971025 社説


ぎまん的な自民党景気対策 

 「改革」を挫折させ、国民多数のための経済政策を


  衆院財政構造改革特別委員会は二十日から、政府自民党が今国会の再重要法案と位置づける、財政構造改革法案の総括質疑を開始した。
 橋本首相は「景気回復が予想より遅れているのは否定できない」としながら「短期的な痛みを覚悟してでも、財政構造改革に取り組む必要がある」と法案の早期成立が不可欠と強調した。
 一方、自民党は二十日の臨時経済対策協議会で景気テコ入れのための緊急国民経済対策を固めた。不況の長期化、消費低迷の中で、強まる財界などの景気刺激策の要請にこたえようとしたものである。その内容は、通信分野などの規制緩和、土地流動化、中小企業対策、企業減税など税制改革の四本柱で、所得税減税や、消費税の撤廃など勤労国民の切実な要求には背を向け、総じて大企業の企業活動を支援するものとなっている。しかし打ち出された対策は、三塚蔵相が「財政法の基本に忠実に従い、補正予算の安易な編成をしない」と言明したとおり、財政構造改革との板挟みで、財政を縛られた即効性の無いものばかりである。この対策には企業家の中にも深い失望感が広がっている。
 このような中、債権・金融市場では「橋本首相退陣→財政構造改革の撤回→新政権で大規模な所得税減税の実施」などのうわさがまことしやかに流された。市場はこれに好感、相場が大きく動くなど、橋本首相にとっては背筋が寒くなるような事件もおこっている。「変調」をきたした日本経済の中で、まさに橋本政権の足下は、おおいに揺らぎ、六大改革など改革政治は深刻な危機に直面しているのである。

長期不況から抜け出せぬ日本経済

 不況、生活悪化の中で国民的な怒りをよそに、政府は、引き続き日本経済の「回復」基調を強調してきた。二十日から始まった日銀の定例の秋の支店長会議で、松下康雄総裁は「消費税率引き上げなどの影響が引き続きみられているが、全体として景気の緩やかな回復基調は崩れていない」との判断を示した。しかし、これは勤労国民の生活実感とはあまりにかけ離れたものである。
 実態はどうか、最近の経済指標はそれを、雄弁に物語っている。
 本年四―六月期(九七年第二四半期)の実質国内総生産(GDP)は、前期比でマイナス二・九%と大きく落ち込んだ。これは、年率に換算すると、マイナス一一・二%となる深刻さである。
 しかも、この程度でとどまっているのも、 昨年度の補正予算による公共事業の追加分が上乗せされた政府支出の増大、それになによりも円安効果での輸出の増加が景気を支えたからである。しかし今日、「財政構造改革」で財政を使った景気刺激はできない。「財政再建元年」とされる来年度、中央政府予算も九七年度予算比七%に削減。二○○三年までに赤字国債の発行をゼロにする「財政再建法案」が、まさに審議の途中である。
 また貿易黒字の増大には、アメリカからの強い圧力がかかっている。先の香港でのG7でも、三塚蔵相は黒字削減、規制緩和で国内市場を一層明け渡すことを再度国際的に約束させられた。港湾荷役問題の処理に見られるように、アメリカ産業界の要求は強硬で、それだけ日米経済摩擦を激化させるであろう。わが国政府が屈服し続ければ、国内産業はまさに地獄の苦しみを味わうこととなる。
 また、わが国最大の輸出市場のアジア(シェア三八%)は、タイの通貨不安に端を発して経済が減速し、通貨は下落し、円高となり、わが国企業の輸出環境は悪化せざるを得ない。八月のタイへの輸出は対前年比マイナス一八%となった。
 また、日本企業自身による海外生産体制、現地生産の拡大でも、自動車でいえば対米輸出は九八年度にも横ばいか、減少に転ずると見られている。輸出依存の「回復」は、長続きする条件がないのである。
 内外の政治、経済環境に押され「回復」基調を支えていたはずの諸要因が、完全に頭打ちとなっているのが現状である。
 鉱工業生産指数はこの四―六月期、マイナス〇・一%(前期比、以下同)、鉱工業出荷指数はマイナス一・六%、生産者製品在庫指数はプラス六・七%、製造工業稼働率指数は〇・〇%、実質民間企業設備投資はマイナス一・五%、実質民間住宅投資はマイナス一一・五%、民間最終消費はマイナス五・七%と軒並み大きな落ち込みを示し、景気悪化を如実に物語っている。
 このような中で、企業の景況感は急速に悪化している。日銀「短観」(主要企業、全国企業短期経済観測調査)では、前回六月時点で製造業の主要企業がまだ「業況」を、「よい」と見ていた(従って、非製造業主要企業や中小企業の景況感の悪化に比べ、二極分化が進んでいると見られていた)。だが今回の九月調査では、「景況感軒並み悪化」「消費低迷が響く、先行き不透明感一段と」とマスコミが見出しにつけたように、大企業も業況が「悪い」に転じた。今後十二月までの見通しでも、大企業から中小企業まで「悪化する」と見る企業が増加している。

