971125 平田順子


 データでみる日本経済

 「改革」が経済危機に拍車


 十月の株暴落に続き、十一月には山一証券や三洋証券、北海道拓殖銀行の「倒産」・廃業などが戦後かつてない事態があいついだ。橋本政権は、経済企画庁の十一月月例経済報告でついに「回復基調」を削除、「景気は足踏み」と評価を後退せざるを得ない状況に追い込まれた。深刻な日本経済の危機的状況について、経済データなどをもとに概観をみてみる。


 最近、日本の金融システムを大きく揺るがせたのは、十月二十三日の世界同時株暴落である。日本では五百三十六円安の一万七千百五十一円まで急落した。その後も株価が回復せず、乱高下を繰り返し、十一月十二日には一万五千四百三十四円まで下落。十一月二十三日現在、一万六千七百二十一円までしか回復していない。
 株暴落は、日本の金融機関に大打撃を与えた。銀行が持っている株式に含まれる利益が急速に目減りしたのである。十一月十三日の一万五千四百二十七円の水準での試算で、大手銀行二十行の保有株式含み益が今年三月末より五兆円以上減少し、うち九行の含み益はゼロまたはマイナスとなったといわれる(スミス・バーニー証券試算)。
 十七日に「倒産」した北海道拓殖銀行は七日の時点で五百億円の含み損を抱えており、株暴落が「倒産」への重大な一因になったと思われる。山一証券の場合は、株価急落で投資信託の解約などで資金が流出し、廃業に追い込まれた。
 株価低迷で「景気後退から経済危機におちいる可能性」(嶋中雄二・三和総研)を指摘する声もあり、金融不安を抱えるわが国は、他の先進国以上に経済への打撃は大きいといわれる。
 そもそも株価が回復せず低迷しているのは、実体経済の深刻な不況が背景にあるからだ。

労働者・中小企業に犠牲

 九七年度の経済成長率は政府見通しの一・九%を大幅に下回り、〇・五%程度になると見込まれている。国内総支出のなかでシェアの大きい民間消費(約六割)と民間の設備投資(約二割)は冷え込み、景気を大きく後退させている。
 総務庁の家計調査によると、勤労者世帯の消費支出は消費税が増税された四月にマイナス七・三%(対前月比)まで落ち込んだ。それ以降も九月で〇・四%(同)と低迷が続いている。
 消費支出の内訳でみると、四月以降、食費が九五年の水準を下回ることが多く、家計の支出がかなり引き締められていることがわかる。また、階層別では低所得者層の消費低迷が目立っている。
 また、収入の面からみると、勤労者の実質賃金(規模五人以上の事業所)は、九月がマイナス一・三%(前年同月比)と減少している。完全失業者も一年前より十二万人増え、二百三十六万人に上っている。
 このように消費税や公共料金・医療費の引き上げ、特別減税廃止など総額九兆円にのぼる国民の負担増と、雇用や賃金などの先行き不安で、国民は食費まで削るほど消費を抑えている実態がある。四月以降の消費低迷は、「改革」絡みの国民負担増が国民生活に深刻な打撃を与えていることを明白に物語っている。

 民間消費の次に景気動向に影響するのが民間企業の設備投資である。経済企画庁の発表では九月の設備投資の先行指標となる機械の民間需要(船舶・電力を除く)は前月比マイナス一二・三%となり、二カ月連続のマイナスとなった。七〜九月期の機械受注額は前期比五%減少している。
 さらに中小企業を中心とした倒産も増えている。十月の倒産件数は前年同月比二〇%増の千六百十四件となった。とくに公共事業の削減で建設業が四八%と大幅に増えた。倒産にともなう負債総額も九兆二千五百七十四億円に達し、一月から十月までの十カ月間で、過去最悪だった九五年一年分をすでに上回っている。これは消費低迷による売り上げの減少や大企業の合理化によるコストダウン要求のほかに、銀行の経営悪化による貸し渋りが中小企業の経営を圧迫しているためだ。株価低迷による銀行の資産減少でさらに貸し渋りが出てくるだろう。これから年末にかけてさらに倒産は増えることが予想される。

行き詰まる橋本政権

 これほど日本経済が深刻である背景として、膨大な不良債権を抱えた金融システムや国家財政の赤字などの構造問題が指摘されている。政府は「財政改革」を最優先するというが、これは多国籍大企業が「大競争時代」に勝つためのコスト削減にすぎない。むしろ深刻なのは六十四兆円におよぶ景気刺激策を行っても効果がないほど国内経済が冷えきっていることである。橋本政権の「改革」政治は、深刻さを増す不況に追い打ちをかけているのだ。そして経済の行き詰まりで選択肢が狭まり「改革」が進まず、橋本政権はジレンマにおちいっている。
 本来、経済を発展させるには国民生活を豊かにする以外になく、消費税の撤廃、減税や医療費などの負担の軽減、大幅な賃上げを行い、真に民需を拡大する以外に道はない。しかし、多国籍大企業の「番頭」である橋本首相にそれができるだろうか。
 これほどの不況のなかでも多国籍大企業は空前の企業収益を上げている。トヨタ自動車は今年上半期の営業利益が二千八百五十三億円(三八%増)と過去最高を記録、大もうけをしている。大多数の国民をしめあげ、輸出で稼ぐ従来の経済システムでは真の経済発展はのぞめない。
 経済政策を大多数の国民の側に大きく転換させる闘いが求められている。


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