971015 社説


 転機迎える「改革」政治

 闘って窮地の橋本政権を追いつめよ


  第百四十一臨時国会が九月二十九日、開会された。国会冒頭から橋本政権の求心力の弱まりが指摘されている。
 深刻化する長期不況の中で景気対策は待ったなしだが、財政構造改革との板ばさみで出口が見いだせない。一方、郵政三事業の改革案への与党、自民党内からの強い反発など、行政改革は後退を余儀なくされた。
 「政策課題で三重苦」とマスコミが評する通り、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しによる有事法制整備や財政改革法案その他、懸案は山積みである。
 無投票で自民党総裁に再選され、磐石に見えた第二次改造橋本政権だが、ここにきて明らかに行き詰まりの様相を強めている。
 「改革」をめぐる攻防は、局面の変化を迎えている。この情勢を正しくとらえ、機を逃がさず闘いを強化することは重要な課題となっている。

噴き出した深刻な諸矛盾

 第二次橋本改造内閣は、その内閣改造の最初でつまずいた。国民の怒りは、まず汚職議員の佐藤孝行の総務庁長官就任問題で最初に噴出した。国民の予想以上の反発に、橋本首相はあわてて佐藤孝行の首を切ったが、自らも指導力のなさ、党内基盤の弱さを衆目にさらすこととなった。国民はこの事件を契機に、いっきに自民党政治、橋本政権への不満を噴出させた。
 世論調査では、橋本内閣への国民の支持は急速に失われた。たとえば、共同通信社の世論調査(九月十三、十四日実施)では、橋本内閣支持はわずか二八%、不支持は五〇%にのぼった(七月時点では支持は五九%だった)。
 この背景には、消費税率引き上げでの国民負担増、特別減税廃止、医療費引き上げの負担増、公共料金引き上げなどが国民生活を直撃し、生活条件が悪化したことがまずあげられる。また、石油卸商・泉井にからむ自民党の腐敗や四大証券会社や巨大銀行の右翼総会屋・暴力団との癒着構造の暴露なども国民の憤激を集めた。
 しかし、なんといっても決定的だったのは自民党内部の矛盾が激化したことである。中小商工業者が「改革政治」強行の自民党から離反し、自民党は、その支持基盤に大きな亀裂が進んだ。
 野党が国民の憤激を組織して、自民党と橋本政権を攻めたわけではない。ここに今日の政治情勢の一つの重大な特徴がある。敵は「改革」で自らその存立の足下をほり崩しているのである。

揺らぐ橋本政権の基盤

 財界の強い要求を受けて、「六大改革」に踏み出した橋本内閣であったが、その政権の基盤は不安定であった。社民党、さきがけを閣外協力に引き込んでかろうじて政権が維持された。
 橋本は「火だるまになって」と財界の求める「六大改革」の旗を振り、また、そうすることで財界の全面的バックアップを確保しようとした。厚生省など中央官僚の腐敗も意図的に暴露して、「改革」の世論をあおった。こうして、共産党を除けば国会内に野党は事実上存在しないといった「翼賛」状況を作り出すことに成功し、橋本と自民党は通常国会を乗り切ったのである。
 米軍用地特措法問題では、政局は不安定化するかに見えたが、いわれるところの「保保」で乗り切った。社民党が特措法に「反対」したが、与党ぼけした社民党には、労働者階級に呼びかけて闘う意思も、力もないことを橋本首相や加藤紘一自民党幹事長らは見抜いていた。消費税率引き上げでも、社民党をはじめ国会では無抵抗だった。連立与党の協力と、「改革」で一致する野党に助けられ、橋本はその「改革」政策を推進してきたのである。
 しかし、そこまでだった。
 われわれが何度も指摘してきたように、そもそも、「六大改革」のどの一つも、これまでの伝統的な自民党の支持基盤を敵に回してしか実現できないものだった。現実に規制緩和は中小の商工業者を、郵政三事業問題は、自民党の最大の集票マシーンの一つ、特定郵便局長会を、公共事業費削減は建設業界を直撃した。特に先行していた大店法などの規制緩和で中小小売商は致命的な打撃を受けて、自民党政治への不満を強めていた。そこに一段の規制緩和を柱とする改革攻撃が始まった。怒りを噴出させたのは当然である。トラック協会、特定郵便局長会、電機商組合などがあいついで全国規模で決起大会を開いて、規制緩和問題などで政府に要求を突きつけた。また、各県では、商工会議所や中小企業中央会など地域の経済団体が共同して、大店法規制緩和反対などの要求を掲げて、決起大会を開催している。
 これらの集会では、これまで「陳情政治」で相互依存の関係にあった自民党「族議員」への批判もあいついで表明されるなど、中小商工業者の政治意識と行動に変化が表れていた。地域での自民党の支持基盤、保守支配の基盤は、急速に瓦解している。こうした状況が、選挙を目前に控えた参議院を始め、自民党の国会議員たちにもいくらかは反映した。
 これらが佐藤孝行問題や郵政三事業問題などでの自民内の反発、対立となって表面化したのである。