一つの転機迎えた改革政治

 注目しなければならないのは、このような景気悪化、経済の「変調」、そしてその中での企業の対応と政府への要求の上に、今日の政治状況があることである。企業家たちの不満は高まり、政府の無策を厳しく批判している。ぎまん的であれ、自民党の緊急国民経済対策は、このような中で打ち出されたのである。
 行財政改革や、規制緩和などの改革政治で、支配層はただでさえ、中小事業者など歴史的な支持基盤を堀り崩し、敵に回さざるを得ない。その上に深刻な景気の冷え込みが襲いかかろうとしているのである。自民党内には「橋本栄えて、自民党滅ぶ」ではたまらないという、危機感に満ちた声が上がっている。参院選を控え、焦りだした議員たちは、伝統的な支持基盤である諸業界の怒りや要求を、ある程度反映せざるを得ないのである。すでに郵政三事業改革を掲げた行政改革会議の中間報告は、自民党内「族議員」らの反撃で撤回、後退を余儀なくされている。まさに、敵の改革政治の計画は、大きく狂わされているのである。

真の内需拡大こそ経済再生の道

 一方、総務庁の家計調査によれば、勤労者所帯で年収五百万以下の下位二〇%の層では、消費支出は九七年度明け以来落ち込みが続き、八月は前年同月比〇・七%減となった。低収入層の消費低迷が目立っている。国内総支出で最大のシェアを持つ個人消費を、消費税率五%、公共料金・医療費の引き上げ、特別減税廃止など、総額九兆円に上る負担増で内需を徹底的に冷やして、どんな景気対策も効果を上げるはずがない。
 日本総合研究所の試算によると、年収七百万円のサラリーマン世帯(夫婦と子ども二人)の負担増は年間約十八万円に上るという。民間消費にブレーキがかかって当然である。外需頼みの高成長が限界となった今日、国民経済を豊かにする真の内需拡大こそ求められている。消費税の撤廃、所得税減税の実施や、医療保険改悪など国民生活を苦しめる「改革」を撤回してこそ、わが国経済の活性化の道が開けるのである。
 自民党景気対策に示された通り、大企業にだけは法人税減税で救いの手をさしのべ、圧倒的多くの国内の中小零細業者、労働者には規制緩和を強要し、同時に財政構造改革という「財政再建政策」を進めれば、一段と景気が落ち込むことになりかねない。
 すでにわれわれが暴露してきた通り、政府の進める「改革」は、多国籍化した大企業が国際競争にうち勝つための国内環境の整備のための策略に過ぎない。財政危機からの脱出などの口実を見破って、犠牲を受ける中小事業者、国民は断じてこれを許さず闘わねばならない。あわせて、政府、自民党がぎまん的に画策する、多国籍大企業の利益本意の景気対策なるものの本質を暴露して、幻想を打ち破る必要がある。
 「改革」は重大な転機を迎えている。橋本政権を追いつめる好機である。「改革」を挫折させ、多国籍大企業の番頭役をつとめる政府を打ち破り、国民の多数のための政治、経済を実現しなければならない。


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