971125 社説
対米追随の「ユーラシア外交」
領土主権売り渡した売国橋本政権
十一月一日と二日の二日間にわたり、東シベリア・クラスノヤルスクで、橋本首相とエリツィン大統領は、非公式首脳会談を行った。当初、首脳同志の個人的信頼を深めるのが目的とされた今回の会談は、公式会議のいっさいない、きわめて異例なものだった。
「領土問題で前進」と伝えられた日ロ首脳会談だが、その実態は、日本の自主性のない、無様な外交姿勢が暴露された、最悪のものであった。橋本は「成果」を強調し、危うくなった自らの政権基盤のうち固めに必死だが、この売国分子のぺてんを暴露し、世論を喚起して、対米追随のわが国外交の根本的転換をかちとらなければならない。
「領土問題で前進」のペテン
発表によれば、日ロ両首脳は九三年の「東京宣言」に基づき、二〇〇〇年末までに平和条約締結をめざして全力を尽くすことで合意したという。政府・外務省は「平和条約の締結は、当然、領土問題の解決を前提にしている」とその「予想外な」成果を宣伝、マスコミも「日ロ関係の歴史的転機を歓迎する」と論評した。
しかし、どのような意味で「歴史的転機」なのか、ここは事実を確認すべきであろう。
今回の首脳会談では、この平和条約に関する合意のほかに、二〇〇〇年までに両国が重点的に取り組む、経済協力の新たな枠組みである「橋本・エリツィン・プラン」が合意された。これは、日本企業のロシアへの投資の促進、極東、シベリア地域での石油などエネルギー開発での協力強化などを盛り込んだもので、具体的には投資保護協定の締結に向けた協議開始、シベリア鉄道輸送網の復興支援、ロシアの中小企業の育成支援などが明記されている。エリツィン大統領は「最も重要なのはこのプランで合意したこと」と述べて、経済面での成果を強調した。
さらに橋本首相は、ロシアが念願している、アジア太平洋経済協力会議(APEC)への加盟問題について、これまでの消極姿勢を一転させ、これを支持する立場を初めて表明、エリツィン大統領を喜ばせた。
まさに、大判振る舞い。市場経済化の混乱の中で、国内経済に困難をかかえ、政権の動揺にもつながりかねないエリツィン大統領にとっては、願ってもない支援策である。また、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大で、不満を高めるロシアにとっては、東方、アジア太平洋外交の出口を探す上で、APEC加盟で日本の支援を取り付けたことの意義も大きい。
一方、わが国政府は北方領土問題で「進展」などと騒ぎ立てているが、この実効性には何の保障もないのである。会談をつうじて領土問題の解決が、明記された事実はない。そもそも、公式会談で共同声明として確認されたわけでもないのである。今後の事態の推移は、まるで流動的といわねばならない。
会談に同席したネムツォフ第一副首相は、ロシアのマスコミ関係者にこれまでどおり領土を返還する考えのないことを強調し、ロシアのマスコミも北方領土問題には一言も触れず、平和条約の「二〇〇〇年末までの締結努力に合意」とのみ報じているのである。
領土主権放棄した「ユーラシア外交」
今回、領土問題をかかえる対ロ外交方針を、明確に転換したのは橋本首相であった。
そもそも、今回の会談はロシアの参加でG8となった今年のサミットを契機に、橋本首相がいいだしたもので、背景には米国の強い後押しがあった。
橋本首相は七月、経済同友会での講演で、「ユーラシア外交」と呼ばれる新たな対ロ、対シルクロード地域外交の方針を打ち出した。
橋本首相は「日本外交の基本的目標は、アジア太平洋地域における平和と繁栄の維持であり……日米安保体制の維持や、ARF、APECを通じたこの地域での枠組みづくりが、わが国にとっての基本的な外交政策である」としながら「日本外交は、冷戦後の国際関係の大きな転換の中で、こうしたアジア太平洋地域へ向けた外交の地平を大きく前進させなければならない」と述べ、対ロシア関係の改善及び中央アジア地域との外交関係の拡大をあげたのである。
