980215 社説



ヘリ基地拒否の沖縄県民の意思は明確

米軍基地撤去、日米安保の再編強化反対!

沖縄の声を全国へ


 二月八日に投票が行われた沖縄県名護市長選挙で、米軍海上ヘリポート基地建設反対を争点として訴えた玉城義和候補は、一千余票と、まさに僅差であったが、残念ながら勝利することができなかった。

 相手陣営が、徹底的にヘリ基地問題を争点からはずそうとしたこと、前市長の陣頭指揮で地縁、血縁を利用し保守地盤を固めたこと、さらに政府、自民党による北部地域振興策をえさとした露骨な介入と利益誘導が行われたことなど、敗因にはいくつかの要素が考えられる。闘いの総括は、地元選対を中心に、県民と沖縄に心をよせ支援を続けてきた国民多くの中で深められる必要があろう。

 いずれにしても、売国的なわが国政府と日米安保体制そのものを揺さぶる沖縄県民の闘いは、歴史上の大きな闘いの経験と同様、曲折が避けられないものである。われわれは、沖縄県民がこの市長選挙での敗北という一つの経験から多くを学んで、再び力強く前進を開始することを確信している。

沖縄県民の意思をねじ曲げる政府、自民党

 ところで、許し難いのは政府の態度である。政府は、「前市長の意思を受け継いだ候補が勝利したことは喜ばしい」(村岡官房長官)、「(基地受け入れを認める)新たな民意が示された」(政府筋)などと、この選挙結果を、あたかも市民がヘリ基地受け入れを選択したかのように描き出そうとしている。橋本首相は市長選の選挙結果を受けて「基地建設へ全力を尽くす」などと表明した。

 とんでもないことである。はっきりさせなければならないのは、沖縄県民の意思は、すでに明確に示されているということである。

 すでに名護市民は、昨年十二月二十一日、血のにじむような努力によって、海上ヘリ基地建設の是非を問う市民投票を実現している。橋本政権のすさまじい介入にもかかわらず、市民投票の結果は基地建設反対票が過半数を超え、「米軍基地はいらない」「カネで沖縄の心を売らない」という意思を鮮明に示した。

 この投票の過程で、政府、自民党は「特別措置法」の制定などさまざまな「地域振興策」をふりまき、また防衛庁職員などを動員し、賛成票の獲得に懸命であった。しかし、バラ色の懐柔策にもかかわらず、海上ヘリ基地建設反対の意思を名護市民は明らかにした。沖縄・名護のヘリ基地問題での民意は明確である。

 この市民投票の結果を受けて、沖縄県大田知事は二月六日、名護市沖の海上ヘリ基地建設反対を正式に決定している。

 大田知事は記者会見で、反対理由として名護市の市民投票の結果を指摘し、「建設に反対する多くの県民の意思は『基地のない平和な沖縄』を実現するという県政運営の基本理念に合致する」と述べた。また「沖縄の基地は米軍により不可抗力的に作られたもの」だが、「県が容認して米軍の基地を新たに作らせれば、これまでとは性格が違ってくる」と指摘した。

 米軍基地に苦しめられてきた沖縄県民の声を反映した大田県知事の判断は当然である。

 こうした事情から、名護市長に当選した岸本氏でさえ「この問題はすでに解決済み」と言わざるを得ず、そして「大田知事の決定に従う」と九日に表明しているのである。

 アメリカに追随し、日米安保共同宣言の具体化を急ぎながら、「沖縄振興策」をちらつかせ、「アメとムチ」の政策で沖縄問題を乗り切ろうとした橋本政権の思惑は失敗し、重大な困難に直面しているのである。

 大田知事のこの決断に対して政府、自民党は、「反対は残念だが、知事が決めたことだから。ただ、これで普天間は返らず、振興策もなくなる」などと悪意に満ちた脅しを加え始めている。

