971105 社説


 米国の不当な対日制裁に屈した政府

規制緩和は港を破壊する


  米連邦海事委員会(FMC)による日本の社船舶に対する課徴金徴収や入港停止など不当な制裁措置の発動で、日米経済摩擦の最大の焦点として注目されていた日米港湾協議が十月十七日、日本政府の屈服という最悪の形で決着した。
 この合意で、日本の港湾で働く労働者の雇用や労働条件を守るために、長い時間をかけて築き上げられた「事前協議」という労資慣行が骨抜きにされ、また米国の船会社が港湾荷役に無秩序に進出するなど、日本の港湾荷役事業は、重大な脅威にさらされることとなった。
 また許しがたいことは、これを契機として政府が、港湾事業分野での規制緩和を強力にすすめようとの動きを強めていることである。
 港湾労働者の雇用と権利を守り、港湾事業の公共的性格を守るために、米国の不当な圧力をはねかえし、政府の規制緩和の攻撃を阻止する力強い反撃が求められている。

不当な米国の対日制裁

 米海運業界は、日本の港で労資慣行として定着してきた事前協議制について、「米海運会社に好ましくない状況をもたらしている」「米企業を差別している」などという言いがかりともいうべき主張のもとに、その撤廃を強く要求してきた。米国の海運当局、FMCは昨年十一月、この一方的な言い分と要求を日本に飲ませるため、日本郵船、大阪商船三井船舶、川崎汽船の三社を対象に、制裁措置をとることを提案、日本の港湾当事者の協議と日米間の政府レベルの協議が続いているにもかかわらず、この九月四日からは、一方的にその実施に踏み切っていた。制裁措置の内容は、日本の船会社三社の船が米国に寄港するたびに一隻あたり十万ドル(約千百万円)の課徴金をかけるというもので、これは年間累計で五十億円にのぼる巨額の負担を日本の船会社に強いる、まったく不当で乱暴なものであった。
 四月に行われた日米政府間協議では、すでに日本政府は、米国の制裁を振りかざした強硬な要求に屈する形で(1)港湾荷役にかかわる労資慣行である事前協議制の是正。(2)港湾運送事業免許の条件付き開放の二つを受け入れさせられていた。しかし米国は、この合意にも満足せず、事前協議制の実質解体と、アメリカ港運業者の日本の港運事業への新規参入問題で、日本政府、運輸省の介入と保証を取り付けようとした。
 FMCは、九月以来の制裁課徴金が支払われていないことを理由に、この十月十七日を期限とした日本船の入港停止処分まで決定し、港湾協議での日本側の一層の屈服を強く迫ったのである。
 米国の一連の制裁措置が、最恵国待遇を約束した日米通商航海条約に違反することは明白である。「沿岸警備艇の出動要請」「日本船の抑留」「入港阻止」などと騒ぎ立てた強引なこの制裁措置は、米政府内部でも「貿易問題の解決法としては異例」(マイク・マカリー大統領報道官)といわれたほどである。
 しかし日本政府は、日米貿易の四割を占める「大動脈」たる日本の海運業に対して「港湾封鎖」という米国の脅した。なすすべもなく屈服し、港湾労働者の雇用や就労条件を犠牲にし、また資本力の弱い日本の港湾事業者を切り捨てる最悪の決定を行ったのである。

米国の狙いは国益追求

 今回の主な合意内容は、(1)寄港地、労働条件の変更などがある場合に、海運会社と港湾労組に義務付けている事前協議制度の協議対象を現在の七項目から削減する。(2)(米国企業の参入を容易とする)荷役業者の免許手続きを簡素化する。(3)外国船会社が日港協を介さずに、円滑に荷役業務を委託できるよう環境を整える。(4)日本政府は法律の許す範囲で港湾荷役の制度が効率的に機能するよう関与する、などであった。
 これはまさに、事前協議制と荷役業者の免許制度の実質解体を意味するものであり、港湾事業の全面的規制緩和、市場開放に道を開くものである。
 これらの合意内容に、クリントン米大統領は、訪問先のアルゼンチンで「米国の海運業者が国際市場で競争し、勝利をおさめることになるだろう」と、満足げな声明を発表した。まさにこれは、米国の狙いを物語るものである。
 米国は、自らに都合の悪い日本の労資慣行にまで介入し、規制緩和を迫り、この分野での競争力ある自国企業の参入を確保すると共に、米海運業界のために港湾荷役業務でのコスト削減を実現しようとしているのである。米国の求める規制緩和や、「不公正な慣行の打破」などの言い分の本音が、自国企業の優位性確保にあることは明らかである。