ここで橋本首相は、対ロ関係改善の新原則として「信頼、相互利益、長期的な視点」の三点を示したが、これは「長期的視点」で事実上、領土問題は先送りして、「相互利益」の名の下に経済交流を先行させ、「信頼」の原則でアジア太平洋地域での、ロシアとの戦略的パートナーシップをめざそうというものである。
新外交の売国的な狙い
この新外交戦略の狙いがどこにあるかは明らかである。橋本首相は「日米安保共同宣言」で踏み込んだ安保再定義の路線の下、米国のアジア戦略に忠実に従って、対ロシア、対シルクロード諸国政策を転換しようとしているのである。
この転換でねらう戦略的布陣のターゲットは中国である。
「日米安保共同宣言」は、冷戦後の米国の新たな世界・アジア戦略に従い、わが国の進路をそれに縛り付ける戦略的な同盟を意味した。
クリントン米大統領は、昨年十一月、オーストラリア議会での演説で、自らの新しいアジア政策の実現のため、(1)日米安保同盟を軸とする同盟関係の強化、(2)対中国関与の強化、(3)民主主義の拡大、を追求していくことを表明した。アジアの権益確保のため、日本を安保体制で動員し、最大の仮想敵中国に対しようというのである。対中国関与政策は、中国を包囲しつつ、西側のルールに引き込み、社会主義中国の瓦解、「普通の国」化をねらう戦略である。
「日米安保共同宣言」で、わが国はこの米国の戦略の片棒を担ぐことを選択したのである。それは、政治、経済、軍事のすべてにわたって、米国の戦略に追随し、その戦略を「共通の価値観」として、アジア、特に富強化する中国に敵対する道であった。
今回の「ユーラシア外交」もこの具体化に過ぎない。国際的発言力を増す中国に対し、沖縄、台湾海峡からオーストラリアにかけての太平洋側と同時に、ロシア、中央アジア諸国を引き込むことによって、その裏側からも包囲網を形成しようというのがこの戦略の狙いである。
橋本首相は、わが国の北方領土に対する領土主権を投げ捨ててまで、ロシアの歓心を買い取り、この米国の対中国包囲戦略のお先棒を担いだわけである。
これは、中国はじめアジアとの共生を通じてこそ守られる、二十一世紀のわが国国益を、米国のために投げ捨てると共に、わが国領土主権までも放棄するに等しい、二重の意味で売国的な態度である。
新たな時代、従属外交の清算を
今日、冷戦後の東アジアの新たな秩序構築に向けて、中、米、ロ各国は、それぞれ活発な外交戦略を展開し始めた。米国は、すでに述べた「東アジア戦略」にそって、その覇権を追求しようとしている。しかし、富強化する中国は、その前に大きく立ちはだかっている。
日ロ首脳会談に先だって開催された中米首脳会談では、アメリカの数々の反中国策動にもかかわらず、国際政治に大きく登場してきた中国の力をまざまざと見せつけた。クリントン大統領は、議会の反中国勢力を押え込んで「戦略的パートナーシップ」を求めざるを得なかった。
一方、中ロ関係も、新たな進展を見せている。今春モスクワで行われた江沢民・国家主席とエリツィン大統領との中ロ首脳会談は、米国の一極支配に反対し「世界の多極化」を求める共同宣言を発表した。そして十一月十日、北京で行われた首脳会談では、国境確定とともに「ユーラシア大陸・太平洋地域の安保、安定、経済的進歩のために重要な友好、協力関係を発展させる」という戦略的パートナーシップの構築で合意したのである。世界は、新たな秩序構築に向けて動きだしている。これらの東アジアをめぐる国際的な枠組みのダイナミックな変動の中で、わが国の対米従属で、自主性のない外交は、目を覆うばかりである。
多極化を求める世界の流れに逆らい、反中国の画策を強める売国的な橋本政府を打ち破り、自主、平和でアジアとの共生を求める新たな国の進路を実現することは、まさに急務である。
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