 また鈴木沖縄開発庁長官は選挙後、新市長の下で名護市へのヘリ基地建設が受け入れられ、「国策に協力してもらう場合には、沖縄振興予算の傾斜配分も検討する」などと露骨な利益誘導を持ち出し、さらに北部振興策に関しても「ヘリポート問題に協力的な自治体とそうでない自治体に区分して、さじ加減を加える」などと、悪質な分断策を表明している。

 まさに、沖縄県民の顔を札束で叩くようなごう慢な態度であるが、これはまた、追いつめられた政府の焦りの表れでもある。

 このような政府の画策は逆に沖縄県民の怒りを拡大させ、日米特別行動委員会(SACO)合意と政府のいう「沖縄振興策」のぎまん性を、広く暴露するものとなるであろう。

 一九九五年九月の米兵による少女暴行事件を一つの契機に沖縄県民の米軍基地撤去、地位協定見直しの要求は大きく高まり、沖縄の各界が力を合わせた「島ぐるみ闘争」へ発展した。そして、この闘いは平和を求める全国的な闘いとなって広がり、日米安保体制の根幹を揺るがすものとなった。

 この期間、沖縄県民はいく度もの曲折を乗り越え、実にねばり強く米軍基地の撤去・縮小を求めて、運動を前進させてきた。一方、日本政府は、ただの一度も本格的な基地縮小の努力、対米交渉を行ってはこなかった。むしろ、アメリカの戦略に追随し、引き続き沖縄の犠牲の上に、日米安保体制の維持と強化に奔走している。九五年以来、橋本らがやったことは、基地撤去はおろか縮小でもなく、基地ころがしに過ぎない。振興策と基地建設という懐柔、分断策を弄して、沖縄県民にさらに大きな苦難を強いてきた。こうしたまやかしがいつまでも続くはずはない。沖縄県民は、必ずや政府の懐柔策など画策を打ち破って、前進するに違いない。

本土、沖縄で画策される米軍基地の機能強化

 一月九日、山口県岩国では、米空母インディペンデンス艦載の戦闘攻撃機による発着訓練が予告もなく始まった。訓練は昼夜を問わず、しかも連日続き、騒音苦情が市民から市や基地側などに殺到した。驚いた県や市が再三、中止を米軍に要請をしたが、訓練は平然と続行された。夜間離発着訓練(NLP)については、これまで、一週間前までの通告、滞空三機以内、午後九時まで、といった申し合わせがあったが、今回これが完全に無視されたのである。理由は米軍の「緊急の基地運用」ということが明らかにされた。

 いま同空母は、ペルシャ湾を航海中で、イラクを武力攻撃するための配置についている。また二月九日、米軍戦闘機が沖縄嘉手納基地から発進、中東に向かった。イラクへのおよそ無謀、道理もない武力攻撃のために沖縄、本土の米軍基地が動員されている。

 空母が中東に向かうため「緊急の基地運用」、これが新ガイドライン具体化の一つの姿である。日本の米軍基地は、アメリカの世界戦略に従い、ますます高度に利用されている。日本政府は、アメリカの戦争政策への手厚い支援と協力を、新ガイドラインによってますます果たそうとしている。

SACO合意を破たんさせ、橋本政権を追いつめよう

 沖縄県民と全国民の基地撤去、安保破棄の闘いは新たな局面を迎えようとしている。

 沖縄の米軍基地問題、海上ヘリ基地問題は、日本の進路を左右する国民全体の問題である。そして海上ヘリ基地阻止は、米軍基地による事件・事故や環境破壊から沖縄県民の暮らしを守り、沖縄の美しい海を次の世代に残す問題でもある。米軍基地の県内移設でお茶をにごそうとするSACO路線を破たんさせ、アジアの平和と安定を妨げる日米安保共同宣言や日米防衛協力指針の具体化を阻止しなければならない。

 大田知事は「反対」を表明した。全国から知事の決断への支持を表明すべき時である。県民の要求した沖縄振興策を無条件で実施するよう政府に求めなければならない。

 SACO合意の破たんにとどまらず、改革政治の後退を余儀なくされ、もはや橋本政権の政治命脈はつきている。

 断固として闘えば局面は開ける。いのちこそ宝、闘いこそ力である。


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