港湾の公共性破壊する規制緩和

 事前協議制度は、港湾労働者の雇用と労働条件を守ることを目的に、労使協約として一九七九年から実施されているものである。
 機械化で作業員が少なくてすむ新型船の新たな配船や、寄港地の変更のたびに港運業者(日本港運協会)が労働者(全国港湾労働組合協議会など)、船会社(日本船主協会、外国船主協会)と別々に事前に協議して、三者合意の上で船舶の受け入れを決めることがその内容である。これは、船社や荷主など港湾利用者の一方的な事情で、港湾労働者の雇用不安や労働条件悪化になるような事態を防ぐための制度であり、わが国の安定的な港湾事業の維持に効果をあげてきた。
 この事前協議制度が廃止されれば、港湾荷役作業は大企業を中心とする港湾利用者の都合のみが優先され、港湾労働者の権利が奪われ、中小の港湾事業社が淘汰(とうた)されると共に、もうかる船の荷役優先で、港湾事業法に定められた港の「公共的な事業」としての性格は大きくゆがめられることになる。
 「高コスト構造を解消するために避けて通れない日本自身の問題」「政府はこれをきっかけに港湾運送事業に大手物流業者の本格的な新規参入を促」せ(日経、十月二十三日社説)と財界は、今回の外圧を最大限利用し、一連の改革政治の一環として、港湾事業の規制緩和を進めようとしている。
 しかし、事前協議制などの港湾の諸規制は、歴史的に形成されたものであり、根拠ある措置であり、この撤廃は中小港湾事業社者と労働者に犠牲をおしつけ、港湾運送事業に混乱をもたらす最悪の事態を生み出すだけである。

広範な連携で規制緩和攻撃打ち破れ

 日本政府は屈服したが、国内調整はこれからである。断固とした闘いが求められる。
 日本の港湾労働組合は、この間、理不尽な米国の要求とこれに追随し、規制緩和の名で米国と大企業の利益を優先し、日本の港湾とそこで働く労働者の利益を守ろうとしない政府の姿勢を暴露して闘ってきた。
 わが国港運業界は今日でも、過当競争にあえいでいる。理不尽な米国の要求と規制緩和で、中小港運業者は存亡の危機にたたされるだろう。抵抗は高まらざるを得ない。
 今日、橋本内閣の六大改革の具体的な姿が明らかになるにつれ、これに反対する闘いも大きな進展を見せつつある。郵政三事業の民営化はざ折を余儀なくされている。行革攻撃に対し公務員労働者も闘いに立ち上がっている。大型店の出店規制緩和に反対する中小業者の闘いは、大きな発展を見せている。
 「規制緩和の結果がどうなるのかということについて次第に国民に理解されてきている。規制緩和の闘いを広げる意味で、われわれは反省点がある。要求の点で業者とも一致することはあるかもしれない。航空、バス、タクシー、トラック業で物流分野の規制緩和が先行し、われわれも『反対』をかかげてきたが、実際行動は積極的でなかった。大店法の問題でもあまり精力的に動かなかった。もっと一緒にやるよう奮起する必要がある」と安田全港湾労組書記長は、労働新聞社のインタビューに答えて述べている。この観点は、今日きわめて重要である。
 労働者階級が「改革」、規制緩和で切り捨てられる国民諸階層と積極的に連携し、国民的運動の組織者となることが求められている。
 橋本政権の「改革」政治は窮地に立たされている。
 労働者階級は、「改革」政治をざ折させる国民運動の先頭にたとう。


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