな脅迫と戦争準備に狂奔している。

 国際世論と中東、湾岸諸国、人民多数の意向を踏みにじる、米国による無法、理不尽な戦争挑発、イラク攻撃の策動を断じて許してはならない。

イラク制裁、「査察」は米国の中東支配戦略

 九一年の湾岸戦争停戦以降、今日まで米国は国連決議をたてに、イラクに過酷な経済制裁を加え続けてきた。また、核、大量破壊兵器疑惑をあおることで、この地域に膨大な米軍を駐屯させ続け、すきを見ては爆撃など戦争挑発を繰り返してきた。これら米国の行動は、中東、産油地域での支配力を維持し続け、安価で安定的な石油資源を確保し、資源戦略上も世界一極支配を狙おうという、米国の帝国主義的な政治・軍事戦略に沿ったものである。

 先の湾岸戦争の本質、米国の狙いもまた、そこにあったことは明白である。

 ラムゼイ・クラーク元米国務長官は、「湾岸戦争」という著書で「中東で戦争を望んでいたのはイラクではなく、米国だった。つまり巨額な予算を維持したい国防総省、中東への武器販売と国内の軍事契約に依存する軍需産業、原油価格に対する支配力強化と利益の増大を望む石油会社、ソ連の崩壊を米軍の中東常駐の絶好の機会と考え、石油資源の支配により巨大な地政学的勢力を二十一世紀に向け構築しようとするブッシュ政権だった」と暴露している。米国政府元高官のこの言葉は、米国の帝国主義強盗戦争の本質を語るに余りあるものである。

 湾岸戦争後も米国は、反米、アラブ民族主義のとりでであり、米国の中東支配の脅威であったイラクを、徹底的に弱体化させ、二度と立ち上がれないようにしようと、一貫して画策してきた。

 米国が作成した国連による湾岸戦争停戦決議は、戦争終結、イラク軍のクウェート撤退で、本来根拠のなくなった経済制裁の継続をイラクに強制し続けるものであった。また、イラクの軍事力の解体、無力化を狙って、「大量破壊兵器」の廃棄とそのための「査察」を義務づけた。米国はこの七年、疑惑を騒ぎ立て「査察」を果てしなく継続し続けることでイラクへの内政干渉、スパイ行為を繰り返した。さらに「査察」が継続していることを根拠に、経済制裁解除を拒否し続けてきたのである。米国の最終的意図は、サダム・フセイン政権の瓦解、親米政権の樹立まで制裁を解除せず、イラク国民を締め上げ続けるということである。

 イラクは今日まで、原油輸出を原則禁止されて、外国製品の輸入も管理、制限されている。人道目的に限られたわずかな原油輸出と医療、食料品などの輸入も、米国によって妨害され、国民生活は深刻な危機に追い込まれた。例えば、救急車さえ軍事目的に転用可能などとされて、輸入が差し止められた。急病でも事故でも救急車が足りず、手遅れとなるケースが続出している。また、医薬品、食料も不足し、毎月約四千五百人の子どもたちが死んでいる。このような現実が、停戦と制裁の実態であり、イラク政府は、この米国の圧力と闘い続けてきたのである。一方的な「査察」に抵抗し、経済制裁解除を要求するイラクの主張は、独立国として当然の態度である。

米国追随で中東諸国に敵対するわが国政府

 今回の「イラク危機」では、これまでにもまして米軍の軍事行動に対する国際的世論の反発は大きい。国連安保理常任理事国でも米国の武力行使を容認しているのは、イラクの旧宗主国イギリスのみである。フランス、ロシア、中国は強く武力行使に反対し、平和解決のための努力を続けてきた。また中東、湾岸諸国でも米国の横暴に対する強い警戒感が高まっている。サウジアラビア、バーレーンなど湾岸戦争時に米軍の出撃拠点として重要な役割を果たした湾岸諸国も、今回は基地使用を拒否した。米軍増援部隊が集結するクウェートですらサレム国防相が「米英軍の駐留はクウェートを守るためでイラク攻撃の為ではない」と言わざるをえなかった。

 パレスチナ、イエメン、ヨルダンなどでは、反米、イラク支持のデモが数千の民衆によって闘われた。

 まさに、米国は決定的に孤立していたのである。しかし、このような中で、橋本首相は、オリンピック期間中の十三日、いち早く「すべての選択肢をとる余地が残されているという米国の見方を共有する」と、米国の軍事行動を支持する態度を表明したのである。橋本政権は、こうすることで平和解決を希望する国際世論の多数、そして、中東、湾岸諸国に明確に敵対する道を早々と選択したのである。

 これはまた、平和解決にむけた各国、国際機関のさまざまな努力に泥をかける国際社会での孤立の道でもある。「核攻撃の可能性」まで言明した米国の戦争政策を「共有する」など、まさに無責任、犯罪的な態度といわねばならない。

 しかも、日米安保体制の下、米軍の軍事行動へのわが国の協力は、現実に進められてきた。一月二十三日には米空母インディペンデンスが、事実上の母港とする横須賀基地から、ミサイル巡洋艦バンカーヒルなどとともに中東へ向けて出港した。米海兵隊岩国航空基地などでは、インディペンデンス艦載機による激しい離発着訓練が、昼夜を分かたず開始された。また沖縄・嘉手納基地からは二月上旬、F15戦闘機十二機がタイ、シンガポールとの合同演習に参加する名目で飛び立った。防毒マスクをつけた米海兵隊による上陸訓練も開始された。わが国は、米軍の中東への出撃拠点としての役割をまたもや果たしたのである。

 原油輸入の八二%をも中東地域に依存するわが国にとって、中東、湾岸諸国に敵対するこの選択が、わが国の長期の真の国益に反することは明白である。橋本政権の、対米従属で亡国の選択を強く糾弾しなければならない。

米国と同じ土俵に立つ共産党

 このような中で、議会内の各政党は一様に米国追随で、なんの抵抗もみせてはいない。一見米国の武力行使に反対したかに見える共産党も、この点では全く同じである。彼らは「国連査察団にたいするイラク側の対応には国際的に容認しがたいものが」あるとか「フセイン政権が、全面査察を受け入れるべきだというのは、一致した国際世論」(しんぶん赤旗)などと、米国やわが国政府とまったく同じ立場に立っている。この連中の見解は「平和解決」が望ましいと言うだけで、米国の中東戦略も「査察」問題の本質も暴露せず、結局は「査察を拒否するイラクが悪い」と、米国の行動を容認する以外の何物でもないのである。

 無力なばかりか犯罪的でもある。この連中の態度を暴露して闘うことは、わが国の真の国益を守り、独立・自主の国の進路をかち取る上できわめて重要な課題である。

 米国は今、中東支配のためのもう一つの策略であったイスラエル主導の「中東和平プロセス」もとん座し、中東戦略全体の危機に直面している。中東諸国の反米機運は高まり、米国の孤立はなおさら深まるに違いない。このような中で、軍事力で抑え込もうとする、米国の画策も強まるだろう。

 米国の危険な戦争策動を打ち破って、中東諸国との真の友好をかち取るために、わが国の自主的な進路をかち取る闘いをいっそう強めなければならない。


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