敵の計画狂わす経済の変調

 本年四〜六月期(九七年第2四半期)の実質国内総生産(GDP)は、前期比でマイナス二・九%と大きく落ち込んだ。九五年、九六年、そして今年一〜四半期と「回復基調」といわれてきた状況が「変調」をきたしていることは明らかである。この落ち込みは、年率に換算するとマイナス一一・二%となる深刻さである。
 しかも、この程度でとどまっているのも、 昨年度の補正予算での公共事業の追加分が上乗せされた政府支出の増大、それになによりも円安効果での輸出の増加が景気を支えたからである。しかし今日、「財政構造改革」で財政を使った景気刺激はできない。また貿易黒字の増大には、アメリカからの強い圧力がかかっている。最近のG7では、あらためて黒字削減と内需拡大を約束させられた。一層の規制緩和で国内諸産業を犠牲にさしだす以外に手はなくなっている。
 豊田経団連会長は、この夏の経団連総会で改革政治加速の条件として、(1)経済状況がよいこと、(2)国民的なコンセンサス、それに(3)橋本首相の主導性の三点をあげた。
 もともと、昨年の総選挙後の時期に財界と橋本が「改革」に踏み切ったのも、円安に支えられた景気の急テンポな回復があったからである。それなしに国民各層に大変な犠牲を強いることになる「改革」政策は困難だった。始まった経済の逆風下での「改革」には、より激しい抵抗が予測される。支配層は見通しを大きく狂わされているのである。

橋本を追いつめる闘いを

 多国籍化した巨大企業が国際競争にうち勝つための国内環境の整備としての「改革」は、その第一ラウンドが終わりつつあり、橋本政権の主導性は失われつつある。政治状況は一変した。橋本は、傷口を広げないようにと郵政三事業「改革」などいち早く撤退を決め、矛盾を緩和しようとしているが、ことはそれで済むものではない。 
 実生活からの国民の「改革政治」への「疑問」は、ますます広がり、現実の政治への怒りとなり、力となりつつある。政治を変えようと闘ってきたものにとって「またとないチャンス」、いままさにそうした状況が進展している。
 決定的な力は労働者階級の中にある。
 中小商工業者など諸階級が「改革」の痛みに怒って、行動を始めている。見たように、この大衆行動こそ敵にとっておそるべき力となっている。
 橋本を支え続けた社民党や議会の野党に期待できないことはもちろんだが、共産党がいう「選挙を軸に」などでは、当面の闘う力は作れず、敵を追いつめることなどできない。 規制緩和との闘いなど労働組合運動には積極的変化が生まれている。中間諸階層への敵の様々な懐柔策を打ち破るうえでも、労働者階級の闘いこそ、真の力である。これを一層拡大させなければならない。そして、労働者階級は、「改革政治」の狙いと実態をはっきりつかんで、自ら立ち上がって闘うと共に、中小商工業者など各界の闘いと積極的に連携して、国民的闘いを組織しなければならない。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997